再生医療解説|ヒト血小板溶解液系の点鼻投与が前頭側頭型認知症改善に寄与する作用機序

再生医療解説|ヒト血小板溶解液系の点鼻投与が前頭側頭型認知症の症状改善に寄与する作用機序

当社へ報告されている自由診療下の臨床所見「前頭側頭型認知症の症状改善」を踏まえ、ヒト血小板溶解液(HPL)を点鼻投与した場合における想定作用機序を既存の学術知見に基づいて整理します。

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前頭側頭型認知症の病態

前頭側頭型認知症(Frontotemporal Dementia:FTD)は、前頭葉と側頭葉を中心に神経細胞が減り、行動の変化、脱抑制、共感性の低下、言語の障害(非流暢性、語義の喪失など)が進む病気です【文献1】【文献2】。

病理学的には、タウたんぱく質(FTLD‑tau)やTDP‑43たんぱく質(FTLD‑TDP)の異常が核となり、シナプス機能の低下、慢性の神経炎症、ネットワークの破綻が重なって症状が現れます【文献1】【文献3】。

本稿では、ヒト血小板溶解液系の点鼻投与の想定作用機序を病態(疾患の進行メカニズム)と正しく結びつけるため、先ず、FTDの要点を以下の四つに整理します。

■1. たんぱく質異常と神経変性

タウやTDP‑43の異常な蓄積が神経細胞の働きと生存を損ない、前頭葉・側頭葉の萎縮と行動・言語の症状につながります【文献1】【文献3】。

■2. シナプス機能低下とネットワーク脆弱性

前頭側頭ネットワークのつながりが弱まり、可塑性(結合強度の調整能力)と信号伝達効率が落ちます。これは実行機能や言語の障害と強く関係します【文献1】。

■3. 神経炎症の持続

ミクログリアアストロサイトの過剰反応によって炎症性分子の放出が続くと、たんぱく質異常と相まって神経変性が加速します【文献1】。

■4. 神経血管ユニットの変調と排出機構の低下

内皮細胞・ペリサイトアストロサイトからなる神経血管ユニットの働きが乱れると、局所血流調整や血液脳関門(Blood–Brain Barrier:BBB)が不安定になり、細胞間の空間(間質)からの老廃物排出(グリンパ系髄膜リンパ管など)の効率が落ちます【文献1】【文献11】【文献12】。



ヒト血小板溶解液系の定義と成分

本稿でいう「ヒト血小板溶解液系」は、ヒト血小板溶解液(Human Platelet Lysate:HPL)を中核とし、その中に含まれる細胞外小胞(エクソソームを含む)、血小板由来微小粒子、さらに上流素材に当たる多血小板血漿(Platelet‑Rich Plasma:PRP)をひとまとめに扱う呼び方です。

ヒト血小板溶解液系には、抗酸化酵素群(例:カタラーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ)、成長因子(BDNF[脳由来神経栄養因子]、IGF‑1[インスリン様成長因子1]、PDGF[血小板由来増殖因子]、VEGF[血管内皮増殖因子]、EGF、TGF‑βなど)、そしてエクソソーム内包のmiRNAが多数含まれます【文献7】【文献8】【文献18】。

これらの作用が現れる時期には差があり、一般的には抗酸化酵素が最も早く働き、次に成長因子、さらにmiRNAの順に効果が出やすいと考えられます【文献7】【文献10】。

さらに、こうした分子レベルの働きが積み重なることで、微小循環や間質クリアランスの改善といった組織レベルの変化が確認されるようになります。



点鼻投与の脳内到達特性

点鼻投与で与えられた成分は、嗅神経経路や三叉神経経路を通って脳内へ移行します。これにより血液脳関門(Blood–Brain Barrier:BBB)を直接通過しなくても、脳組織へ届く経路が開かれます【文献4】。

到達後、成分は血管周囲腔(ペリバスキュラー・スペース)に沿って拡がり、比較的短時間(分〜時間のオーダー)で複数の脳領域へ分布することが実験的に確認されています【文献4】。この仕組みは、前頭葉や側頭葉といった前頭側頭型認知症で障害を受けやすい領域にまで影響が及び得る点で注目されます。

さらに、エクソソーム(細胞外小胞)については、点鼻後に脳内でミクログリアに選択的に取り込まれることが報告されています【文献6】。これは、ヒト血小板溶解液に含まれるエクソソームが炎症の制御に直接関与する可能性を示すものです。

一方で、IGF-1のように分子量の大きなタンパク質については注意が必要です。ラットを用いた動物実験では、遊離型のIGF-1を点鼻投与した際に脳や脊髄に到達することが確認されています【文献5】。ただし、これは特定条件下の知見であり、すべての大分子にそのまま当てはまるわけではありません。エクソソームに内包されて運ばれる場合と、遊離型として存在する場合とでは、脳内移行の効率や分布が異なることに留意する必要があります。



時系列でみる想定作用機序

■1. 第1段階:酸化ストレスの鎮静化と炎症反応の初期抑制

ヒト血小板溶解液系に含まれる抗酸化酵素は、投与後ただちに活性酸素に作用し、酸化ストレスの連鎖反応を抑えます【文献7】【文献8】。同時に、点鼻で届いたエクソソーム由来成分がミクログリアの過剰反応を下げ、炎症性分子の放出を抑える方向へ働きます【文献6】【文献10】。

この初期変化により、受容体シグナルやシナプス機能が働きやすい局所環境が整います【文献7】。

■2. 第2段階:成長因子によるシナプス機能と血管機能の回復

BDNFシナプス可塑性の中心因子で、行動・言語を支える前頭側頭ネットワークの信号効率を底上げします【文献17】。IGF‑1は神経の生存と代謝を支え、ストレス下の神経を保護する方向に働きます【文献16】。PDGFは内皮細胞とペリサイトの維持を助け、BBBの安定化と毛細血管の機能回復に寄与します【文献14】【文献15】。

これらの働きが重なると、弱っていたネットワークの伝達効率と局所血流の応答が持ち直します【文献1】【文献14】。

■3. 第3段階:miRNAによる遺伝子発現の再設定

エクソソーム内のmiRNAが細胞に取り込まれると、RISC複合体に装荷され、標的mRNAの翻訳が抑えられます【文献10】。これにより、炎症シグナル(例:NF‑κB系)やタイトジャンクション関連遺伝子の発現バランスが変わり、慢性炎症の持続とBBBの不安定さが抑えられます【文献10】【文献6】。

また、タンパク質の折りたたみや分解に関わる遺伝子群の調整を通じて、タウやTDP‑43の蓄積ストレスを和らげる方向に働く可能性があります【文献1】【文献10】。

■4. 第4段階:神経血管ユニットの安定化と間質クリアランスの改善

毛細血管の安定と拍動性が戻ると、血管周囲腔グリンパ系の流れが通りやすくなり、間質から老廃物を脳外へ出す働き(間質クリアランス)が高まります【文献4】【文献11】。さらに、髄膜リンパ管の機能が整うと、脳脊髄液の排出と老廃物処理が改善し、ネットワークの機能維持を後押しします【文献12】。

FTDではアミロイドβの関与は主ではありませんが、間質クリアランスの改善は不要なたんぱく質の滞留リスクを下げ、回路の安定化に寄与します【文献1】【文献11】【文献12】。



作用段階と病態の対応関係

以上のように、第1段階から第4段階までの作用は、それぞれ異なる病態の要素と対応しています。以下の表に、各作用段階と前頭側頭型認知症(FTD)の主要病態を対応付けて整理します。

想定作用機序の段階 主な作用内容 対応するFTDの病態 文献根拠
第1段階 抗酸化酵素が活性酸素を除去し、エクソソーム成分がミクログリアの過剰反応を抑制する 酸化ストレス増大と神経炎症の持続 文献7】【文献8】【文献6】【文献10
第2段階 BDNFシナプス可塑性を維持、IGF-1が神経の生存と代謝を支援、PDGFペリサイトと内皮機能を安定化 シナプス機能低下とネットワーク脆弱性、BBB不安定化 文献17】【文献16】【文献14】【文献15
第3段階 miRNAが炎症シグナルやタイトジャンクション遺伝子の発現を再設定し、慢性炎症や関門不全を抑える 慢性炎症の固定化、BBB不全の再燃 文献10】【文献6
第4段階 神経血管ユニットの安定化に伴い、血管周囲腔グリンパ系髄膜リンパ管による老廃物排出が改善 老廃物滞留、局所環境の悪化による回路不安定化 文献4】【文献11】【文献12



まとめ

ヒト血小板溶解液系の点鼻投与は、抗酸化酵素による酸化ストレスの鎮静化、成長因子によるシナプス機能と血管機能の回復、miRNAによる遺伝子発現の再設定、そして神経血管ユニット安定化と間質クリアランスの改善を通じて、前頭側頭型認知症の病態に多面的に働きかける可能性があります【文献7】【文献17】【文献14】【文献10】【文献11】。

もっとも、ここで紹介した内容は前臨床研究と限られた臨床報告から導かれた想定であり、効果の大きさや持続性をはじめ多くの研究余地が残っています。

したがって、本稿は治療の確立を意味するものではなく、今後の検証が不可欠である点にご留意ください【文献7】【文献8】。



専門用語一覧

  • 前頭側頭型認知症(FTD):前頭葉・側頭葉の神経変性により、行動変化や言語障害が前景に出る認知症です【文献1】【文献2】。
  • FTLD‑tau/FTLD‑TDP:それぞれタウ、TDP‑43の異常蓄積が中心の病理型で、神経細胞の働きを損ないます【文献3】。
  • シナプス可塑性:経験や学習に応じてシナプスの結合強度が変わる性質で、回路の柔軟性を支えます【文献17】。
  • 神経炎症:ミクログリアアストロサイトの反応が過剰になり、炎症性分子の放出が続く状態です【文献1】。
  • 神経血管ユニット(Neurovascular Unit):神経細胞・内皮細胞・ペリサイトアストロサイトが協力して、局所血流やBBBを維持する仕組みです【文献1】。
  • 血液脳関門(BBB):脳毛細血管が担うバリア機構で、不要物や有害物質の侵入を防ぎます【文献1】。
  • 血管周囲腔(Perivascular Space):血管の周囲を流体が移動する通路で、点鼻で届いた物質の分布や老廃物排出に関わります【文献4】。
  • グリンパ系(Glymphatic System):脳脊髄液と間質液の流れで老廃物を運ぶ仕組みで、間質クリアランスの中核です【文献11】。
  • 髄膜リンパ管(Meningeal Lymphatics):脳から頸部リンパ節へ老廃物を運ぶリンパ管で、排出機構を支えます【文献12】。
  • ヒト血小板溶解液系:ヒト血小板溶解液とその由来エクソソーム、上流素材のPRPを含む総称です【文献7】【文献8】。
  • エクソソーム:細胞が放出する小胞で、たんぱく質やmiRNAを運び、受け手細胞の働きを変えます【文献6】【文献10】。
  • miRNA(マイクロRNA):遺伝子の働きを細かく調整する短いRNAで、炎症やBBB関連遺伝子の発現に影響します【文献10】。
  • BDNF/IGF‑1/PDGF/VEGF:それぞれ、シナプス維持、神経の生存・代謝、ペリサイト維持、内皮の増殖に関わる成長因子です【文献17】【文献16】【文献14】。
  • ミクログリア:中枢神経系に存在し、免疫防御や老廃物処理、炎症制御を担う脳の常在免疫細胞です。
  • アストロサイト:中枢神経系に存在し、神経細胞の代謝支援や血液脳関門の維持、神経環境の安定化を担う支持細胞です。
  • ペリサイト:毛細血管の外側に位置し、血管の安定化や血液脳関門の維持、血流調節を担う支持細胞です。
  • 間質クリアランス:脳内の細胞と細胞の間にある空間から老廃物や余分な分子を流体の動きによって排出する仕組みです。
  • タイトジャンクション:隣り合う細胞同士を密着させ、物質の通過を制限することで血液脳関門などのバリア機能を維持する構造です。



参考文献一覧

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執筆者

代表取締役社長 博士(工学)中濵数理

■博士(工学)中濵数理

  • 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
  • 沖縄再生医療センター:センター長
  • 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
  • 日本再生医療学会:正会員
  • 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
  • 日本バイオマテリアル学会:正会員
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