再生医療解説|ヒト血小板溶解液の点鼻投与で「智歯(親知らず)の激しい歯痛」が消えた理由

再生医療解説|ヒト血小板溶解液系の点鼻投与で「智歯(親知らず)原因の激しい歯痛」が消えた理由

当社に報告されている自由診療下の臨床所見として、ヒト血小板溶解液を点鼻投与した症例において、投与開始翌日に智歯(親知らず)抜歯前の強い歯痛が消失した事例が確認されています。このような臨床所見はこれまでに3例報告されています。

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ただし、その効果や即効性は極めて顕著であり、臨床的な妥当性について慎重な検討が求められます。本稿では、このような現象が生じ得る可能性について、既存の学術的知見に基づき想定される作用機序を整理します。

歯痛の症状と病態

智歯(おやしらず)周囲炎や埋伏歯の圧迫は、歯髄・歯根膜・歯槽骨に炎症を起こし、三叉神経(上顎神経・下顎神経)末端の末梢感作と、延髄の三叉神経脊髄路核(尾側亜核)での中枢感作を引き起こします【文献1】【文献2】。

このとき、炎症で増えた活性酸素(Reactive Oxygen Species, ROS)が感覚神経のTRPA1/TRPV1チャネルを刺激し、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やサブスタンスPの放出を増やして神経原性炎症を拡大させ、拍動性の激痛を生みます【文献1】【文献11】。

結果として、末梢の神経が敏感になり、さらに中枢でも痛み信号が増幅される状態が重なって、鎮痛薬に反応しにくい強い痛みが続きます。【文献2】。



ヒト血小板溶解液系の成分と特性

本稿でいうヒト血小板溶解液系とは、ヒト血小板溶解液(Human Platelet Lysate, HPL)を中核に、そこに含まれる細胞小胞(エクソソームなどの細胞外小胞)と、上流素材である多血小板血漿(Platelet‑Rich Plasma, PRP)までをひとくくりにした呼称です【文献6】【文献9】【文献10】。

この系では、「可溶性成分」と「細胞小胞の内包成分」という二つの存在形態が混在しており、両者には多種多様な分子群が含まれています(含まれる分子群の多くは重複しています)。

その代表例として、PDGF/IGF‑1/HGF/VEGF/EGF/BDNF/NGFなどの成長因子、SOD/カタラーゼ/グルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素miRNAアルブミンが挙げられます【文献6】【文献9】【文献12】【文献13】。

また、網羅的プロテオミクスによって数百種類ものたんぱく質が同定されており、推定上の数値まで含めると、実に千種類を超える分子群が存在すると考えられています【文献12】。

このように、同じ機能を持つ分子が異なる存在形態にまたがって含まれており、互いに重複しながら働くことで、炎症や酸化ストレス、血流や神経の異常といった複数の仕組みに対しても安定して作用できる「冗長性」を備えていると考えられます。



点鼻投与の特徴

点鼻投与では、投与した成分が 嗅神経や三叉神経に沿った鼻腔から脳・脳幹へ向かう経路と、血管周囲腔(perivascular spaces)を通る経路を介して移動します。そして数分から数十分のうちに、前脳・脳幹・三叉神経節へ到達すると考えられます【文献3】【文献4】【文献5】。

特に三叉神経を経由する経路では、投与した成分が鼻腔から口腔や顔面の領域へ運ばれます。この経路を通ることで、歯・顎関節・咀嚼筋など三叉神経が支配する組織に高い濃度で届く可能性が示されています【文献5】。

このように、点鼻投与では、成分が神経系を担う重要な組織に素早く届きます。この特性は、冒頭で紹介した「翌日から痛みが劇的に消えた」という臨床報告と矛盾なく説明できます【文献3】【文献5】。



想定作用機序(重複成分を動態の違いで活かす三段階)

■1. 第1段階(即時〜24時間)— ROSと神経炎症の鎮静

まず、過剰な活性酸素(ROS)と炎症シグナルを抑えることで、末梢と中枢の神経の過敏さが急速に低下します。

  • 共通して働く成分:SODカタラーゼグルタチオンペルオキシダーゼといった抗酸化酵素は、過剰なROSを処理することでNF-κBの過活動とCGRPの放出を抑えます。さらにアルブミンは、Cys34部位でラジカルを捕捉することにより酸化ストレスの増幅を防ぎます【文献1】【文献11】。
  • 時間特性と標的化:可溶性成分は、組織液に広く速く行き渡ることで即効的に作用します。これに対して細胞小胞は、抗酸化酵素やmiR-223などを細胞内へ直接届け、時間をかけて炎症を持続させている状態を鎮めます。具体的には、内皮のICAM-1やNF-κB系の活性を抑える方向に働きます【文献7】【文献12】【文献15】。
  • 病態との対応:三叉神経の末端では、TRPA1/TRPV1を介した興奮とCGRPによる炎症ループが弱まり、末梢の神経の過敏さが下がります。同時に、三叉神経脊髄路核ではミクログリアの活性が抑えられ、中枢の神経の過敏さが高まりにくくなります。こうした変化が重なり、翌日から痛みが消えるという劇的な効果につながった可能性があります【文献1】【文献2】【文献11】。

■2. 第2段階(数日)— 神経・血管ネットワークの整備

次の段階では、神経回路が安定し、毛細血管レベルの血流が改善します。こうした変化によって、痛みが再び強まることを防ぎやすい状態がつくられます。

  • 共通して働く成分:VEGFHGFPDGFは血管内皮細胞の生存を支え、細胞どうしの結合を保つことで局所の血流を安定させます。さらにIGF‑1BDNFNGFPI3K/AktERKCREBといった細胞内のシグナル経路を通じて、神経細胞の生存を助け、可塑性を高めます【文献6】【文献9】【文献16】。
  • 時間特性と標的化:可溶性の成長因子は、短時間で広い範囲に作用します。これに対して細胞小胞は、同じ成長因子や関連たんぱく質を分解から守り、細胞内に届けることで有効な濃度を保ちやすくします。その結果、作用が遅れて現れ、長く続いて神経回路の安定化に寄与します【文献7】【文献13】。
  • 歯髄や歯根膜、顎の周囲では、腫れ(浮腫)と血流不足(虚血)が改善します。その結果、痛みを引き起こす物質が除去されやすくなり、嚙んだときや口を開けたときの痛みが再び起こる可能性が低くなります【文献6】【文献9】。

■3. 第3段階(1週間以降)— 遺伝子発現の調整と再燃抑制

最後に、細胞小胞に含まれるmiRNAが遺伝子の働きを調整し、神経が再び過敏な状態に戻るのを防ぎます。

  • 共通して働く成分:継続的に供給される成長因子は、神経細胞どうしのつながり(シナプス)を保ち、神経回路を作り直す働きを支えます【文献9】【文献16】。
  • 時間特性と標的化:細胞小胞に含まれるmiRNAは、取り込まれた細胞の中で炎症やストレスに関わる遺伝子の働きを調整します。その結果、脳内の免疫細胞であるミクログリアは、炎症を強める型から修復を助ける型へと性質が変わります【文献7】【文献14】【文献15】。
  • 病態との対応:遺伝子の働きが調整されることで炎症が再燃しにくくなり、痛みが慢性的に続くことを防ぎます。そのため、寝起きや体を動かしたときのように負担がかかる場面でも、痛みが強まることが少なくなります【文献2】【文献14】。



即効性が説明できる理由

以下の三つの条件がそろうと、痛みを維持していた閾値が一気に下がり、一晩のうちに痛み信号が大きく低下することがあります。

  • 到達の速さ:点鼻で投与された成分は、三叉神経を経由して脳幹核に届くまでの経路が短く、数分から十数分という速さで到達します【文献3】【文献5】。
  • 標的の一致:智歯に由来する痛みは三叉神経が支配しています。そして点鼻で投与した成分は、この三叉神経経路に高い濃度で届くことが示されています【文献5】。
  • 分子の補完:可溶性の抗酸化酵素は、投与後すぐに炎症を鎮めます。これに続いて、細胞小胞に含まれる抗酸化酵素miRNAが細胞内に取り込まれ、作用が遅れて現れながら長く続きます。さらに成長因子が働くことで、神経や組織の回復を支える土台が整います【文献6】【文献7】【文献12】。

これらの条件がそろうと、TRPA1ROSCGRPの連鎖的な活性が短時間で抑え込まれます。その結果、末梢と中枢の神経の過敏さが急速に低下し、翌日の劇的な鎮痛を説明できます【文献1】【文献11】。

まとめ

ヒト血小板溶解液系の点鼻投与には二つの特徴があります。

ひとつは、成分が三叉神経や脳幹といった標的部位に速く届くことです。もうひとつは、抗酸化酵素成長因子miRNAといった多様な分子を、可溶性成分と細胞小胞の両方の形で同時に運べることです。

これらの特徴が重なることで、第1段階(即時の鎮静)→第2段階(数日の修復)→第3段階(長期の安定化)という時間軸に沿って作用が進みます。その結果、ROSに駆動されるTRPA1/CGRPループと神経炎症が抑えられ、微小循環とシナプス機能が整い、再燃しにくい状態が作られます。

この一連の流れを作用機序として仮定すると、翌日から痛みが劇的に消えたという臨床所見を説明できます【文献1文献16】。



専門用語一覧

  • 抗酸化酵素(例:SOD/カタラーゼ/グルタチオンペルオキシダーゼ):
  • 成長因子(例:PDGF/IGF‑1/HGF/VEGF/EGF/BDNF/NGF):
  • miRNA(例:miR‑223):遺伝子の働きを微調整する小さなRNA。炎症や接着分子の発現を下げる方向に働く報告があります。
  • アルブミン:血漿の主要な運搬たんぱく質。特定の部位でフリーラジカルを捕捉し抗酸化的に働きます。
  • エクソソーム(細胞小胞):脂質膜の超微小な小胞。中に成長因子抗酸化酵素miRNAを入れて細胞へ届けます。
  • 三叉神経:顔面・口腔の感覚を脳に伝える脳神経(眼・上顎・下顎の三枝)。歯痛は主に上顎・下顎枝が関与します。
  • 末梢感作/中枢感作:末梢末端または脳幹・脊髄で痛み回路が敏感化し、痛みが増幅・持続する状態。
  • 活性酸素(ROS):反応性の高い酸素分子。増えすぎるとイオンチャネルや受容体を刺激して痛みを強めます。
  • TRPA1/TRPV1:温度・化学刺激や酸化ストレスで開くイオンチャネル。歯髄や三叉神経で痛覚増幅に関与します。
  • CGRP:三叉神経から放出される神経ペプチド。血管拡張と神経炎症を介して痛みを増幅します。
  • 血管周囲腔:脳の血管の周りの細い流路。点鼻後の成分が広がる通り道の一つです。
  • サブスタンスP:痛みの神経から放出される神経ペプチドで、炎症や血管拡張を促し、痛みを強める役割を持ちます。
  • Cys34:アルブミン分子の34番目に位置するシステイン残基で、活性酸素やフリーラジカルを捕捉する抗酸化機能を担います。
  • PI3K/Akt:細胞内シグナル経路で、成長因子刺激により活性化し、細胞の生存・増殖・代謝や神経の保護に関与します。
  • ERK:細胞内シグナル伝達に関わる酵素群で、増殖因子などで活性化され、細胞の増殖・分化・生存や神経の可塑性を調節します。
  • CREB:細胞内の転写因子で、リン酸化されると遺伝子発現を促進し、神経の可塑性や記憶形成、細胞の生存に関与します。
  • ミクログリア:中枢神経系に存在する免疫細胞で、不要物の除去や炎症応答を担い、神経保護と神経炎症の両面に関与します。



参考文献一覧

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執筆者

代表取締役社長 博士(工学)中濵数理

■博士(工学)中濵数理

  • 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
  • 沖縄再生医療センター:センター長
  • 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
  • 日本再生医療学会:正会員
  • 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
  • 日本バイオマテリアル学会:正会員
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