再生医療解説|ヒト血小板溶解液系の点鼻投与がパーキンソン病の症状改善に寄与する作用機序
当社へ報告されている自由診療下の臨床所見「パーキンソン病の症状改善」を踏まえ、ヒト血小板溶解液を点鼻投与した場合における想定作用機序を既存の学術知見に基づいて整理します。
パーキンソン病の病態
パーキンソン病は、中脳の黒質にあるドーパミン産生神経が徐々に減ることで、振戦(ふるえ)、筋固縮(こわばり)、動作緩慢、姿勢反射障害といった運動症状が現れる神経変性疾患です【文献1】。
病態の中心には、以下の現象が相互に影響し合う連鎖があります【文献1】【文献2】【文献3】。
- αシヌクレインの異常蓄積と伝播
- 活性酸素(Reactive Oxygen Species, ROS)による酸化ストレス
- ミトコンドリア機能低下
- ミクログリアを中心とする神経炎症
- シナプス可塑性の低下や神経回路の脆弱化
非運動症状(嗅覚低下、睡眠障害、自律神経症状など)が早期から生じることも広く知られており、病態が運動系に限られない点が臨床像を複雑にします【文献1】【文献4】。
ヒト血小板溶解液系の成分と特性
本稿で扱うヒト血小板溶解液系とは、ヒト血小板溶解液(Human Platelet Lysate, HPL)を中核に、そこに含まれる細胞小胞(エクソソームなどの細胞外小胞)と、上流素材に当たる多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma, PRP)までをまとめた上位概念です【文献5】【文献6】。
実体としては、可溶性成分+細胞小胞という二つの形で存在し、いずれにも次の分子群が共存します。
- 抗酸化酵素:カタラーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)【文献5】【文献6】。
- 成長因子:PDGF、IGF‑1、HGF、VEGF、EGF など【文献6】【文献7】。
- 情報分子:miRNA を中心とする核酸分子(主に細胞小胞に搭載)【文献8】。
- 担体・安定化分子:アルブミンなど(酸化還元緩衝と分子の安定化・運搬に寄与)【文献9】。
HPL/PRPの網羅的プロテオミクス解析では、実測ベースで数百種類のタンパク質が同定されており、試料条件や測定感度によりさらに多様な分子の存在が示唆されています【文献6】【文献7】。
この多成分が二つの形で同時に存在するという点が、単一分子では作りにくい“広がり”をもって病態へ働きかける基盤になります【文献5】【文献8】。
点鼻投与の脳内到達特性
点鼻投与(鼻腔内投与)は、嗅神経・三叉神経に沿う鼻腔—脳経路を利用して、血液脳関門(BBB)の制約を一部回避しつつ中枢へ物質を運べる投与法です【文献10】。
動物研究では、点鼻後30〜60分の時間軸で嗅球・前脳へ到達し、その後は血管周囲腔(ペリバスキュラー・スペース)を介して広く分布することが示されています【文献11】。
また、細胞小胞は点鼻後に脳内の神経細胞やミクログリアへ取り込まれ、搭載分子(酵素、核酸、小分子)を中枢に届け得ることが報告されています【文献12】【文献14】。
さらに、血漿・血小板由来の成長因子が点鼻で中枢へ届き得ることを支持するデータもあります【文献13】【文献16】。
想定される作用機序
点鼻で脳へ届いたヒト血小板溶解液系は、病態の連鎖に対応して第一段階:鎮静(酸化ストレスと炎症の低減)→第二段階:保護・修復(神経回路の立て直し)→第三段階:安定化(遺伝子発現の微調整と再燃抑制)の順で働くと考えます。
各段階は重なりながら進みますが、理解のために分けて説明します。
■1. 第一段階(鎮静)—酸化ストレスと炎症の低減
ROSの迅速な低下:可溶性成分と細胞小胞の双方に含まれるカタラーゼ、SOD、GPx が過剰なROSを処理し、酸化ダメージとミトコンドリア障害の悪循環の起点を弱めます【文献2】【文献5】【文献14】。
アルブミンの補助:アルブミンは遊離チオール(Cys34)と結合能により酸化還元緩衝と分子安定化に寄与します【文献9】。
炎症シグナルの抑制:ROS低下は NF-κB など炎症経路の過活動を鎮め、ミクログリアの過剰活性を緩和します【文献2】。
[1] 症状面の想定
こわばりや全身倦怠感の軽減、反応性の鈍さの緩和、非運動症状(睡眠の質、倦怠)の改善傾向が早期に現れやすいと考えられます【文献1】【文献2】。
■2. 第二段階(保護・修復)—神経回路の立て直し
ドーパミン神経の生存・可塑性の底上げ:PDGF-BBやIGF‑1が PI3K/Akt、ERK、CREB 経路を活性化し、チロシン水酸化酵素(TH)発現や神経突起維持を促します【文献15】【文献16】。
神経血管ユニットの支援:VEGF/HGFなどが内皮・グリア・ニューロンの相互作用を支え、局所灌流とバリア機能の安定化に寄与します【文献6】。
さらに、これらの成長因子が新しい毛細血管の形成や血流増加を促すことで、脳内の代謝環境が改善し、異常に凝集したαシヌクレインなどの不要なたんぱく質を洗い流す働き(クリアランス)の補助につながると考えられます【文献3】【文献4】。
[1] 症状面の想定
動作の滑らかさや歩行のぎこちなさの改善、筋固縮の和らぎ、反応時間の短縮といった運動面の変化に加え、血流改善を介した神経環境の整備により、進行の緩徐化にも寄与しうると考えられます【文献1】【文献15】。
■3. 第三段階(安定化)—遺伝子発現の微調整と再燃抑制
miRNAによる炎症・ストレスの微調整:細胞小胞の miRNA(例:miR-223)が内皮炎症マーカー(ICAM‑1)や NF-κB 系の過活動を下げる方向に働きます【文献21】。
ミクログリア表現型の偏り直し:幹細胞由来小胞の知見では、ミクログリアを炎症促進型(M1)から修復促進型(M2)へ傾け、慢性炎症の持続を抑えることが示唆されています【文献19】【文献20】。
点鼻小胞の脳内取り込み所見は、この機序の成立を支えます【文献12】【文献18】。
[1] 症状面の想定
症状の波の抑制、非運動症状(睡眠・気分・自律神経)の安定、運動症状の進行の緩徐化が期待されます【文献1】【文献12】。
まとめ
パーキンソン病では、酸化ストレス、ミトコンドリア機能低下、炎症、蛋白質異常が互いに増幅し合います【文献1】【文献2】。
ヒト血小板溶解液系は可溶性成分+細胞小胞として抗酸化酵素・成長因子・miRNAを同時に運び、点鼻投与により脳へ届くことで、第一段階:鎮静→第二段階:保護・修復→第三段階:安定化という時間順の筋道で病態の連鎖を弱めます【文献5】【文献10】【文献11】【文献14】【文献15】【文献16】。
その結果として、早期のこわばり・倦怠の緩和、運動の滑らかさの改善、症状の波の抑制といった臨床的な変化が合理的に説明できます【文献1】【文献12】【文献15】。
専門用語一覧
- 黒質:中脳にあるドーパミン産生神経が多い領域です【文献1】。
- αシヌクレイン:神経内で凝集しやすいタンパク質で、蓄積が神経障害に関わります【文献3】。
- 活性酸素(ROS):反応性の高い酸素分子群で、過剰になると細胞障害と炎症を強めます【文献2】。
- 酸化的リン酸化:ミトコンドリアでATPを作る仕組みです。障害されるとエネルギー不足とROS増加が起こります【文献2】。
- ミトコンドリア機能低下:エネルギー産生効率が落ち、ROSが増えやすくなる状態です【文献2】。
- ミクログリア:脳内の免疫担当細胞で、炎症の制御と修復に関与します【文献1】。
- シナプス可塑性:神経回路のつながりが強くなったり弱くなったりする性質です【文献1】。
- ヒト血小板溶解液(HPL):血小板を溶解して得た多成分製剤で、抗酸化酵素・成長因子・細胞小胞を含みます【文献5】【文献6】。
- 多血小板血漿(PRP):血小板を濃縮した血漿で、成長因子や細胞小胞が豊富です【文献7】。
- 細胞小胞(エクソソームなど):脂質膜で包まれた微小な袋で、タンパク質・脂質・核酸(miRNAなど)を運びます【文献8】。
- アルブミン:血漿の主要タンパク質で、抗酸化と分子の運搬・安定化に役立ちます【文献9】。
- 血液脳関門(BBB):血液から脳へ物質が移動しにくくする関門です【文献10】。
- 血管周囲腔(ペリバスキュラー・スペース):脳血管の周囲にある通り道で、点鼻後の広がりに関与します【文献11】。
- PDGF/IGF‑1/HGF/VEGF/EGF:神経や血管の生存・修復・シナプス機能に関わる成長因子です【文献6】【文献15】【文献16】。
- PI3K/Akt・ERK・CREB:成長因子で活性化する細胞内シグナルで、神経の生存と可塑性を高めます【文献15】【文献16】。
- チロシン水酸化酵素(TH):ドーパミン合成の律速酵素です【文献15】。
- ICAM‑1:内皮細胞にある接着分子で、炎症が強いと増えます【文献21】。
- M1/M2極性:ミクログリアの機能状態の呼称で、M1は炎症促進、M2は修復促進を指します【文献19】。
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執筆者
■博士(工学)中濵数理
- 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
- 沖縄再生医療センター:センター長
- 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
- 日本再生医療学会:正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
- 日本バイオマテリアル学会:正会員
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