再生医療解説|ヒト血小板溶解液系の点鼻投与が生理痛のひどい症状を和らげる作用機序
当社に報告されている自由診療下の臨床所見として、ヒト血小板溶解液系を点鼻投与した症例において、生理痛が著しく緩和した事例があります。
中には、長年「非常に重い生理痛」に悩んでいた30代半ばの女性が、投与中に症状が完全に消失し、その後も8か月以上痛みなく過ごしている(現在も記録を更新中)という報告もあります。
本稿では、生理痛の症状と体内で起きている変化を年代別に整理したうえで、このような現象が生じ得る可能性について、既存の学術的知見に基づき想定される作用機序を仮説します。
生理痛の症状と病態
生理痛(月経困難症)を理解するために、代表的症状と体内機序を一対一で示します。
■1. 下腹部痛・腰痛
子宮内膜がはがれるときにはプロスタグランジン(PGF2α, PGE2)が増えます。
その結果、子宮筋は強く収縮し、血流が減って虚血が起こります。この虚血が末梢神経の侵害受容体(痛みを感じるセンサー)を刺激し、生理痛の痛みにつながります【文献1】【文献2】。
これは一次性月経困難症(月経に伴う機能的な痛み)において中心的な機序です。
■2. 頭痛・吐き気・下痢
プロスタグランジンが全身循環に入ると、血管の反応や消化管の運動に影響を与えます。
その結果、血管性頭痛や吐き気、下痢といった消化器症状が生じます【文献1】。
■3. 冷え・だるさ
子宮が過度に収縮して虚血が起こると、交感神経が優位になり、末梢の血管が収縮します。
その結果、体が冷えやすくなり、全身の酸素供給が不足して倦怠感につながります【文献2】。
■4. 鎮痛薬が効きにくい痛み
痛みの信号が繰り返されると、中枢感作(脊髄や脳での痛み増幅)が起こります。
さらに下行性痛覚抑制系(脳幹から脊髄へ痛みを抑える回路)が弱まると、同じ刺激でも強い痛みとして感じやすくなります【文献3】【文献4】。
■5. 器質的要因による持続痛
子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫といった二次性の原因がある場合には、慢性炎症や構造の変化が起こります。
これらが痛みを強め、月経期以外の時期にも痛みが続くことがあります【文献5】【文献6】。
ヒト血小板溶解液系の成分と特性
本稿で扱うヒト血小板溶解液系とは、ヒト血小板溶解液(Human Platelet Lysate, HPL)を中核に、そこに含まれる細胞小胞(エクソソームなどの細胞外小胞)と、上流素材である>多血小板血漿(Platelet‑Rich Plasma, PRP)までをひとまとめにした呼称です。
この系は、(1)可溶性成分と(2)細胞小胞(エクソソームなど)という二つの存在形態で分子を届けます。両者には次の分子群が含まれます(含まれる分子群の多くは重複しています)。
- 抗酸化酵素:SOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(可溶性/細胞小胞内)【文献7】【文献8】。
- 成長因子:PDGF、IGF‑1、VEGF、HGF、EGF、BDNF、NGF(可溶性/細胞小胞内)【文献7】【文献9】。
- miRNA:炎症・ストレス関連遺伝子の発現を調整(主に細胞小胞内)【文献10】【文献11】。
- アルブミン:Cys34でラジカルを捕捉し抗酸化バッファとして働きます(可溶性)【文献12】。
プロテオミクスの解析では、数百種類のタンパク質が同定されています(推定値を含めると千種類を超えることも想定されます)。
同じ働きをもつ分子が異なる存在形態にまたがって重複して存在するという冗長性は、炎症や酸化ストレス、血流、神経可塑性といった複数の仕組みに対して安定して作用できる点で有利です【文献7】【文献9】【文献12】。
点鼻投与の特徴と中枢への到達性
点鼻で投与された分子は、嗅神経や三叉神経に沿う経路と血管周囲腔を介して移動し、数分から十数分のうちに脳や脳幹に到達することが示されています【文献13】【文献14】。
可溶性成分は組織液や血流に速やかに広がり、抗酸化酵素が過剰なROSを処理し、アルブミンがラジカルを捕捉して酸化ストレスを抑え、成長因子が神経や血管の安定化を助けます。
一方で、細胞小胞は鼻腔から中枢へ運ばれ、抗酸化酵素や成長因子、miRNAといった内容物を標的細胞内に届けることで、作用を遅れて長く持続させます【文献15】。
この二つの存在形態が補完し合うことで、自律神経中枢(視床下部・脳幹)や痛み制御回路(PAG–RVM–脊髄)に直接働きかける可能性が生まれます【文献4】【文献13】。
想定作用機序(時間軸に沿う三段階)
生理痛の病態に合わせ、ヒト血小板溶解液系は、可溶性成分が短時間で広域に作用して急性期の強い痛みを鎮め、細胞小胞が遅れて持続的に働き、炎症や痛みが再び強まるのを防ぐという動態の違いを活かして作用すると考えられます。
■1. 第1段階(即時〜24時間):酸化ストレスと炎症の鎮静
可溶性成分は、まず組織液に広がります。SOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼといった抗酸化酵素は、そこで過剰なROSを処理し、NF-κBの活性とプロスタグランジン産生の駆動を下げます。さらにアルブミンのCys34残基はラジカルを捕捉し、酸化ストレスの増幅を抑えます【文献1】【文献7】【文献12】。
一方で、細胞小胞は抗酸化酵素や抗炎症性miRNA(例:miR-223)を細胞内に届けます。これらの分子は、内皮接着分子や炎症関連遺伝子の過活動を抑え、子宮や脊髄レベルでの神経の過敏化を弱め始めます【文献10】【文献11】。
[1] 病態の変化
子宮の収縮によって生じる痛みの信号は、短時間で弱まります。そのため、鎮痛薬が効きにくい場合でも、強い痛みが急速に低下することがあります【文献2】【文献3】。
■2. 第2段階(数日):微小循環の整備と回路の立て直し
VEGF、HGF、PDGFは、血管内皮細胞の生存を助け、細胞どうしの接合を支えます。これにより局所の血流(微小循環)が安定し、虚血が軽くなります。虚血が軽くなると、子宮収縮に伴う虚血から痛みへ至る再燃の連鎖が起こりにくくなります【文献7】【文献9】。
IGF-1、BDNF、NGFは、PI3K/Akt・ERK・CREB経路を介して神経細胞の生存を助け、シナプスの可塑性を高めます。さらにこれらの働きによって、脳幹から脊髄へ向かう下行性痛覚抑制系が整えられます【文献4】【文献9】【文献16】。
[1] 病態の変化
痛みの強さの変動幅が小さくなります。そのため、日常の動作や体温の変化によって痛みがぶり返す回数が減ります。
■3. 第3段階(1週間以降):遺伝子発現の調整と再燃抑制
細胞小胞の中に含まれるmiRNAは、受け手となる細胞の中で炎症やストレスに関わる遺伝子の働きを調整します。その結果、ミクログリアの性質が炎症促進型から修復促進型へと変わります【文献10】【文献11】。
また、成長因子が継続的に供給されることで、神経細胞どうしのつながり(シナプス)が維持され、神経回路の再編が支えられます。これによって、慢性的な過敏状態に逆戻りすることが防がれます【文献9】【文献16】。
[1] 病態の変化
痛みがぶり返しにくい安定した状態が形成されます。そのため、点鼻を中断しても効果は長く続くと説明できます。このことは、本症例で報告された長期にわたる無痛経過と一致します【文献3】【文献4】。
年代別にみる病態差と恩恵の受けやすさ
年代によって主な病態の比重が異なります。その違いによって、点鼻投与から得られる恩恵の受けやすさにも差が生じます。
■1. 10代後半〜20代(一次性が中心)
この年代の中心的な病態は、プロスタグランジンの過剰産生、子宮の虚血、そして末梢や中枢における神経の過敏です。器質的な疾患はまだ少ない段階です【文献1】【文献2】。
点鼻投与に期待できる効果は、中枢の過敏状態のリセット、自律神経の安定化、そして抗酸化作用による即時的な鎮静です。さらに、この年代では神経可塑性が高いため、長期的な安定につながりやすいと推測されます【文献3】【文献4】。
■2. 30代前半〜後半(移行期)
この年代の中心的な病態には、一次性の要素に加えてホルモンバランスの揺らぎや中枢感作の固定化が目立ち始めることがあります。さらに、子宮内膜症や子宮腺筋症といった二次性の疾患も増えてきます【文献5】【文献6】。
点鼻投与に期待できる効果は、痛みの回路における過敏化と自律神経の乱れを整えることで、症状の強さや変動を大きく下げることです。今回報告された30代半ばの症例で長期間にわたり無痛状態が続いている事実は、痛み回路の再編と痛みの再発を防ぐ仕組みが成立したことを示唆しています【文献3】【文献4】。
■3. 40代(周閉経期を含む)
この年代の中心的な病態は、ホルモンの変動が大きくなることと、器質的な疾患の関与が相対的に増えることです。
点鼻投与に期待できる効果は、抗酸化作用や抗炎症作用、さらに下行性抑制の強化によって症状の波を軽減することです。ただし、器質的な病変そのものが主な原因である場合には、点鼻投与は補助的な位置づけにとどまります【文献5】【文献6】。
今回の症例をどう理解するか(30代半ば、投与中に消失→中止後も8か月無痛)
- 第1段階では、ROSと炎症ドライブが下がり、痛みの閾値が短時間で上昇します。
- 第2段階では、微小循環と下行性抑制系が整い、痛みがぶり返しにくい状態をつくる地ならしが進みます。
- 第3段階では、miRNAが遺伝子レベルで調整を行い、痛みの再発を防ぐ基盤が形成されます。
この三つの段階が連続することで、点鼻中に得られる速効性と、点鼻を中止した後にも続く長期的な安定性を同時に説明できます【文献3】【文献4】【文献10】。
なお、点鼻は、病巣そのもの(たとえば子宮内膜症の病変)を除去する治療ではありません。つまり、炎症や酸化ストレス、神経の過敏さを下げ、自律神経と痛みの回路を整えることで、症状を大幅に軽くする補助療法として位置づけるのが妥当です【文献5】【文献6】。
専門用語一覧
- ヒト血小板溶解液(HPL):ヒト血小板を破砕して得る液体。成長因子・抗酸化酵素などを含みます。
- 可溶性成分:血漿中に溶けた成分群。成長因子・抗酸化酵素・アルブミンなど。広く速く届きやすい。
- 細胞小胞(エクソソームなど):膜で包まれた微小粒子。タンパク質・脂質・miRNAなどを内包し、標的細胞へ中身を届けます。
- プロスタグランジン(PG):子宮収縮を強める脂質メディエーターです。PGF2α, PGE2が代表。
- 活性酸素(ROS):細胞に負担をかける反応性の高い酸素分子。過剰だと炎症や痛みが増します。
- 中枢感作:脊髄・脳で痛み信号が増幅しやすくなる状態。慢性痛の背景になります。
- 下行性痛覚抑制系:脳幹から脊髄へ“痛みを抑える”信号を送る回路。整うと痛みを感じにくくなります。
- 微小循環:毛細血管レベルの血流。十分だと虚血による痛みが起きにくくなります。
- シナプス可塑性:神経細胞どうしのつながりが強まったり弱まったりする性質です。学習や回路の再編に重要。
- miRNA:遺伝子の働きを微調整する小さなRNA。炎症・ストレス応答を調整します。
- アルブミンCys34:アルブミンの特定部位。ラジカルを捕捉して抗酸化的に働きます。
- PRP(多血小板血漿):血小板を濃縮した血漿。成長因子などを豊富に含みます。
- 冗長性:似た働きを持つ因子が重なって存在し、機能が安定して保たれるしくみです。
- 抗酸化酵素(SOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなど):体内で生じる活性酸素を分解・無害化する酵素群です。SODはスーパーオキシドを分解し、カタラーゼは過酸化水素を水と酸素に変え、グルタチオンペルオキシダーゼは過酸化物を還元します。
- 成長因子(PDGF、IGF‑1、VEGF、HGF、EGF、BDNF、NGFなど):細胞の増殖や分化、生存を促すたんぱく質群です。PDGFやVEGFは血管や組織修復に、IGF‑1やHGFは細胞成長に、BDNFやNGFは神経の保護や再生に重要です。
- 痛み制御回路(PAG–RVM–脊髄):中脳水道周囲灰白質(PAG)から延髄縫線核(RVM)を経て脊髄へ下行し、神経伝達を抑制または増強して痛みの感じ方を調節する経路です。
- PI3K/Akt:細胞内シグナル経路で、成長因子の刺激により活性化されます。細胞の生存、増殖、代謝を促進し、神経保護や可塑性の維持にも重要な役割を果たします。
- ERK:MAPキナーゼ経路の一部を担う酵素で、細胞外刺激に応答して活性化されます。細胞の増殖や分化、生存、さらに神経の可塑性や記憶形成にも関与します。
- CREB:細胞核内に存在する転写因子で、リン酸化されると標的遺伝子の発現を促進します。神経細胞の可塑性、学習や記憶、細胞の生存維持に重要な役割を果たします。
- NF-κB:炎症や免疫応答を制御する転写因子群です。刺激を受けると核に移行し、炎症性サイトカインや接着分子など多くの遺伝子の発現を促進して、免疫・炎症反応を活性化します。
- ミクログリア:中枢神経系に存在する常在性の免疫細胞です。病原体の排除や不要物の貪食を行い、炎症反応を調節します。神経保護と神経炎症の両面に関与します。
- 酸化ストレス:体内で発生する活性酸素種の産生が抗酸化防御を上回り、細胞や組織のタンパク質・脂質・DNAが酸化的損傷を受ける状態を指します。
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執筆者
■博士(工学)中濵数理
- 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
- 沖縄再生医療センター:センター長
- 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
- 日本再生医療学会:正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
- 日本バイオマテリアル学会:正会員
- 公益社団法人高分子学会:正会員
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