ためしてガッテンで放送された血圧を下げる運動の内容と科学的検証
NHK「ためしてガッテン」では、血圧を下げる運動としてタオルを握るハンドグリップ法が紹介されました。番組内の実験では被験者8名中7名の血圧が低下したというデータが示され、多くの視聴者がこの方法に関心を寄せています。しかし、テレビ番組で紹介された情報をそのまま実践する前に、その科学的根拠と正しい実践方法を確認することが重要です。
本記事では、まず番組で紹介された運動法の具体的な内容を整理します。次に、ハンドグリップ運動や等尺性運動に関する医学論文を参照し、番組内容の科学的妥当性を検証しています。さらに、これらの運動を安全かつ効果的に実践するための具体的な方法と注意点を解説します。
高血圧は脳卒中や心筋梗塞のリスク因子であり、血圧管理は健康維持において重要な課題です。運動療法は薬物療法と並ぶ有効な血圧管理手段ですが、誤った方法で行うと効果が得られないだけでなく、健康被害を招く可能性もあります。本記事を通じて、エビデンスに基づいた正しい知識を身につけていただければ幸いです。
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ためしてガッテンで紹介された血圧を下げる運動の放送内容
NHK「ためしてガッテン」は2017年の放送において、血圧を下げる運動としてタオルグリップ法とインターバル速歩を紹介しました。この放送は高血圧に悩む視聴者から大きな反響を集め、特にタオル1本で実践できるハンドグリップ法は手軽さから多くの方が試みる結果となりました。番組では被験者8名中7名の血圧が低下したというデータが示され、降圧効果への期待が高まりました。
番組の特徴は、複雑な医学情報を一般視聴者にもわかりやすく伝えることにあります。実験や検証を通じて視覚的に効果を示す構成は、視聴者の理解を促進します。一方で、テレビ番組という性質上、放送時間の制約から情報が簡略化されることがあり、実践に必要な詳細情報が省略されるケースも存在します。そのため、番組内容を正確に理解したうえで実践することが効果を得るための前提条件となります。
本セクションでは、番組で紹介されたタオルグリップ法の具体的な手順、インターバル速歩の実践方法、そして番組内で示された検証データについて詳しく整理します。それぞれの運動法がどのような理論に基づいて紹介されたのかを明らかにし、視聴者が番組内容を正しく把握できるよう情報を体系化します。これにより、次セクション以降で行う医学的検証の基盤を構築します。
■1. タオルグリップ法の放送内容と実践手順
ためしてガッテンで紹介されたタオルグリップ法は、カナダの研究者フィリップ・ミラー博士が開発したハンドグリップ運動を日本の家庭向けにアレンジしたものです。番組では、専用の器具を使わずにフェイスタオル1本で実践できる点が強調され、誰でも手軽に始められる運動法として紹介されました。ミラー博士自身も番組内のVTRに登場し、このタオル方式を高く評価したことが放送されています。
この方法の基本原理は、握力の30%程度の力でタオルを握り続けることで血管に適度な刺激を与え、血管内皮機能を改善するというものです。番組では、強く握りすぎると逆効果になる可能性があることも説明され、適切な力加減の重要性が繰り返し伝えられました。視聴者が自宅で安全に実践できるよう、具体的な握り方や時間配分についても詳細な説明がありました。
[1] 番組で紹介されたタオルの握り方
番組で紹介されたタオルの握り方は、まずフェイスタオルを縦に四つ折りにし、さらに端からくるくると巻いておにぎり程度の太さにするというものです。この太さが重要であり、握ったときに指と指がつかない程度の太さに調整することで、握力の約30%という適切な負荷を自然に実現できます。タオルの硬さや素材によって太さを微調整する必要があり、握ったときに軽く抵抗を感じる程度が目安となります。
- フェイスタオルを縦方向に四つ折りにします
- 折りたたんだタオルを端からロール状に巻いていきます
- おにぎり程度の太さになるよう調整します
- 握ったときに親指と他の指がつかない太さを目安にします
- 軽く握って抵抗を感じる程度の硬さに仕上げます
このタオルの作り方は、専用のハンドグリップ器具を持っていない視聴者でもすぐに実践できる点で優れています。番組ではスタジオでも実演が行われ、出演者が実際にタオルを巻いて握る様子が放送されました。ただし、タオルの素材や厚みによって仕上がりの硬さが変わるため、各自で調整が必要です。綿100%の一般的なフェイスタオルが推奨されており、薄すぎるタオルや厚すぎるバスタオルは適さないと説明されました。
[2] 番組で紹介された運動の時間配分
番組で紹介された運動の時間配分は、2分間握って1分間休むというサイクルを左右交互に2回ずつ、合計4セット行うというものです。1日あたりの所要時間は約11分程度であり、週に3回以上の実施が推奨されました。この時間配分はカナダの研究で用いられたプロトコルに基づいており、科学的な根拠があることが番組内で説明されました。
- 右手でタオルを2分間握ります
- 1分間休憩します
- 左手でタオルを2分間握ります
- 1分間休憩します
- 右手で再び2分間握ります
- 1分間休憩します
- 左手で再び2分間握ります
この時間配分において重要な点は、握っている間は一定の力を維持し続けることです。番組では、握る力が強すぎると血圧が急上昇する危険性があること、逆に弱すぎると効果が得られないことが説明されました。また、休憩時間を省略せずにしっかり取ることで、血管への負荷と回復のバランスが保たれると解説されました。この方法を4週間以上継続することで効果が現れ始めると番組では紹介されています。
■2. インターバル速歩の放送内容と実践方法
ためしてガッテンでは、タオルグリップ法とともにインターバル速歩も血圧を下げる運動として紹介されました。インターバル速歩とは、速歩きとゆっくり歩きを交互に繰り返す運動法であり、信州大学の研究グループが開発したものです。通常のウォーキングよりも高い運動効果が得られることが特徴であり、高血圧だけでなく生活習慣病全般の予防・改善に効果があると説明されました。
番組では、インターバル速歩が単なるウォーキングとは異なる点が強調されました。一定のペースで歩き続ける通常のウォーキングと比較して、速歩きとゆっくり歩きを交互に行うことで心肺機能への負荷が適度に高まり、より効率的な運動効果が得られます。また、高齢者でも無理なく実践できる運動強度である点も紹介され、幅広い年齢層に適した運動法として位置づけられました。
[1] 番組で紹介された速歩きとゆっくり歩きの配分
番組で紹介されたインターバル速歩の基本パターンは、3分間の速歩きと3分間のゆっくり歩きを交互に繰り返すというものです。速歩きの際は「ややきつい」と感じる程度のペースで歩き、ゆっくり歩きの際は息が整う程度のペースに落とします。このサイクルを1日に5セット以上、つまり30分以上行うことが推奨されました。週に4日以上の実施が望ましいと説明されています。
- 速歩き3分間とゆっくり歩き3分間を1セットとします
- 速歩きは「ややきつい」と感じるペースで行います
- ゆっくり歩きは呼吸を整える程度のペースで行います
- 1日5セット以上、合計30分以上の実施を目標とします
- 週に4日以上の継続が推奨されます
この運動法の効果を得るためには、速歩きの際に十分な運動強度を確保することが重要です。番組では、速歩き中に会話ができる程度では運動強度が不足している可能性があると説明されました。一方で、息が切れて歩けなくなるほどの強度は過剰であり、「ややきつい」という主観的な感覚を目安にすることが推奨されました。この強度設定により、高齢者でも安全に効果的な運動が可能になります。
[2] インターバル速歩の効果に関する番組内の説明
番組では、インターバル速歩の効果として血圧低下だけでなく、体力向上、体重減少、血糖値改善など多面的な健康効果が紹介されました。信州大学の研究データとして、5か月間のインターバル速歩実践により収縮期血圧が有意に低下したという結果が示されました。また、通常のウォーキングを行ったグループと比較して、インターバル速歩グループでより大きな改善効果が見られたことも説明されました。
- 5か月間の実践で収縮期血圧の有意な低下が確認されています
- 通常のウォーキングより高い血圧低下効果が報告されています
- 体力指標である最大酸素摂取量の向上が認められています
- 体重および体脂肪率の減少効果も確認されています
- 血糖値やコレステロール値の改善も報告されています
これらの効果は、信州大学が中高年者を対象に実施した大規模な研究に基づいています。番組では、この研究に参加した被験者のインタビューも放送され、実際に血圧が下がった体験談が紹介されました。ただし、個人差があることや、効果が現れるまでに一定期間の継続が必要であることも併せて説明されました。視聴者に対して過度な期待を抱かせないよう配慮された構成となっていました。
■3. 番組内で示された検証データと被験者の結果
ためしてガッテンでは、タオルグリップ法の効果を検証するため、番組独自の実験が行われました。8名の被験者がタオルグリップ法を一定期間実践し、その前後で血圧を測定するという内容です。結果として8名中7名の血圧が低下したことが報告され、この数字は視聴者に強いインパクトを与えました。番組内では、個々の被験者の血圧変化がグラフやパネルで視覚的に示されました。
この検証データは視聴者の関心を集める一方で、いくつかの留意点があります。被験者数が8名と少数であること、対照群が設定されていないこと、実践期間や条件の詳細が十分に説明されていないことなどが挙げられます。テレビ番組の検証実験は、医学研究で求められる厳密な条件を満たしていない場合があり、結果の解釈には注意が必要です。この点については次セクションで詳しく検証します。
[1] 被験者8名の血圧変化データ
番組で示された被験者8名の血圧変化データでは、7名において収縮期血圧または拡張期血圧、あるいはその両方が低下したことが報告されました。低下幅には個人差があり、大きく低下した被験者もいれば、わずかな低下にとどまった被験者もいました。1名については血圧の低下が見られなかったか、むしろ上昇したことが示されましたが、番組ではその理由について詳しい説明はありませんでした。
- 8名中7名で血圧低下が確認されたと報告されました
- 低下幅は被験者によって異なり個人差が見られました
- 1名は血圧低下が確認されませんでした
- 収縮期血圧と拡張期血圧の両方が測定されました
- 実践前後の数値が比較される形で提示されました
このデータは、タオルグリップ法に一定の効果がある可能性を示唆するものとして番組内で位置づけられました。しかし、8名という少数の被験者では統計的な有意性を判断することが困難です。また、血圧は日内変動や測定条件によって変化するため、単純な前後比較では効果を正確に評価できない側面があります。視聴者がこのデータを過信しないよう、番組内でも「個人差があります」という注意喚起がなされていました。
[2] 番組が伝えた効果のメカニズム
番組では、タオルグリップ法がなぜ血圧を下げるのかというメカニズムについても説明がありました。握る動作によって前腕の血管が一時的に圧迫され、握りを緩めると血流が回復します。この圧迫と解放の繰り返しが血管内皮に刺激を与え、一酸化窒素の産生を促進するというのが番組で紹介された理論です。一酸化窒素は血管を拡張させる作用があり、これにより血圧が低下すると説明されました。
- タオルを握ることで前腕の血管が圧迫されます
- 握りを緩めると血流が回復し血管に刺激が加わります
- この刺激により血管内皮から一酸化窒素が産生されます
- 一酸化窒素が血管平滑筋を弛緩させます
- 血管が拡張し血圧が低下します
このメカニズムの説明は、視聴者が運動の効果を理解するうえで重要な役割を果たしました。ただし、実際の生理学的メカニズムはより複雑であり、番組での説明は簡略化されたものです。一酸化窒素の関与については科学的な研究で支持されていますが、ハンドグリップ運動による血圧低下には他の要因も関与している可能性があります。詳細なメカニズムについては、次セクションで学術論文を参照しながら検証します。
番組で紹介された方法に対する医学的検証と留意点
ためしてガッテンで紹介されたタオルグリップ法とインターバル速歩は、いずれも学術研究に基づいた運動法です。しかし、テレビ番組で紹介された内容と実際の研究結果の間には、情報の簡略化や強調点の違いが存在する場合があります。本セクションでは、査読付き医学論文を参照しながら、番組で紹介された方法の科学的妥当性を検証します。
医学研究においては、効果を正確に評価するために厳密な研究デザインが求められます。被験者数、対照群の設定、盲検化、追跡期間などの要素が研究の質を左右します。テレビ番組の検証実験と学術研究では、これらの条件が大きく異なることがあり、結果の解釈にも影響を与えます。番組の内容を鵜呑みにするのではなく、エビデンスに基づいた理解が重要です。
以下では、ハンドグリップ運動(等尺性運動)に関するメタ解析や臨床研究の結果を紹介し、番組で示された効果がどの程度科学的に支持されるのかを明らかにします。また、インターバル速歩についても信州大学の研究論文を参照し、番組内容との整合性を確認します。さらに、これらの運動法を実践する際の留意点についても、医学的見地から解説します。
■1. 等尺性運動による血圧低下効果に関する学術的エビデンス
等尺性運動とは、筋肉の長さを変えずに力を発揮する運動形態を指します。ハンドグリップ運動はその代表例であり、握力を一定時間維持することで前腕の筋肉に負荷をかけます。この運動形態が血圧に与える影響については、複数の研究グループが検証を行っており、メタ解析によってその効果が統合的に評価されています。
等尺性運動の血圧低下効果に関する研究は、1990年代から蓄積されてきました。当初は単一の研究施設による小規模な検証が中心でしたが、2010年代に入ると複数の研究結果を統合したメタ解析が発表されるようになりました。これらの統合解析により、等尺性運動が他の運動形態と比較しても優れた降圧効果を持つ可能性が示唆されています。
[1] メタ解析が示す等尺性運動の降圧効果
2013年に発表されたCornelissen VAとSmart NAによるメタ解析では、93件の臨床試験から得られた5,223名のデータが統合的に分析されました【文献1】。この研究では、有酸素運動、動的レジスタンス運動、等尺性レジスタンス運動、およびこれらの組み合わせによる血圧への影響が比較検討されています。結果として、等尺性レジスタンス運動は収縮期血圧を平均10.9mmHg、拡張期血圧を平均6.2mmHg低下させることが示されました。
- 93件の臨床試験、5,223名のデータを統合したメタ解析です。
- 等尺性レジスタンス運動による収縮期血圧の低下幅は平均10.9mmHgでした。
- 拡張期血圧の低下幅は平均6.2mmHgでした。
- 有酸素運動や動的レジスタンス運動と比較しても大きな降圧効果が認められました。
- この結果は査読付き学術誌Journal of the American Heart Associationに掲載されています。
このメタ解析の結果は、ためしてガッテンで紹介されたハンドグリップ法に科学的根拠があることを支持しています。ただし、メタ解析に含まれた研究の多くは専用のハンドグリップ器具を使用しており、タオルを用いた方法の効果を直接検証したものではありません。また、被験者の多くは軽度から中等度の高血圧患者であり、正常血圧者や重度の高血圧患者では効果が異なる可能性があります。
[2] 等尺性運動に関する別のメタ解析による検証
2016年に発表されたInder JDらによるメタ解析では、等尺性レジスタンストレーニングに焦点を絞った11件の臨床試験、302名のデータが分析されました【文献2】。この研究でも等尺性運動による有意な血圧低下が確認され、収縮期血圧は平均5.20mmHg、拡張期血圧は平均3.91mmHg低下することが示されました。Cornelissenらの解析と比較すると低下幅は小さいですが、統計的に有意な効果が認められています。
- 11件の臨床試験、302名を対象としたメタ解析です。
- 収縮期血圧の低下幅は平均5.20mmHgでした。
- 拡張期血圧の低下幅は平均3.91mmHgでした。
- いずれも統計的に有意な低下でした。
- Hypertension Research誌に掲載された査読付き論文です。
2つのメタ解析で示された降圧効果の数値に差がある理由としては、対象とした研究の選定基準や被験者の特性の違いが考えられます。Inderらの解析は等尺性運動のみを対象としており、より限定的なデータに基づいています。一方、Cornelissenらの解析は複数の運動形態を含む大規模なものです。いずれにしても、等尺性運動に一定の降圧効果があることは両方の解析で支持されています。
■2. ハンドグリップ運動による血圧低下のメカニズム
ためしてガッテンでは、ハンドグリップ運動が血管内皮からの一酸化窒素産生を促進し、これが血管拡張と血圧低下につながると説明されました。この説明は科学的研究によって部分的に支持されています。一酸化窒素は血管平滑筋を弛緩させる作用を持つ物質であり、血圧調節において重要な役割を果たしています。
ハンドグリップ運動中は、握ることで前腕の血管が圧迫され、血流が一時的に制限されます。握りを緩めると血流が回復し、この際に血管壁に剪断応力(シアストレス)が加わります。この剪断応力が血管内皮細胞を刺激し、一酸化窒素合成酵素の活性化を通じて一酸化窒素の産生を促進すると考えられています。
[1] 一酸化窒素の関与を示す研究
2011年に発表されたWray DWらの研究では、ハンドグリップ運動後の血管拡張反応における一酸化窒素の役割が検証されました【文献3】。この研究では、一酸化窒素合成酵素の阻害剤を投与した条件と投与しない条件で血管拡張反応を比較しています。結果として、ハンドグリップ運動後の血管拡張の約70%が一酸化窒素に依存していることが示されました。
- ハンドグリップ運動後の血管拡張反応を測定した研究です。
- 一酸化窒素合成酵素阻害剤を用いた実験デザインが採用されました。
- 血管拡張反応の約70%が一酸化窒素に依存していました。
- American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology誌に掲載されています。
- 一酸化窒素がハンドグリップ運動の効果に重要な役割を果たすことが示されました。
この研究結果は、ためしてガッテンで説明されたメカニズムを科学的に裏付けるものです。一酸化窒素が血管拡張に重要な役割を果たしているという番組の説明は、学術研究と整合しています。ただし、血圧低下のメカニズムは一酸化窒素だけでは説明しきれない複雑なものであり、自律神経系の変化や血管構造の適応なども関与している可能性があります。
[2] 日本人を対象としたハンドグリップ運動の研究
2020年に発表されたOkamoto Tらの研究では、日本人を対象としてハンドグリップ運動の血圧低下効果が検証されました【文献4】。この研究では、8週間のハンドグリップトレーニングにより、中枢血圧(大動脈血圧)と末梢血圧の両方が有意に低下することが示されました。日本人を対象とした研究であるため、日本の視聴者にとってより直接的な参考情報となります。
- 日本人を対象とした8週間の介入研究です。
- 中枢血圧と末梢血圧の両方が測定されました。
- 両方の血圧指標において有意な低下が確認されました。
- Aging Clinical and Experimental Research誌に掲載された査読付き論文です。
- 日本人における効果を直接示した重要な研究です。
この研究は、海外で開発されたハンドグリップ法が日本人にも有効である可能性を示しています。ためしてガッテンで紹介された方法が日本の視聴者に適用できるかどうかという点について、この研究は肯定的な証拠を提供しています。ただし、この研究でも専用の器具が使用されており、タオルを用いた方法の効果は直接検証されていません。
■3. インターバル速歩に関する学術的エビデンス
インターバル速歩は信州大学の能勢博教授らの研究グループが開発した運動法であり、その効果は複数の学術論文で報告されています。ためしてガッテンで紹介された内容は、これらの研究成果に基づいています。インターバル速歩の特徴は、速歩きとゆっくり歩きを交互に行うことで、通常のウォーキングよりも高い運動効果を得られる点にあります。
信州大学の研究グループは、中高年者を対象とした大規模な介入研究を実施しており、インターバル速歩の効果に関する豊富なデータを蓄積しています。これらの研究では、血圧低下だけでなく、体力向上、体組成の改善、血糖値やコレステロール値の改善など、多面的な健康効果が報告されています。
[1] 信州大学の研究が示すインターバル速歩の効果
2007年にMayo Clinic Proceedingsに発表されたNemoto Kらの研究では、5か月間のインターバル速歩プログラムの効果が検証されました【文献5】。この研究では、インターバル速歩群と通常のウォーキング群を比較し、インターバル速歩群でより大きな健康改善効果が認められました。収縮期血圧についても有意な低下が確認されており、番組で紹介された内容と整合しています。
- 5か月間の介入研究であり、Mayo Clinic Proceedings誌に掲載されています。
- インターバル速歩群と通常ウォーキング群の比較研究です。
- インターバル速歩群で収縮期血圧の有意な低下が認められました。
- 最大酸素摂取量の向上もインターバル速歩群で顕著でした。
- 体組成の改善効果も報告されています。
この研究は、インターバル速歩が通常のウォーキングよりも優れた健康効果を持つことを示した重要な論文です。ためしてガッテンで紹介された「速歩き3分、ゆっくり歩き3分」というプロトコルは、この研究で使用された方法に基づいています。学術論文として発表された研究に基づいているため、インターバル速歩の科学的根拠は比較的確立されていると言えます。
[2] インターバル速歩とタオルグリップ法の比較
ためしてガッテンでは、タオルグリップ法とインターバル速歩の両方が紹介されましたが、これらは異なる特性を持つ運動法です。タオルグリップ法は等尺性運動であり、自宅で短時間で実施できる点が特徴です。一方、インターバル速歩は有酸素運動の一種であり、屋外で30分以上の時間をかけて行う運動です。それぞれの利点と限界を理解することが重要です。
- タオルグリップ法は等尺性運動、インターバル速歩は有酸素運動です。
- タオルグリップ法は1日約11分、インターバル速歩は1日30分以上を要します。
- タオルグリップ法は自宅で実施可能、インターバル速歩は屋外での実施が基本です。
- 血圧低下効果はいずれも学術研究で支持されています。
- 個人の生活スタイルや身体状況に応じた選択が推奨されます。
どちらの運動法が優れているかは一概には言えず、個人の生活スタイルや好み、身体状況によって適した方法が異なります。タオルグリップ法は短時間で実施できるため継続しやすい反面、全身運動ではないため心肺機能向上や体重減少などの効果は限定的です。インターバル速歩は全身運動であり多面的な健康効果が期待できますが、天候や場所の制約を受けます。両方を組み合わせることも選択肢の一つです。
■4. 番組内容を実践する際の医学的留意点
ためしてガッテンで紹介された運動法を実践する際には、いくつかの医学的留意点があります。テレビ番組では放送時間の制約から、注意事項が十分に伝えられない場合があります。特に、高血圧の程度が重い方や他の疾患を合併している方は、運動を開始する前に医療機関への相談が必要です。
運動療法は血圧管理において有効な手段ですが、万能ではありません。薬物療法が必要な方が運動だけで血圧をコントロールしようとすることは危険です。また、運動中に血圧が急上昇するリスクもあり、特に等尺性運動では握りすぎによる過度な血圧上昇に注意が必要です。安全な実践のためには、正しい知識と適切な強度設定が不可欠です。
[1] 運動を開始する前に確認すべき事項
血圧を下げる運動を開始する前に、現在の健康状態を確認することが重要です。特に、収縮期血圧が180mmHg以上または拡張期血圧が110mmHg以上の重度高血圧の方は、運動開始前に血圧を薬物療法でコントロールする必要があります。また、心疾患、脳血管疾患、腎疾患などの合併症がある場合は、運動の可否や適切な強度について医師に相談することが推奨されます。
- 現在の血圧値を把握し、重度高血圧でないことを確認します。
- 心疾患や脳血管疾患の既往がある場合は医師に相談します。
- 腎疾患や糖尿病などの合併症がある場合も医師への相談が推奨されます。
- 現在服用中の薬がある場合は、運動との相互作用を確認します。
- 体調が優れない日は無理に運動を行わないことが大切です。
これらの確認事項は、運動を安全に行うための基本的な前提条件です。ためしてガッテンでも注意喚起はなされていましたが、視聴者全員がこれらの情報を十分に認識しているとは限りません。運動療法を開始する際は、まず自身の健康状態を正確に把握し、必要に応じて医療機関を受診することが安全な実践の第一歩となります。
[2] 番組で紹介された方法の限界と注意点
ためしてガッテンで紹介されたタオルグリップ法には、いくつかの限界があります。まず、番組で紹介されたタオルを用いる方法は、学術研究で使用された専用器具とは異なります。専用器具では握力の30%という負荷を正確に設定できますが、タオルでは負荷の調整が困難です。握りすぎると血圧が急上昇するリスクがあり、弱すぎると効果が得られない可能性があります。
- タオルでは握力の30%という適切な負荷を正確に設定することが困難です。
- 握りすぎると運動中に血圧が急上昇するリスクがあります。
- 弱すぎる握りでは十分な効果が得られない可能性があります。
- 番組の検証実験は被験者8名と少数であり、統計的信頼性に限界があります。
- 効果が現れるまでに4週間以上の継続が必要であり、即効性はありません。
これらの限界を理解したうえで実践することが重要です。タオルグリップ法に効果がないということではなく、番組で示されたほど簡単に効果が得られるとは限らないということです。適切な負荷設定、継続的な実践、そして定期的な血圧測定によるモニタリングが、効果を得るための鍵となります。過度な期待を持たず、現実的な姿勢で取り組むことが推奨されます。
血圧を下げる運動を安全かつ効果的に実践するための方法
前セクションでは、ためしてガッテンで紹介された運動法の科学的根拠と留意点を検証しました。本セクションでは、これらの知見を踏まえて、血圧を下げる運動を安全かつ効果的に実践するための具体的な方法を解説します。学術研究で示されたエビデンスに基づき、実践者が最大限の効果を得られるよう情報を整理します。
運動療法の効果を得るためには、正しい方法で継続的に実践することが不可欠です。誤った方法で行うと効果が得られないだけでなく、健康被害を招く可能性もあります。特に高血圧の方は、運動中の血圧上昇リスクを考慮した安全な実践方法を理解する必要があります。本セクションでは、安全性と効果を両立させるための実践ガイドを提供します。
以下では、ハンドグリップ運動とインターバル速歩それぞれについて、学術研究で用いられた方法に基づく正確な実践手順を説明します。また、運動効果を最大化するための条件設定、継続のためのコツ、そして効果を確認するためのモニタリング方法についても解説します。これらの情報を参考に、個々の状況に適した運動プログラムを構築してください。
■1. ハンドグリップ運動の正確な実践方法
ハンドグリップ運動を効果的に行うためには、学術研究で用いられた方法を正確に理解することが重要です。ためしてガッテンではタオルを用いた簡易的な方法が紹介されましたが、研究では専用のハンドグリップ器具を使用して負荷を正確に設定しています。タオルを用いる場合でも、研究で示された原則を可能な限り再現することで、効果を高めることができます。
ハンドグリップ運動の効果は、適切な負荷強度と時間配分に大きく依存します。負荷が強すぎると運動中に血圧が過度に上昇し、心血管系への負担が増加します。逆に負荷が弱すぎると、血管への刺激が不十分となり、降圧効果が得られません。最大握力の30%程度という負荷設定が多くの研究で採用されており、この強度が安全性と効果のバランスが取れた水準と考えられています。
[1] 適切な負荷強度の設定方法
ハンドグリップ運動における適切な負荷強度は、最大握力の30%程度です。この強度を正確に設定するためには、まず自身の最大握力を測定する必要があります。握力計を用いて最大握力を測定し、その30%の値を計算することで目標負荷が算出できます。専用のハンドグリップ器具を使用すれば、この負荷を正確に設定することが可能です。
- 握力計を用いて左右それぞれの最大握力を測定します。
- 測定値の30%を計算し、目標負荷とします。
- 専用のハンドグリップ器具を使用する場合は、この数値に設定します。
- タオルを用いる場合は、軽く握って抵抗を感じる程度を目安とします。
- 握っている間に息を止めないよう注意します。
タオルを用いる場合は、負荷の正確な設定が困難であるという限界があります。しかし、いくつかの目安を参考にすることで、適切な強度に近づけることは可能です。握ったときに「軽く力を入れている」と感じる程度が30%前後の負荷に相当します。握力を振り絞る必要がある強さは過剰であり、何の抵抗も感じない弱さは不十分です。最初は控えめな強度から始め、慣れてきたら徐々に調整することが推奨されます。
[2] 研究に基づく時間配分プロトコル
ハンドグリップ運動の時間配分は、多くの研究で類似したプロトコルが採用されています。基本的なパターンは、2分間握って1〜3分間休憩するというサイクルを片手あたり2回、両手合計4回行うというものです。これにより1回のセッションは約12〜15分程度となります。週に3〜5回の実施が推奨されており、効果が現れるまでに4〜8週間程度の継続が必要とされています。
- 右手で2分間、設定した負荷でグリップを握り続けます。
- 1〜3分間の休憩を取り、呼吸を整えます。
- 左手で2分間、同様にグリップを握り続けます。
- 1〜3分間の休憩を取ります。
- 右手で再度2分間握ります。
- 1〜3分間の休憩後、左手で再度2分間握ります。
- これを週に3〜5回、4週間以上継続します。
この時間配分において重要な点は、握っている間は一定の力を維持し続けることです。途中で力が抜けてしまうと、血管への刺激が不十分となります。また、休憩時間を省略しないことも重要であり、休憩中に血流が回復することで血管内皮への刺激が生じます。2分間の維持が困難な場合は、最初は短い時間から始めて徐々に延長していく方法も有効です。
■2. インターバル速歩の正確な実践方法
インターバル速歩を効果的に行うためには、速歩きの運動強度を適切に設定することが重要です。信州大学の研究で用いられた方法では、速歩き時の運動強度は最大酸素摂取量の70%程度、主観的には「ややきつい」と感じる程度とされています。この強度設定が、安全性を確保しながら十分な運動効果を得るための鍵となります。
インターバル速歩のもう一つの重要な要素は、速歩きとゆっくり歩きの時間配分です。研究では3分間の速歩きと3分間のゆっくり歩きを交互に行う方法が採用されています。この配分により、高強度の運動と回復を繰り返すことで、心肺機能への適度な負荷と疲労回復のバランスが取れます。1日に5セット以上、合計30分以上の実施が目標とされています。
[1] 速歩き時の適切な運動強度
速歩き時の運動強度は、主観的運動強度(RPE)を用いて設定することができます。ボルグスケールという指標では、6から20までの数値で運動のきつさを表し、13(ややきつい)から14(きつい)の範囲が推奨されています。会話が困難になる程度、軽く息が上がる程度という表現も目安として用いられます。心拍数を指標にする場合は、最大心拍数の60〜70%程度が目標となります。
- 主観的に「ややきつい」と感じる程度の速さで歩きます。
- 会話をするのがやや困難になる程度が目安です。
- 軽く息が上がり、汗ばむ程度の強度を目指します。
- 心拍数を測定できる場合は、最大心拍数の60〜70%を目標とします。
- 最大心拍数の目安は「220−年齢」で概算できます。
運動強度が低すぎると、通常のウォーキングと変わらない効果しか得られません。信州大学の研究では、インターバル速歩群と通常ウォーキング群を比較し、インターバル速歩群でより大きな効果が認められました【文献5】。この差は、速歩き時の運動強度の違いによるものと考えられています。したがって、速歩き時には意識的に歩行速度を上げ、十分な運動強度を確保することが重要です。
[2] 継続のための実践的なアドバイス
インターバル速歩の効果を得るためには、週に4日以上、5か月以上の継続が推奨されています。しかし、長期間にわたって運動を継続することは容易ではありません。継続のためには、生活習慣の中に運動を組み込む工夫や、モチベーションを維持するための方法が必要です。以下に、継続を支援するための実践的なアドバイスを示します。
- 毎日決まった時間に実施することで習慣化を促進します。
- 通勤や買い物などの移動時間を活用する方法も有効です。
- 歩数計やスマートウォッチを活用して運動量を可視化します。
- 家族や友人と一緒に行うことでモチベーションを維持できます。
- 天候が悪い日は屋内での代替運動を検討します。
継続が困難になる要因として、天候、時間の制約、疲労、モチベーションの低下などが挙げられます。これらの障壁を事前に想定し、対策を講じておくことが継続率の向上につながります。たとえば、雨天時には室内でのステップ運動に切り替える、忙しい日は短縮版のプログラムを実施するなど、柔軟な対応が可能な計画を立てておくことが推奨されます。完璧を目指すよりも、継続することを優先する姿勢が重要です。
■3. 運動効果を最大化するための条件設定
血圧を下げる運動の効果を最大化するためには、運動そのものの実践方法だけでなく、実施する時間帯、頻度、そして運動以外の生活習慣も考慮する必要があります。これらの条件を最適化することで、同じ運動量でもより大きな効果を得ることが期待できます。本項では、運動効果を高めるための条件設定について解説します。
運動療法は、単独で実施するよりも、食事療法や生活習慣の改善と組み合わせることで相乗効果が期待できます。塩分摂取量の削減、適正体重の維持、禁煙、節酒などの生活習慣改善と運動療法を併用することで、血圧低下効果が増強される可能性があります。運動だけに頼るのではなく、総合的なアプローチを心がけることが重要です。
[1] 運動を実施する最適な時間帯
血圧を下げる運動を実施する時間帯については、明確なエビデンスに基づく推奨はありませんが、いくつかの考慮事項があります。早朝は血圧が急上昇しやすい時間帯であり、起床直後の激しい運動は心血管イベントのリスクを高める可能性が指摘されています。一方、夕方から夜にかけての運動は、睡眠に影響を与える場合があります。
- 起床直後の激しい運動は避け、ウォーミングアップを十分に行います。
- 朝食後1〜2時間経過してからの運動が推奨されます。
- 夕方から夜の運動は就寝2〜3時間前までに終えることが望ましいです。
- 毎日同じ時間帯に実施することで習慣化しやすくなります。
- 個人の生活リズムに合わせて無理のない時間帯を選択します。
最適な時間帯は個人の生活パターンや体調によって異なります。重要なのは、継続しやすい時間帯を選ぶことです。理想的な時間帯であっても継続できなければ効果は得られません。自身の生活スケジュールを考慮し、無理なく続けられる時間帯を設定することが実践的なアプローチとなります。また、血圧は日内変動があるため、血圧測定を行う際は毎回同じ時間帯に測定することが比較のために重要です。
[2] 運動頻度と効果の関係
運動頻度と血圧低下効果の関係については、週3〜5回の実施が多くの研究で推奨されています。毎日実施することが必ずしも最善ではなく、休息日を設けることで筋肉や血管の回復と適応が促進される可能性があります。一方で、頻度が低すぎると効果が減弱するため、最低でも週3回以上の実施が目標とされています。
- 週3回は最低限の頻度として設定します。
- 可能であれば週4〜5回の実施を目指します。
- 連続した日よりも1日おきの実施が推奨される場合があります。
- 毎日実施する場合は、運動強度を調整します。
- 体調不良時は無理をせず休息を優先します。
ハンドグリップ運動とインターバル速歩を組み合わせて実施する場合は、両方の運動を同じ日に行うことも、別々の日に行うことも可能です。たとえば、週3回のハンドグリップ運動と週3回のインターバル速歩を交互に実施するパターンや、同じ日に両方を実施して週3回のセッションとするパターンなど、様々な組み合わせが考えられます。個人の時間的制約や体力に応じて、継続可能なスケジュールを設計してください。
■4. 効果を確認するためのモニタリング方法
運動療法の効果を確認するためには、定期的な血圧測定が不可欠です。家庭血圧測定は、診察室での測定よりも日常の血圧状態を正確に反映するとされており、運動効果の評価に適しています。正しい測定方法を理解し、継続的に記録することで、運動の効果を客観的に評価することができます。
血圧測定だけでなく、運動の実施状況を記録することも重要です。実施日、時間、強度、体調などを記録することで、効果が得られた条件と得られなかった条件を分析することが可能になります。また、記録を続けること自体がモチベーションの維持につながり、継続率の向上に寄与します。
[1] 家庭血圧測定の正しい方法
家庭血圧測定は、運動療法の効果を評価するための基本的な手段です。正確な測定を行うためには、測定条件を一定に保つことが重要です。日本高血圧学会のガイドラインでは、朝と晩の1日2回、決まった条件で測定することが推奨されています。測定値は記録し、長期的な傾向を把握することが効果評価に役立ちます。
- 朝の測定は起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前に行います。
- 晩の測定は就寝前の安静時に行います。
- 測定前に1〜2分間、椅子に座って安静にします。
- 上腕式の血圧計を使用し、カフを心臓の高さに合わせます。
- 毎回同じ腕で測定し、2回測定して平均値を記録します。
運動直後は血圧が変動しているため、運動効果の評価には適しません。運動後少なくとも30分以上経過してから測定することが推奨されます。また、測定値は日によって変動するため、1回の測定結果で効果を判断するのではなく、週単位や月単位での平均値の推移を確認することが重要です。4週間以上継続した後に、開始前と比較して平均血圧が低下していれば、運動の効果が現れていると考えられます。
[2] 運動記録と血圧変化の分析
運動の効果を正確に評価するためには、運動の実施記録と血圧測定記録を照合して分析することが有効です。運動を実施した日と実施しなかった日の血圧を比較したり、運動強度や時間と血圧変化の関係を分析したりすることで、自身に最適な運動条件を見つける手がかりが得られます。
- 運動実施日、時間、種類、強度、体調を毎回記録します。
- 血圧測定記録と運動記録を同じノートやアプリで管理します。
- 週ごとの平均血圧を計算し、推移をグラフ化します。
- 運動開始前の1週間の平均血圧をベースラインとして記録します。
- 4週間ごとにベースラインと比較して効果を評価します。
記録と分析を継続することで、運動療法に対する自身の反応性を理解することができます。効果が十分に得られていない場合は、運動強度や頻度の調整、あるいは別の運動法への変更を検討することができます。また、血圧が十分にコントロールできていない場合は、医療機関を受診して薬物療法の必要性を相談することが推奨されます。運動療法はあくまで血圧管理の一手段であり、必要に応じて他の治療法と組み合わせることが重要です。
まとめ
本記事では、NHK「ためしてガッテン」で放送された血圧を下げる運動について、番組内容の整理、科学的検証、そして安全かつ効果的な実践方法を解説しました。番組で紹介されたタオルグリップ法とインターバル速歩は、いずれも学術研究に基づいた運動法であり、適切に実践することで血圧低下効果が期待できます。
等尺性運動であるハンドグリップ法については、複数のメタ解析により有意な降圧効果が確認されています。Cornelissen VAとSmart NAによる93試験5,223名を対象としたメタ解析では、収縮期血圧が平均10.9mmHg、拡張期血圧が平均6.2mmHg低下することが示されました【文献1】。また、Inder JDらによる11試験302名を対象としたメタ解析でも、収縮期血圧5.20mmHg、拡張期血圧3.91mmHgの有意な低下が報告されています【文献2】。これらの数値は、薬物療法に匹敵する効果であり、運動療法の有効性を強く支持するものです。
ハンドグリップ運動による血圧低下のメカニズムについては、Wray DWらの研究により、運動後の血管拡張の約70%が一酸化窒素に依存していることが示されました【文献3】。この知見は、ためしてガッテンで説明されたメカニズムと整合しており、番組内容の科学的妥当性を裏付けています。また、Okamoto Tらの研究では、日本人を対象とした8週間のハンドグリップトレーニングにより中枢血圧と末梢血圧の両方が有意に低下することが確認されており【文献4】、海外で開発された方法が日本人にも有効であることが示されています。
インターバル速歩については、Nemoto Kらの研究により、5か月間の実践で収縮期血圧の有意な低下と体力向上効果が報告されています【文献5】。速歩き3分とゆっくり歩き3分を交互に行うこの方法は、通常のウォーキングよりも高い健康効果が得られることが学術的に確認されており、番組で紹介された内容は科学的根拠に基づいたものです。
ただし、番組で紹介された方法を実践する際にはいくつかの留意点があります。タオルを用いる方法では負荷の正確な設定が困難であり、学術研究で使用された専用器具とは条件が異なります。適切な負荷は最大握力の30%程度であり、強すぎる握りは運動中の血圧急上昇を招くリスクがあります。また、重度高血圧や心疾患などの合併症がある場合は、運動開始前に医師への相談が必要です。
運動療法の効果を得るためには、正しい方法で継続的に実践することが不可欠です。ハンドグリップ運動は2分間握って1〜3分休憩を両手各2回、週3〜5回の頻度で4〜8週間以上継続することが推奨されます。インターバル速歩は1日30分以上、週4日以上の実施が目標とされています。効果の確認には家庭血圧測定を毎日行い、週単位や月単位での平均値の推移を記録することが有効です。
血圧管理は長期的な取り組みであり、運動療法は生活習慣の一部として無理なく継続できる形で取り入れることが成功の鍵となります。運動療法だけでなく、食事療法、生活習慣の改善、必要に応じた薬物療法を組み合わせた総合的なアプローチが、血圧管理において最も効果的です。本記事で紹介した情報を参考に、ご自身の生活スタイルに合った運動プログラムを構築し、健康的な血圧管理を実現してください。
専門用語一覧
- 等尺性運動:筋肉の長さを変えずに力を発揮する運動形態を指します。ハンドグリップ運動が代表例であり、関節を動かさずに筋肉を収縮させた状態を維持します。有酸素運動や動的レジスタンス運動とは異なる生理学的反応を引き起こし、血圧低下効果については近年の研究で注目されています。
- 収縮期血圧:心臓が収縮して血液を送り出すときに血管壁にかかる圧力の最大値を指します。一般的に「上の血圧」と呼ばれ、高血圧の診断基準では140mmHg以上が高血圧とされています。運動療法や薬物療法の効果を評価する際の重要な指標となります。
- 拡張期血圧:心臓が拡張して血液を受け入れているときに血管壁にかかる圧力の最小値を指します。一般的に「下の血圧」と呼ばれ、高血圧の診断基準では90mmHg以上が高血圧とされています。収縮期血圧とともに血圧管理の重要な指標です。
- メタ解析:複数の独立した研究結果を統計学的手法により統合し、総合的な結論を導き出す研究手法を指します。個々の研究よりも大きなサンプルサイズに基づく分析が可能となり、エビデンスの信頼性が高まります。本記事ではCornelissenらやInderらのメタ解析を引用しています。
- 一酸化窒素:血管内皮細胞から産生される気体分子であり、血管平滑筋を弛緩させて血管を拡張させる作用を持ちます。英語ではnitric oxideと呼ばれ、NOと略されます。ハンドグリップ運動による血圧低下メカニズムにおいて重要な役割を果たしています。
- 血管内皮:血管の最も内側を覆う細胞層を指します。単に血液と血管壁を隔てるだけでなく、一酸化窒素などの血管作動性物質を産生し、血管の収縮・拡張を調節する重要な機能を担っています。運動による刺激で内皮機能が改善することが知られています。
- 剪断応力:血流が血管壁に対して平行方向に加える力を指します。シアストレスとも呼ばれます。血流が回復する際に血管内皮に剪断応力が加わり、これが一酸化窒素産生を促進する刺激となります。ハンドグリップ運動の効果メカニズムに関与しています。
- 最大酸素摂取量:運動中に体内に取り込むことができる酸素の最大量を指します。VO2maxとも表記され、心肺持久力の指標として用いられます。インターバル速歩では最大酸素摂取量の向上が確認されており、全身持久力の改善効果を示しています。
- インターバル速歩:速歩きとゆっくり歩きを交互に繰り返す運動法を指します。信州大学の能勢博教授らが開発した方法であり、通常のウォーキングよりも高い運動効果が得られることが学術研究で確認されています。3分間の速歩きと3分間のゆっくり歩きを交互に行うパターンが標準的です。
- 中枢血圧:大動脈など心臓に近い中枢の血管における血圧を指します。上腕で測定する末梢血圧とは異なり、心臓や脳などの重要臓器にかかる圧力をより直接的に反映します。Okamotoらの研究では、ハンドグリップ運動により中枢血圧と末梢血圧の両方が低下することが示されました。
- 家庭血圧:医療機関ではなく家庭で測定する血圧を指します。診察室血圧よりも日常の血圧状態を正確に反映するとされ、高血圧の診断や治療効果の評価において重要視されています。朝と晩の1日2回、一定の条件で測定することが推奨されています。
参考文献
- Cornelissen VA, Smart NA. Exercise training for blood pressure: a systematic review and meta-analysis. J Am Heart Assoc. 2013;2(1):e004473. PMID: 23525435.
- Inder JD, Carlson DJ, Dieberg G, McFarlane JR, Hess NC, Smart NA. Isometric exercise training for blood pressure management: a systematic review and meta-analysis to optimize benefit. Hypertens Res. 2016;39(2):88-94. PMID: 26467494.
- Wray DW, Witman MA, Ives SJ, McDaniel J, Fjeldstad AS, Trinity JD, Conklin JD, Supiano MA, Richardson RS. Progressive handgrip exercise: evidence of nitric oxide-dependent vasodilation and blood flow regulation in humans. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2011;300(3):H1101-7. PMID: 21217074.
- Okamoto T, Hashimoto Y, Kobayashi R. Isometric handgrip training reduces blood pressure and wave reflections in East Asian, non-medicated, middle-aged and older adults: a randomized control trial. Aging Clin Exp Res. 2020;32(8):1485-1491. PMID: 31463925.
- Nemoto K, Gen-no H, Masuki S, Okazaki K, Nose H. Effects of high-intensity interval walking training on physical fitness and blood markers in middle-aged and older people. Mayo Clin Proc. 2007;82(7):803-811. PMID: 17605959.
本記事に関するご質問は、お問い合わせからご連絡ください。真剣なご相談には誠実に対応しますが、興味本位、いたずら、嫌がらせを目的とするお問い合わせには対応しません。ご了承ください。医療機関の方には技術のご紹介、患者の方には実施医療機関のご案内も可能です。
執筆者
■博士(工学)中濵数理
- 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
- 沖縄再生医療センター:センター長
- 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
- 日本再生医療学会:正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
- 日本バイオマテリアル学会:正会員
- 公益社団法人高分子学会:正会員
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