耳鳴りの治し方:原因に応じた効果的な治療戦略
耳鳴りとは、周囲に音がないにもかかわらず耳の中で「ジー」「キーン」などの音が聞こえる症状です。その多くは本人にしか聞こえない自覚的耳鳴りですが、少数ながら他人にも確認できる他覚的耳鳴りも存在します。耳鳴り自体は疾患ではなく症状です。しかし、しばしば慢性化して生活の質を損ねる原因となります。
しかし、耳鳴りに悩む人は決して珍しくありません。世界では約14%もの人が何らかの耳鳴りを経験すると報告されており【文献1】、その中でも約1割の人々にとっては日常生活に支障をきたす深刻な問題となっています【文献1】。高齢になるほど耳鳴りの訴えは増える傾向があり、加齢や騒音曝露による難聴が最大のリスク要因とされています【文献1】【文献4】。
そのため、耳鳴りの治し方を考える上では、まず耳鳴りがなぜ起こるのか、その原因やメカニズムを理解することが重要です。また原因によって適切な治療法や対処法は異なるため、根本原因の解明とそれに応じた戦略的なアプローチが求められます。本記事では、最新の研究知見【文献5】や臨床ガイドライン【文献2】も踏まえ、耳鳴りの原因から効果的な治療法までを総合的に解説します。
耳鳴りの原因と発生メカニズム
まず、耳鳴りという現象を正しく理解することが、適切な対策の第一歩になります。耳鳴りは音の種類や性質が人によってさまざまで、高い金属音から低いうなり音まで多様な音色で現れます。また聞こえ方の程度も、一時的に数秒感じる程度の軽微なものから、常に鳴り続ける慢性的なものまで幅広く存在します。
一方で、耳鳴りにはいくつかのタイプがあり、大きく分けると自分にしか聞こえない「自覚的耳鳴り」と、稀ではありますが他人にも確認できる「他覚的耳鳴り」に分類されます。特に大多数を占める自覚的耳鳴りでは、耳や脳の神経活動の乱れが主な原因と考えられています【文献4】。他覚的耳鳴りの場合は血流の音や筋肉の収縮音など、物理的な音源が存在する点で異なります。
さらに、耳鳴りを引き起こす原因やその悪化要因を知ることも重要です。耳鳴りの背景には、加齢による難聴や長年の騒音曝露といった聴覚のダメージが関与する場合が多くあります【文献1】【文献4】。そのほかにも耳の病気やストレスなど複数の要因が絡み合って症状が現れるため、原因を正確に突き止めるには包括的な視点が求められます。
■1. 耳鳴りの定義と特徴
耳鳴りは専門的には「外部に音源がないにもかかわらず音が聞こえる知覚現象」と定義されます。つまり、実際には存在しない音が聞こえる点で幻覚の一種ともいえますが、聴覚系の異常興奮によって生じる現実の知覚体験です【文献4】。感じる音の種類は人それぞれで、鈴の音のような高音や虫の羽音のような低音、さらにはセミが鳴くようなジーという雑音まで、多岐にわたります。
また、耳鳴りの感じ方には個人差が大きく、症状の出方もさまざまです。例えば、誰にでも起こりうる一過性の耳鳴りとして「キーン」という数秒程度の短い音が時折聞こえることがあります。一方で、難聴を伴う人などでは常に「ジー」という音が鳴り続ける慢性的な耳鳴りに発展することもあります。そのため、耳鳴りの程度や特徴を正確に把握することが、治療方針を立てる上で重要になります。
[1] 耳鳴りの音の性質
- 高音性耳鳴り:高い周波数の「キーン」という金属音に近い耳鳴りで、加齢性難聴や騒音性難聴で生じやすい。
- 低音性耳鳴り:低い周波数の「ブーン」という唸るような耳鳴りで、耳管機能異常やメニエール病など内耳の圧力変動で起こることがある。
- 雑音性耳鳴り:虫の羽音やセミの鳴き声のような複雑なノイズ型の耳鳴りで、原因は様々だがストレスや疲労で悪化しやすい。
以上のように、耳鳴りで聞こえる音の性質は多岐にわたります。それぞれの音質は内耳や聴覚神経の損傷部位や異常の種類によって決まると考えられます。高音域の耳鳴りは加齢や騒音による高周波数帯の聴力低下に関連し、低音域の耳鳴りは耳の圧力調節異常と関係する場合があります。雑音のような耳鳴りは明確な音程を持たず、しばしば心理的ストレスによって主観的な大きさが増すことが知られています。
[2] 耳鳴りの持続時間と経過
- 一過性の耳鳴り:数秒から数分で消失する短時間の耳鳴りで、健常者にも起こりうる。一時的な耳の血流変化や疲労により生じ、通常は自然に治まる。
- 断続的な耳鳴り:日によって出現したり消えたりする耳鳴りで、睡眠不足や体調によって頻度が変動することがある。ストレス管理や休息で症状が軽減する場合がある。
- 持続的な耳鳴り:常に鳴り続ける慢性的な耳鳴りで、難聴を伴うことが多い。3か月以上続く場合は慢性耳鳴とみなされ、専門的な評価と治療が推奨される。
なお、耳鳴りの継続時間や頻度もケースバイケースです。一過性の耳鳴りは多くの場合心配いりませんが、断続的あるいは持続的な耳鳴りは注意が必要です。特に慢性の耳鳴りは背後に聴覚機能の低下が隠れていることが多く、放置すると精神的ストレスの蓄積や睡眠障害につながる恐れがあります。そのため、頻繁に耳鳴りが起こる場合や長期間続く場合には、専門医による診断を受けることが望まれます。
■2. 耳鳴りの種類(自覚的と他覚的)
耳鳴りは本人だけに聞こえる自覚的耳鳴りと、実際に音が出ており他人にも検出可能な他覚的耳鳴りに分類されます。一般的に、耳鳴り患者の大半(99%以上)は自覚的耳鳴りであり【文献4】、これは耳や脳内の神経信号の異常によって生じる感覚現象です。残り1%未満の他覚的耳鳴りでは、実際に耳周辺で音が発生しており、その音を聴診器などで確認できる点で異なります。
自覚的耳鳴りは、内耳の有毛細胞や聴覚神経の損傷に伴う異常な信号発生や、脳内の聴覚皮質の神経回路の過敏化によって起こると考えられています【文献4】。一方、他覚的耳鳴りの原因は実際の音源にあります。例えば、耳周囲の血管の拍動音(拍動性耳鳴)や、中耳の筋肉の痙攣による断続的な音などが挙げられます。これらの場合、根本的な原因となる血管異常や筋肉の問題を治療することで耳鳴りが改善または消失する可能性があります。
[1] 自覚的耳鳴り
- 主な特徴:外部に音源がないのに本人にだけ音が聞こえる耳鳴りで、最も一般的なタイプ。
- 原因の例:加齢性難聴や騒音性難聴による内耳有毛細胞の損傷、またはストレスによる脳内神経活動の過剰興奮など。
- 対処の考え方:聴力補助(補聴器)や音響療法、認知行動療法などで症状の緩和を図る(詳細は後述)。
このように、自覚的耳鳴りは耳鳴りの中でも圧倒的多数を占めるタイプであり、その発生メカニズムは多岐にわたります。内耳での感覚細胞の損傷により聴覚信号が異常化したり、脳の神経ネットワークが過敏になることで、実際にはない音が生じます。そのため、根本的な治療が難しい場合もありますが、補聴器の使用による聴覚刺激の増加や、心理療法による対処で日常生活への支障を軽減することが重要です。
[2] 他覚的耳鳴り
- 主な特徴:実際に音が発生しており、本人だけでなく他者にも聞こえる可能性のある耳鳴りで、全体の1%未満と稀。
- 原因の例:中耳付近の筋肉の痙攣による断続音、耳周囲の血管腫や動静脈奇形による拍動音など物理的原因。
- 対処の考え方:原因となっている身体的異常(血管の病変や筋肉の痙攣など)に対する治療や手術によって根本的な改善が期待できる。
対照的に、他覚的耳鳴りは実際に音が存在するため、その原因となる身体の異常を特定することが比較的可能です。例えば、拍動性耳鳴りであれば耳周辺の血管の評価を行い、必要に応じて血管の治療を検討します。また、筋収縮による音であれば、顎や中耳の筋肉の状態を調べて対策を講じます。他覚的耳鳴りは原因治療によって完治し得る点で、自覚的耳鳴りとは対照的です。
■3. 耳鳴りの主な原因と危険因子
一般に、耳鳴りは一つの原因だけでなく、複数の要因が組み合わさって生じることが一般的です。その中でも中心的なのは聴覚系のダメージであり、特に内耳や聴神経の障害が耳鳴り発生の土台になります【文献4】。例えば、加齢による内耳の有毛細胞の変性や、長年の大きな騒音への曝露は、慢性的な聴力低下を招いて耳鳴りの引き金となります【文献1】。
しかし、それ以外にも耳鳴りに影響を与える要因は多岐にわたります。中耳炎やメニエール病など耳の疾患が直接の原因となる場合や、脳腫瘍(聴神経腫瘍)のように聴覚経路を圧迫する病変によって起こるケースもあります。また、高血圧や甲状腺機能異常といった全身の病気が間接的に耳鳴りを悪化させることも報告されています【文献4】。加えて、不安やうつなどの心理的ストレスが耳鳴りの知覚を増幅させることも知られており、生活習慣や精神面のケアも無視できない要素です。
[1] 耳鳴りを引き起こす主な要因
- 加齢性難聴:加齢に伴う内耳有毛細胞の変性により高音域から聴力が低下し、その結果として耳鳴りが生じやすくなる【文献1】。
- 騒音性難聴:工事現場や音楽プレーヤーの大音量など長期間の騒音曝露で内耳が損傷し、慢性的な耳鳴りが引き起こされる【文献4】。
- 耳の疾患:中耳炎、メニエール病、耳硬化症など耳自体の病気によって聴覚環境が乱され、耳鳴りが発生する。
- 聴神経の障害:聴神経腫瘍(聴神経の良性腫瘍)や多発性硬化症といった神経系の異常が、耳鳴りの原因となることがある。
以上のように、耳鳴りを引き起こす直接的な原因には聴覚系の退行変性や損傷、耳の病気、さらには神経系の疾患まで多岐にわたります。中でも代表的なのが難聴との関連であり、聴力が低下すると脳が不足する音情報を補おうとして神経活動が過敏になり、その副産物として耳鳴りが生じると考えられています【文献4】。このため、耳鳴りの治療ではまず難聴の有無を評価し、可能であれば聴力改善を図ることが基本となります。
[2] 耳鳴りの悪化要因・リスク因子
- ストレスや疲労:精神的ストレスや過労により自律神経のバランスが乱れると、耳鳴りの音の感じ方が強まったり頻度が増したりしやすい。
- 睡眠不足:睡眠不足は脳の興奮状態を高め、耳鳴りへの対処力が低下するため、翌日の耳鳴りの響きが一層気になりやすくなる。
- カフェイン・アルコール:コーヒーなどカフェイン飲料やアルコールは一部の人で耳鳴りを増悪させることがあり、適度な節制が望ましい。
- 喫煙:喫煙習慣は内耳の血流を低下させ、難聴や耳鳴りのリスクを高める可能性が指摘されている。
- 高血圧・貧血:血圧の異常や血液循環の問題があると、内耳の血流に影響を及ぼし耳鳴りが悪化する場合がある。
これらの要因は耳鳴りそのものの原因ではないものの、症状を悪化させたり持続させたりするリスク因子と考えられます。例えばストレスが高まると脳の神経活動に変調をきたし、普段は気にならない耳鳴りが強く意識されるようになります。また睡眠不足や疲労が蓄積すると脳の疲弊により耳鳴りの閾値が下がり、日中の静かな場面で耳鳴りが際立って聞こえる悪循環に陥りがちです。生活習慣では喫煙や過度のカフェイン摂取を控え、十分な休息を取ることが耳鳴り管理の基本として推奨されます。
耳鳴りの治し方:根拠に基づく総合的なアプローチ
耳鳴りは多因子的な症状であり、その治し方も一つに限定されるものではありません。なぜなら、耳鳴りは加齢や騒音、耳疾患、ストレスなど複数の要因が絡むため、原因や病態に応じて治療戦略を組み立てることが推奨されています【文献2】【文献3】【文献4】。従来は「治せない」とされてきた耳鳴りも、近年の医学の進歩により症状軽減・生活の質向上を実現する選択肢が広がってきました。
一方で、現在の国際的なガイドラインや最新の系統的レビューによれば、耳鳴り治療の主目的は「完全な消失」ではなく、「苦痛の低減」「日常生活への適応」に置かれています【文献2】【文献3】。治し方は主に以下の6つの戦略に分類され、個々の状況に合わせて組み合わせて実践することが現実的です。
そのため、読者が自身の状態やニーズに応じて適切な治療法を選択できるよう、各アプローチの根拠・適応・注意点まで詳述します。
■1. 薬物療法(内服・外用)
薬物療法は、耳鳴りが強いストレス・不安・不眠を引き起こしている場合や、他の治療単独では十分な効果が得られない場合に選択されます。根本的な治癒薬は現時点で存在しませんが、症状緩和や精神的負担の軽減目的で以下の薬剤が使われます。
薬物ごとのエビデンスや副作用、適応例は最新のガイドラインと論文に基づき整理します。
[1] 抗うつ薬・抗不安薬
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や三環系抗うつ薬は、不安や抑うつを伴う耳鳴りに有効例が報告されています。ただし、直接的な耳鳴り改善効果は限定的で、主に精神症状の緩和が目的となります【文献5】。
- 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)は短期的な不眠・不安への対応に用いられますが、依存リスク・副作用があるため長期使用は推奨されません。
抗うつ薬や抗不安薬は、耳鳴りそのものよりも付随する精神的苦痛への対応策として選択されます。医師の監督下で適正な用量・期間を守ることが必須です。
[2] 循環改善薬・ビタミン製剤
- ベタヒスチンはメニエール病や内耳障害の耳鳴りで用いられますが、耳鳴り単独への有効性エビデンスは限定的です【文献4】。
- イチョウ葉エキスやビタミンB12製剤などサプリメントも補助的に使われる場合がありますが、国際ガイドラインでは推奨グレードは高くありません【文献2】。
循環改善薬やビタミン剤は副作用が少ないため補助的治療に選ばれることがありますが、根本治療とはなりにくく、個人差が大きい点に留意が必要です。
■2. 音響療法(TRT・ホワイトノイズ療法)
音響療法は「耳鳴りの音」を別の音(ホワイトノイズや環境音)でマスキングしたり、耳鳴りへの脳の過敏な反応を再教育する治療法です。エビデンスが多く、国際的なガイドラインでも標準的治療として推奨されています【文献2】【文献3】。
音響療法は補聴器の活用やサウンドジェネレーターの利用、TRT(Tinnitus Retraining Therapy:耳鳴り再訓練療法)などが中心です。いずれも苦痛の軽減・日常生活への適応向上が主目的であり、「耳鳴りの消失」ではなく「気にならなくする」ための訓練的アプローチです。
[1] TRT(耳鳴り再訓練療法)
- カウンセリング+サウンドジェネレーターを組み合わせ、脳の過敏反応を正常化していく治療法です。
- 半年〜1年以上かけて実施され、長期的な苦痛軽減効果が複数の臨床試験で証明されています【文献2】【文献3】。
TRTは専門の医療機関で実施され、欧米や日本でも保険外診療として広がっています。耳鳴りで生活に大きな支障がある場合は選択肢となります。
[2] ホワイトノイズ・補聴器の活用
- ホワイトノイズ発生器や環境音アプリ、補聴器(特に難聴合併例)による聴覚刺激の増強で、耳鳴りの存在感を薄める方法です。
- 適切な補聴器の選択・調整は特に加齢性難聴に伴う耳鳴りで有効性が高いとされています【文献2】【文献3】。
音響療法や補聴器はセルフケアとも相性が良く、日常生活で手軽に取り入れられる治し方です。特に静かな環境で耳鳴りが強くなる場合に効果的です。
■3. 認知行動療法(CBT)・心理的アプローチ
CBT(Cognitive Behavioral Therapy:認知行動療法)は、耳鳴りに対する「とらわれ」や「不安」などの心理的苦痛を軽減する標準治療法です。耳鳴りの音自体を消すものではありませんが、苦痛の感じ方・受け止め方を変えることで生活の質を改善します【文献2】【文献3】【文献5】。
CBTは医師や臨床心理士の指導のもと対面またはオンラインで実施でき、最近はアプリやデジタル教材によるセルフCBTも普及しています。心理的ストレスや不眠、抑うつが耳鳴りを増悪させる場合には強く推奨されます。
[1] マインドフルネス・補完的心理療法
耳鳴りはストレスや不眠によって悪化するため、心理的セルフケアの徹底も治し方の重要な要素です。自身に合った方法を日常生活に取り入れることが推奨されます。
■4. 神経刺激療法・デジタル技術による治療
従来の治療法に加え、近年では脳への神経刺激やデジタル技術を活用した新しい治し方も登場しています。なぜなら、難治性や慢性化した耳鳴り症例に対し、従来アプローチでは効果が不十分な場合が多く、革新的な選択肢が求められているからです。最新の国際ガイドラインや臨床研究では、非侵襲的脳刺激療法やスマートフォンアプリの活用が注目されています【文献3】【文献6】。
また、セルフケアや遠隔診療との親和性も高く、ビジネスパーソンや若年層の患者でも日常的に取り入れやすい利点があります。
[1] 経頭蓋磁気刺激療法(TMS)
- 経頭蓋磁気刺激(TMS:Transcranial Magnetic Stimulation)は、脳の聴覚野などに磁気刺激を与え、神経活動の異常興奮を調整する非侵襲的治療法です。
- 慢性耳鳴りに対する複数の無作為化比較試験やメタ解析で、一定の症状軽減効果が報告されていますが、全例に有効ではなく、効果の個人差が大きいとされます【文献6】。
- 副作用は少ないものの、施行には専門施設が必要で、反復的な通院治療が前提となります。
TMSは日本でも一部の大学病院や専門施設で導入されており、従来法で十分な効果が得られなかった難治例で選択肢となります。保険適用外であり、適応や副作用、実施施設については専門医にご相談ください。
[2] AI・スマートフォンアプリ活用
- 耳鳴り管理アプリやAIサポートツール(ホワイトノイズ生成、認知行動療法支援、セルフモニタリングなど)は、患者の自己管理力を高める有効な手段です。
- 複数の臨床研究で、セルフケアや生活習慣改善の定着、症状変動の把握、心理的負担軽減などで有用性が示されています【文献7】。
- CBTやマインドフルネス、音響療法のセルフ実践をサポートするデジタル教材も近年充実しています。
特に忙しいビジネスパーソンや若年層では、医療機関の受診前や受診中の補助手段として、日常的に活用できる点が大きなメリットです。アプリはあくまで治療補助の位置づけであり、重症例では医療機関の指導と併用することが推奨されます。
■5. 漢方薬・栄養・サプリメント療法
西洋医学的治療に加えて、漢方薬や栄養療法、各種サプリメントの補助的な利用も広く行われています。耳鳴り患者の背景因子(加齢・冷え・虚弱・ストレスなど)に合わせた漢方薬の処方や、ビタミン・ミネラル・イチョウ葉エキスなどのサプリメントによる補助療法が選択肢となります。ただし、エビデンスレベルや有効性には個人差が大きいため、過度な期待や自己判断での大量摂取には注意が必要です【文献8】【文献9】。
漢方薬や栄養サポートは慢性症状の体質改善や心理面のサポートにも有用ですが、必ず医師・薬剤師と相談のうえ使用することが重要です。
[1] 代表的な漢方・サプリメント
- 六味地黄丸・当帰芍薬散・苓桂朮甘湯:冷え・加齢・水分バランス異常など体質に応じて使い分ける漢方処方。耳鳴りの慢性化・虚弱傾向例で補助的に用いられる。
- イチョウ葉エキス・ビタミンB群・亜鉛:サプリメントとしての補助療法。内耳血流や神経代謝サポートを目的とするが、国際ガイドラインでの推奨度は限定的。
これらは単独治療ではなく、標準治療との併用やセルフケアの一環として用いるのが一般的です。効果の個人差や副作用、既存薬との相互作用にも十分注意しましょう。
■6. 生活習慣の見直し・セルフケア
耳鳴りの治し方においては、医学的治療と同等以上に、睡眠・運動・食事・ストレスマネジメントなど日常生活全般の見直しが根本的対策となります。なぜなら、耳鳴りはストレスや疲労、生活リズムの乱れで増悪しやすい症状であり、自己管理による再発予防や慢性化防止が科学的にも実証されているからです【文献2】【文献4】。
特に慢性耳鳴りでは、生活習慣の調整と医学的治療を組み合わせて長期的なQOL向上を目指すことが推奨されます。
[1] 生活習慣・セルフケアのポイント
- 規則的な睡眠と十分な休息:睡眠不足は耳鳴りの知覚を強めるため、安定した睡眠習慣を維持することが重要。
- 適度な運動・ストレス管理:有酸素運動やリラクゼーション習慣、趣味や余暇の充実が耳鳴りの苦痛軽減に寄与する。
- カフェイン・アルコール・喫煙:個人差が大きいが、過度の摂取や習慣は悪化因子となる場合があるため、適切な制限を検討。
セルフケアの積み重ねは、耳鳴り治療の効果を最大化し、再発や慢性化リスクを減らすうえで不可欠な要素です。自分自身の生活を客観的に見直し、無理なく継続できる対策から始めてください。
全体のまとめ
耳鳴りは高齢者から若年層まで幅広い層が抱える慢性症状であり、背景には加齢性難聴や騒音曝露、耳疾患、ストレス、生活習慣など多様な要因が複雑に絡み合っています。現在の医学的コンセンサスでは、耳鳴りの「完全な消失」を目指すよりも、苦痛の緩和と生活の質(QOL)向上に主眼を置いた治療戦略が推奨されています【文献2】【文献3】【文献4】。
主要な治し方として、薬物療法(抗うつ薬・抗不安薬・循環改善薬・ビタミン製剤など)は主に精神的苦痛や不眠、不安へのサポートとして位置づけられます。また、TRT(耳鳴り再訓練療法)やホワイトノイズ療法、補聴器による音響刺激は「音へのとらわれ」を和らげる科学的根拠のあるアプローチです。
加えて、認知行動療法(CBT)やマインドフルネスは心理的負担を軽減し、患者が耳鳴りと共存するための「心の技術」として国際ガイドラインでも標準治療となっています。さらに、経頭蓋磁気刺激(TMS)などの非侵襲的神経刺激療法や、AI・アプリを活用したデジタルセルフケアも新しい選択肢として広がっています。漢方薬・サプリメント・栄養療法は補助的役割を担い、体質や背景因子によって活用できますが、過度な自己判断には注意が必要です。
どの治療法も万能ではなく、個々の原因や背景に応じて適切に組み合わせることが重要です。耳鳴りが長引く場合や、生活に強い支障をきたす場合には、必ず専門医と相談し、多角的なアプローチによる総合的治療を検討してください。今後も研究の進歩により新たな治療法や管理戦略が登場すると考えられますが、現時点での最善策は科学的根拠と自己管理を両立させながら、日常生活に無理なく取り入れられる治し方を選択し、QOL向上を目指すことです。
専門用語一覧
- 耳鳴り:外部に音源がないのに耳の中で「音」を感じる現象。慢性化すると生活の質に大きな影響を与える。
- 自覚的耳鳴り:患者本人だけに聞こえる耳鳴り。内耳や脳神経の異常信号が主な原因。
- 他覚的耳鳴り:実際に身体内で発生している音(血流音や筋肉の振動など)が他人にも確認できる稀な耳鳴り。
- TRT(Tinnitus Retraining Therapy):耳鳴り再訓練療法。音響刺激とカウンセリングを組み合わせて脳の反応を再教育する治療。
- CBT(Cognitive Behavioral Therapy):認知行動療法。耳鳴りの苦痛を感じる心理的パターンを修正し、QOLを向上させる治療法。
- 経頭蓋磁気刺激(TMS:Transcranial Magnetic Stimulation):磁気刺激によって脳の神経活動を調整し、慢性耳鳴り症状の緩和を目指す非侵襲的治療法。
- ホワイトノイズ療法:雑音(ホワイトノイズ)や自然音などを活用し、耳鳴りを目立たなくする音響療法。
- 補聴器:聴力の低下を補う医療機器。適切に調整すると耳鳴りの知覚を緩和できることがある。
- マインドフルネス:今この瞬間の自分の感覚や気持ちに注意を向け、評価せず受け入れる心理的セルフケア法。
- イチョウ葉エキス:サプリメントの一種。内耳血流改善や神経保護効果を期待して補助的に用いられることがある。
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執筆者
■博士(工学)中濵数理
- 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
- 沖縄再生医療センター:センター長
- 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
- 日本再生医療学会:正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
- 日本バイオマテリアル学会:正会員
- 公益社団法人高分子学会:正会員
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