ばね指の治療法:「ためしてガッテン」放送内容の検証と正しい対処法

ばね指の治療法:「ためしてガッテン」放送内容の検証と正しい対処法

指を曲げたときにカクンと引っかかり、伸ばそうとするとばねのように急に戻る―そんな症状に悩んでいませんか。2012年2月15日にNHK「ためしてガッテン」で手指の痛みが特集され、ばね指や腱鞘炎について取り上げられたことで、多くの視聴者がこの疾患に関心を持つようになりました。しかし、番組放送後、日本手外科学会が公式見解を発表したことをご存じでしょうか。本記事では、「ためしてガッテン」で紹介された内容を振り返りながら、医学的に正しいばね指の治療法と予防策について、最新の研究データをもとに解説します。

ばね指は医学的には弾発指または狭窄性腱鞘炎と呼ばれ、指の腱と腱鞘の間に炎症が生じることで発症します。特に更年期の女性、妊娠・出産期の女性、手指を頻繁に使用する職業の方に多く見られ、放置すると関節が固まって動かなくなる拘縮という状態に進行する可能性があります。早期に適切な治療を受ければ良好な予後が期待できる疾患ですが、正しい知識を持つことが重要です。本記事では、「ためしてガッテン」の番組内容を検証しながら、保存療法から手術療法まで、エビデンスに基づいた治療法を詳しく解説します。

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本記事では「ためしてガッテン」の内容検証と基本的な治療法を解説しています。より詳細な病態メカニズム、最新の研究知見、治療法の選択基準については、こちらの専門記事をご参照ください。

ばね指とは:症状と発症メカニズム

ばね指は、指の屈筋腱とそれを包む腱鞘との間に生じる炎症によって引き起こされる疾患です。腱鞘は腱が浮き上がらないようにベルトのような役割を果たしており、通常は腱が腱鞘内を滑らかに滑走することで指の曲げ伸ばしが可能になります。しかし、手指の過度な使用や反復動作によって腱鞘に炎症が生じると、腱鞘が肥厚し、同時に腱も肥大化します。その結果、腱が狭くなった腱鞘を通過する際に引っかかりが生じ、指を伸ばそうとするとカクンとばねのように急に指が伸びる現象が起こります。

■1. ばね指の主な症状

ばね指の最も特徴的な症状は、指の曲げ伸ばし時に生じる弾発現象です。指を曲げた状態から伸ばそうとすると、ある角度で引っかかりが生じ、さらに力を加えるとカクンまたはパチンという音とともに急に指が伸びます。この弾発現象は、初期には軽度ですが、症状が進行するにつれて顕著になります。また、手のひら側の指の付け根に限局した痛みも重要な症状であり、特にA1滑車と呼ばれる部位を押すと強い圧痛を感じます。

[1] 初期症状と進行パターン

ばね指の症状は、進行度によって以下のように分類されます。初期段階では、指の付け根に軽度の痛みと違和感を自覚する程度です。この段階では、朝方に症状が強く、日中に指を動かしているうちに徐々に改善するという日内変動が特徴的です。症状が進行すると、明らかな弾発現象が出現し、自力で指を伸ばすことができますが、カクンという引っかかりと弾発を自覚するようになります。

  • グレード1(初期):手のひら側の指の付け根に圧痛と軽度の腫脹があり、指の屈伸時に軽度の抵抗感を自覚します。
  • グレード2(軽度):自動運動で弾発現象が出現し、指を曲げたり伸ばしたりする際にカクンという引っかかりを伴います。
  • グレード3(中等度):弾発現象が顕著で、自力での指の伸展が困難になり、他動的に補助しなければ指が伸びない状態です。
  • グレード4(重度):指が屈曲位で固定され、自動運動も他動運動も不可能となり、関節拘縮が進行した状態です。

症状が進行してグレード3や4に至ると、日常生活に著しい支障をきたします。物をつかむ、ペンを持つ、ボタンをかけるといった基本的な動作が困難になり、生活の質が大きく低下します。また、放置すると関節が固まって動かなくなる拘縮が生じ、たとえ手術を行っても可動域が完全には回復しない可能性があります。したがって、初期症状を自覚した時点で早期に医療機関を受診することが、良好な予後を得るために極めて重要です。

■2. 発症しやすい指と年齢・性別

ばね指はどの指にも発症し得ますが、特に親指、中指、薬指に好発します。親指は日常生活で最も頻繁に使用される指であり、物をつまむ、握る、押すといった動作で強い力が加わるため、腱と腱鞘への負荷が大きくなります。また、複数の指に同時に発症することもあり、その場合は関節リウマチなどの全身性疾患の可能性も考慮する必要があります。発症年齢は50歳代から増加傾向を示し、65歳から69歳にピークを迎えます。

[1] 女性に多い理由とホルモンの影響

ばね指は男女比で約1対2と女性に多く、特に更年期女性と妊娠・出産期の女性に高頻度で発症します。この性差の背景には、女性ホルモンであるエストロゲンの変動が深く関与しています。エストロゲンは腱鞘組織内に存在するエストロゲン受容体-β(ER-β)を介して、組織の代謝と炎症反応を調節しています。更年期にはエストロゲンの分泌が急激に減少し、これにより腱鞘を覆う滑膜が腫脹しやすくなり、炎症が生じやすい状態になります【文献1】。

  • 更年期女性:閉経に伴うエストロゲンの急激な低下により、滑膜の腫脹と血流障害が生じやすくなります。
  • 妊娠・出産期:妊娠中はエストロゲンが上昇し、出産後に急激に低下するホルモン変動が腱鞘炎を誘発します。
  • 体液貯留:妊娠中の体液貯留により滑膜組織が浮腫状になり、腱鞘の内腔が狭小化します。
  • 育児動作:乳児を抱っこする動作が頻繁に行われ、親指を中心に手指への機械的負荷が増大します。

デ・ケルバン病という手首の腱鞘炎に関する研究では、腱鞘組織内のER-βの発現が疾患の重症度と正の相関を示すことが報告されています【文献1】。ばね指においても同様のメカニズムが関与していると考えられ、エストロゲンの変動が腱鞘の炎症を惹起する重要な因子であることが示唆されています。したがって、更年期女性や妊娠・出産期の女性では、ホルモン変動に伴う腱鞘炎のリスクを認識し、手指の症状が出現した場合には早期に医療機関を受診することが推奨されます。



「ためしてガッテン」で取り上げられた手指の痛み

2012年2月15日、NHK「ためしてガッテン」で「腰痛&手の痛みに新技 ついに劇的回復!」というタイトルで放送が行われました。番組では、女性に特に多い「手指の痛み」の徹底対策が取り上げられ、腱鞘炎(ばね指)とヘバーデン結節という2つの疾患が紹介されました。番組内では、「腱鞘炎は、放っておくと指が激痛でほとんど動かせなくなるというやっかいな病気」として紹介され、痛みの原因は「更年期などで女性ホルモンのバランスが変化し、指の腱に慢性的な炎症が起きていること」と説明されました。

番組では、ある女性が手指の違和感を軽視して放置した結果、症状が悪化し、最終的に腱鞘切開手術を受けて回復したという事例が紹介されました。また、腱鞘の働きを自転車のブレーキになぞらえて、腱鞘があってこそ腱が有効に働くということが視覚的に説明されました。治療法としては、局所の安静が中心となること、症状の強いときにはステロイド注射を行うこと、手術が必要な場合もあることが紹介されました。番組では「手外科」という専門医に診てもらうことが推奨され、手外科専門医の重要性が強調されました。

■1. 番組で紹介された症状と対処法

「ためしてガッテン」では、手指の痛みに対する具体的な対処法として、指のストレッチが紹介されました。番組で紹介されたストレッチ方法は、症状がある指を反対側の手で軽く押さえながら、曲げる方向とは逆に反らせるというものでした。具体的には、両手をじゃんけんのパーのように広げて指先まで力を入れる方法や、指の付け根を軽く下に倒したり上に起こしたりする方法が紹介されました。ただし、曲げすぎると症状が悪化する可能性があるため、力を入れすぎないことがポイントとされました。

[1] 番組で強調されたメッセージ

番組では、「家事などで手指が痛んでも我慢してしまう人が多いが、早めに対策をすればしつこい痛みをキレイに解消することが可能」というメッセージが繰り返し強調されました。また、「年だから…なんてあきらめるのはまだ早い」として、適切な治療を受けることの重要性が訴えられました。番組の構成としては、症状を放置することの危険性を強調し、早期受診と適切な治療の重要性を視聴者に伝える内容となっていました。

  • 放置の危険性:「たいしたことはない」と放っておいた結果、手術が必要になった事例が紹介されました。
  • 手外科専門医の推奨:番組では「手外科」という専門医に診てもらうことが強く推奨されました。
  • ストレッチの重要性:指が硬くならないためのケアとして、指のストレッチが紹介されました。
  • 女性ホルモンとの関連:更年期や妊娠・出産期の女性に多い理由として、ホルモンバランスの変化が説明されました。

番組放送後、多くの視聴者が手指の症状に関心を持ち、整形外科や手外科のクリニックを受診する動きが見られました。これは、番組が多くの人にばね指という疾患を認識させ、医療機関への受診を促進したという点で一定の効果があったと言えます。しかし、その一方で、番組内容に対して日本手外科学会が公式見解を発表するという事態が生じました。

■2. 日本手外科学会の公式見解

「ためしてガッテン」の放送から約2週間後の2012年2月27日、日本手外科学会は公式ウェブサイト上で番組内容に関する見解を発表しました。学会の見解は4つの主要なポイントから構成されており、番組内容の医学的正確性について補足・訂正を行う内容となっていました。学会が公式見解を発表した背景には、番組内容が一部過度に誇張された表現を含んでおり、視聴者に誤解を与える可能性があるという懸念がありました。

[1] 学会見解の4つのポイント

日本手外科学会が発表した見解の主要なポイントは以下の通りです。第一に、番組では手指腱鞘炎やばね指がかなり大袈裟に扱われていたが、実際にはそれほど恐れる病気ではないこと。第二に、番組でも述べられている通り、手術の前に局所安静や注射などで治る人も多くいること。第三に、現時点で腱鞘切開手術は、内視鏡よりも直視下に行うのが一般的であること。第四に、専門医の受診を希望される方は、「手外科専門医名簿」を参照することが推奨されました。

  • 過度な恐怖の否定:ばね指は適切な治療を受ければ決して恐れる必要のない疾患です。
  • 保存療法の有効性:手術の前に、局所安静、固定、ステロイド注射などの保存療法で治る患者も多く存在します。
  • 直視下手術が標準:現時点では、腱鞘切開手術は内視鏡よりも直視下に行うのが一般的であり、安全性が高いです。
  • 手外科専門医の受診推奨:専門的な治療を希望される方は、手外科専門医名簿を参照して受診することが推奨されます。

日本手外科学会がこのような公式見解を発表したことは、医療情報の正確性とメディアの責任について重要な示唆を与えるものです。テレビ番組は視聴率を重視するため、情報が誇張されたり、特定の治療法が過度に強調されたりする傾向があります。しかし、医療情報は患者の健康と生活の質に直接影響を与えるものであり、正確性と客観性が何よりも重要です。患者は、テレビやインターネットから得られる情報だけに依存せず、医療専門家の意見を求め、科学的根拠に基づいた正確な情報をもとに治療選択を行うことが重要です。



医学的に正しいばね指の治療法

ばね指の治療は、症状の重症度、発症からの期間、患者の生活様式、基礎疾患の有無などを総合的に評価して決定されます。基本的には保存療法から開始し、保存療法で効果が得られない場合に手術療法を検討します。保存療法には、安静療法、固定療法、薬物療法、ステロイド注射などが含まれ、これらを単独または組み合わせて実施します。多くの症例では、適切な保存療法により症状が改善し、手術を回避できます。

■1. 保存療法:安静・固定・ストレッチ

保存療法の基本は、手指の安静と炎症の抑制です。症状がある指の使用を極力控え、腱と腱鞘への機械的ストレスを軽減することが治療の第一歩となります。固定療法では、副子やサポーター、テーピングなどを用いて指を固定し、腱の滑走を制限することで炎症の改善を図ります。最も一般的なのは、中手指節関節(MCP関節)を10~15度の軽度屈曲位で固定するMCPブロッキング副子であり、固定期間は通常6~10週間とされています【文献2】。

[1] 効果的なストレッチ方法

「ためしてガッテン」で紹介されたストレッチは、一定の効果が期待できますが、実施する際には注意が必要です。ストレッチは、痛みが和らいでから行うのが原則であり、痛みが強い時期は炎症が生じているため、無理なストレッチは逆効果になりかねません。また、自己判断でばね指を悪化させないためにも、医療機関で医師に相談しながら、ストレッチに取り組むことが推奨されます。

  • 腱鞘ストレッチ:症状がある指を反対側の手で軽く押さえ、曲げる方向とは逆に反らせることで、腱の緊張と腱鞘の摩擦を和らげます。
  • 指全体の伸展:両手をじゃんけんのパーのように広げ、指先まで力を入れて伸ばします。
  • 手首のストレッチ:指の腱は手首を通過してつながっているため、手首のストレッチも柔軟性の改善に効果的です。
  • 注意点:痛みを我慢して無理にストレッチを続けると、腱や腱鞘に過剰な負担がかかり、炎症を悪化させる恐れがあります。
  • 実施時間:ストレッチ時間は長くても10分程度にとどめ、様子を見ながらゆっくり慎重に行います。

ストレッチは、組織の柔軟性が高まった状態で行うと効果的です。例えば、入浴後など体が温まっているときに実施すると、組織の血流が改善し、ストレッチの効果が高まります。ただし、ストレッチだけでばね指が完治するわけではなく、あくまで補助的な治療法として位置づけられます。症状が持続する場合や悪化する場合には、速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

■2. ステロイド注射療法

ステロイド注射療法は、ばね指の保存療法において最も効果的な治療法の一つです。ステロイドは強力な抗炎症作用を有しており、腱鞘内に直接注入することで、局所の炎症を迅速かつ効果的に抑制することができます。初回注射で約49~60%の患者が症状改善を得られ、2回目の注射で累計約72~80%の患者が改善するとされています【文献3】。注射は外来で局所麻酔下に実施され、A1滑車の直下に薬剤を注入します。

[1] ステロイド注射の効果と副作用

ステロイド注射の効果は多くの臨床研究で実証されていますが、副作用のリスクも存在します。最も一般的な副作用は、注射部位の皮膚脂肪萎縮であり、皮膚が陥没したような外観になることがあります。また、注射後に一時的な疼痛の増強や腫脹が生じることがあり、これは結晶性滑膜炎と呼ばれる反応です。さらに、まれに感染症や腱断裂が生じることがあります。糖尿病患者では、ステロイド注射後に血糖値が一時的に上昇するため、注意が必要です【文献4】。

  • 高い即効性:ステロイド注射は、保存療法の中で最も即効性が高く、多くの患者が数日以内に症状の改善を実感します。
  • 注射回数の制限:ステロイドの副作用を考慮し、通常は2~3回までの注射にとどめることが推奨されます【文献5】。
  • 超音波ガイド下注射:超音波装置を用いて注射針の位置を確認しながら注射することで、正確性と安全性が向上します【文献6】。
  • 糖尿病患者での注意:糖尿病患者では、注射後の血糖値管理に注意が必要であり、内科医と連携して治療を行います。

ステロイド注射は、適切な適応のもとで実施すれば、高い治療効果が期待できます。しかし、注射回数が増えるほど効果が減弱する傾向があり、3回以上の注射では追加的な効果が限定的であることが報告されています。したがって、2~3回のステロイド注射を行っても症状が改善しない場合には、手術療法を検討する必要があります。また、注射後は数日間、注射部位を安静に保つことが推奨され、過度な手指の使用を避けることで、治療効果を最大化できます。

■3. 手術療法:直視下手術が標準

手術療法は、保存療法で効果が得られない場合、または症状が重度で日常生活に著しい支障をきたしている場合に検討されます。手術の目的は、肥厚したA1滑車を切開し、腱の滑走空間を確保することで、弾発現象と疼痛を根本的に解消することです。日本手外科学会の見解にもあるように、現時点では直視下手術が標準的な手術方法であり、安全性と有効性が確立されています。手術の成功率は90~100%と極めて高く、再発率は約3~5%と低いことが報告されています【文献7】。

[1] 直視下手術の実際

直視下手術は、指の付け根に約1~2cm程度の皮膚切開を加え、A1滑車を直接視認しながら切開する方法です。手術は通常、局所麻酔下に外来で実施可能であり、手術時間は15~20分程度です。皮膚を切開した後、皮下組織を慎重に剥離し、A1滑車を露出させます。この際、指神経と動脈を損傷しないよう注意深く操作します。A1滑車を視認できたら、メスまたはハサミを用いて滑車を縦方向に完全に切開します【文献7】。

  • 局所麻酔:リドカインまたはブピバカインを使用し、A1滑車周囲に注射します。
  • 皮膚切開:中手指節関節の掌側に1~2cm程度の縦切開または横切開を加えます。
  • A1滑車の切開:メスまたはハサミを用いて、A1滑車を縦方向に完全に切開します。
  • 術後の経過:翌日から軽い日常動作が可能となり、2週間程度で抜糸が行われます。
  • 機能回復:術後2~4週間で通常の日常生活に復帰でき、6~8週間で完全な機能回復が得られます。

直視下手術の最大の利点は、A1滑車を直接視認しながら操作できるため、神経や血管を確実に保護でき、滑車の切開も完全に行えることです。合併症は比較的まれであり、神経損傷のリスクは1~2%程度に抑えられます【文献7】。術後は、関節拘縮を予防するために早期からリハビリテーションを開始することが推奨されます。多くの患者が手術結果に満足し、生活の質が大きく改善されます。



ばね指の予防と日常生活の注意点

ばね指の予防においては、手指への過度な負担を避けることが最も重要です。長時間のキーボード操作やスマートフォンの使用を避け、適度な休憩を取ること、作業姿勢を改善すること、補助具を活用することなどが有効な予防策となります。また、更年期や妊娠・出産期の女性では、ホルモン変動による腱鞘炎のリスクを認識し、手指の症状が出現した場合には早期に医療機関を受診することが重要です。

■1. 手指への負担を軽減する工夫

職業や日常生活において手指を頻繁に使用する場合、作業時間を短縮する、頻繁に休憩を取る、補助具を使用するなどの工夫が有効です。例えば、パソコン作業では1時間ごとに10分程度の休憩を挿入し、手指のストレッチや軽い運動を行うことが推奨されます。また、キーボードやマウスを使用する際には、手首を机に乗せて安定させ、手指への負担を分散させることが重要です【文献8】。

[1] 日常生活でできる予防策

家事労働においても、手指への負担を軽減する工夫が可能です。洗濯物を絞る際には、手動で絞るのではなく洗濯機の脱水機能を活用する、雑巾を絞る際には絞り器を使用する、重い鍋やフライパンを持つ際には両手で支えるなどの工夫が有効です。また、育児中の女性では、乳児を抱っこする際に抱っこ紐を適切に使用して手指への負担を分散させることが推奨されます。

  • 作業時間の短縮:長時間の連続作業を避け、1時間ごとに10分程度の休憩を挿入します。
  • 補助具の使用:グリップ補助具、リストレスト、絞り器などを活用して手指への負担を軽減します。
  • 作業姿勢の改善:手首を机に乗せて安定させ、手指への負担を分散させます。
  • スマートフォンの使用制限:片手で長時間保持せず、両手で操作する、テーブルに置いて操作するなどの工夫をします。
  • 冷却と温熱:手を使い過ぎて痛みが出始めたときには冷却を、こわばりがあるときには温熱を行います。

手指への負担を軽減する工夫は、ばね指の予防だけでなく、発症後の症状悪化を防ぐためにも重要です。また、栄養面では、腱と腱鞘はコラーゲン線維を主成分とする結合組織であり、コラーゲンの合成には鉄、タンパク質、ビタミンCなどの栄養素が不可欠です【文献10】。バランスの取れた食事を心がけ、これらの栄養素を十分に摂取することも、腱鞘の健康維持に役立ちます。

■2. 基礎疾患を持つ方の注意点

糖尿病、関節リウマチ、透析治療を受けている方は、ばね指の発症リスクが高く、また治療抵抗性も強い傾向があります。糖尿病患者では、血糖コントロールを最適化することがばね指の予防において重要です。HbA1cを7%未満に維持することで、終末糖化産物(AGEs)の蓄積を抑制し、組織の修復能力を改善することができます【文献11】。関節リウマチ患者では、原疾患の適切な管理がばね指の予防にもつながります。

[1] 糖尿病患者への特別な配慮

糖尿病患者におけるばね指の治療では、血糖コントロールの最適化が基本となります。また、ステロイド注射を行う際には、血糖値が一時的に上昇するリスクがあるため、内科医と連携して血糖コントロールを慎重に管理する必要があります。さらに、糖尿病患者では感染リスクも高いため、手術を行う際には術後感染の予防に十分な注意を払う必要があります【文献11】。

  • 血糖コントロール:HbA1cを7%未満に維持し、AGEsの蓄積を抑制します。
  • 注射後の血糖管理:ステロイド注射後は血糖値が上昇する可能性があるため、内科医と連携して管理します。
  • 感染予防:糖尿病患者では術後感染のリスクが高いため、手術時には抗生剤の予防投与を検討します。
  • 関節リウマチ患者:免疫抑制剤の使用により感染リスクが高いため、手術時には特別な注意が必要です。
  • 透析患者:透析アミロイドーシスが関与している可能性があり、保存療法に対する反応性が低い傾向があります。

基礎疾患を有する患者では、整形外科医と内科医が協力して包括的な治療計画を立案することが推奨されます。また、基礎疾患の適切な管理がばね指の予防と治療において極めて重要であることを認識し、定期的な受診と治療の継続が必要です。



まとめ

ばね指は、指の屈筋腱と腱鞘の間に生じる炎症によって引き起こされる疾患であり、適切な治療を行えば高い確率で良好な予後が得られます。2012年の「ためしてガッテン」放送は、多くの人にこの疾患を認識させる契機となりましたが、日本手外科学会が公式見解を発表したように、ばね指は過度に恐れる必要のある疾患ではありません。多くの症例では、局所安静やステロイド注射などの保存療法で症状が改善し、手術が必要な場合でも、直視下手術という安全で確立された方法があります。

治療の鍵は早期発見と早期治療にあります。指の付け根の痛みや引っかかり感を自覚した時点で、速やかに整形外科あるいは手外科の専門医を受診することが推奨されます。初期段階では保存療法で改善する可能性が高く、関節拘縮が進行する前の段階で治療を開始することが、良好な機能回復を得るために重要です。また、更年期女性や妊娠・出産期の女性では、ホルモン変動に伴う腱鞘炎のリスクを認識し、予防的な対策を講じることも有効です。手指への過度な負担を避け、適度な休憩とストレッチを心がけ、栄養バランスの取れた食事を摂取することで、ばね指の発症リスクを低減できます。本記事が、ばね指に悩む方々にとって、正しい知識を得て適切な治療選択を行うための一助となれば幸いです。



専門用語一覧

  • 腱鞘:腱を包む筒状の組織であり、腱が浮き上がらないように固定し、滑らかな滑走を可能にする役割を担っています。
  • A1滑車:指の付け根に位置する腱鞘の特定部位であり、ばね指において最も炎症と肥厚が生じやすい解剖学的部位です。
  • 弾発現象:指を曲げ伸ばしする際に引っかかりが生じ、無理に力を加えるとカクンと急に指が動く現象です。
  • 狭窄性腱鞘炎:腱鞘が肥厚して狭窄し、腱の滑走が障害される状態を指します。
  • エストロゲン受容体-β(ER-β):腱鞘組織内に存在する女性ホルモン受容体であり、エストロゲンの変動が腱鞘炎の発症に関与します。
  • ステロイド注射:強力な抗炎症作用を持つステロイド製剤を腱鞘内に注射する治療法です。
  • MCPブロッキング副子:中手指節関節を軽度屈曲位で固定する装具であり、腱の滑走距離を短縮して炎症の改善を図ります。
  • 関節拘縮:関節が固まって動かなくなる状態であり、ばね指を長期間放置した場合に生じる重大な合併症です。
  • 直視下手術:皮膚を切開してA1滑車を直接視認しながら切開する手術方法であり、ばね指に対する標準的な手術方法です。
  • 手外科専門医:手の疾患に特化した専門的な知識と技術を持つ医師であり、日本手外科学会が認定しています。
  • 終末糖化産物(AGEs):高血糖状態で糖とタンパク質が非酵素的に結合して生成される物質であり、糖尿病患者の腱鞘組織に蓄積します。



参考文献一覧

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  2. Patel MR, Bassini L. Trigger fingers and thumb: when to splint, inject, or operate. The Journal of Hand Surgery, 1992, vol. 17, no. 1, pp. 110-113.
  3. Newport ML, Lane LB, Stuchin SA. Treatment of trigger finger by steroid injection. The Journal of Hand Surgery, 1990, vol. 15, no. 5, pp. 748-750.
  4. Jeanmonod R, Tiwari V, Waseem M. Trigger Finger. StatPearls Publishing, 2024.
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  8. 日本整形外科学会. ばね指(弾発指). 症状・病気をしらべる



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執筆者

代表取締役社長 博士(工学)中濵数理

■博士(工学)中濵数理

  • 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
  • 沖縄再生医療センター:センター長
  • 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
  • 日本再生医療学会:正会員
  • 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
  • 日本バイオマテリアル学会:正会員
  • 公益社団法人高分子学会:正会員
  • X認証アカウント:@kazu197508

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