再生医療解説|AGA・FAGA|ヒト血小板溶解液系+ダーマローラーの発毛治療機序

再生医療解説|薄毛治療(AGA・FAGA)に対するヒト血小板溶解液系+ダーマローラーの発毛機序

ヒト血小板溶解液系の薄毛治療(AGA:男性型脱毛症、FAGA:女性型脱毛症)への適用については、臨床的にも学術的にも多くの報告があり、発毛に対する治療効果は広く知られています。

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本稿では、医師裁量による自由診療で提供されている施術事例のうち、特に「ヒト血小板溶解液系+ダーマローラー併用」に注目し、AGA治療薬としてよく知られるミノキシジルとの違いを、毛包の生理的機序との因果関係を踏まえて解説します。

まず臨床所見として結論を示します。

ヒト血小板溶解液系+ダーマローラー併用」は多くの場合、隔週または月1回の間隔で実施され、12ヵ月で治療を完了する運用が行われています(おおよそ6ヵ月前後で発毛の実感が現れます)。ミノキシジル治療とは異なり、治療を中止した後に短期間で一気に抜け毛が増える現象はほとんど起こりません。

AGA/FAGAの病態と毛包における細胞の役割

AGA/FAGAは、毛包が徐々に小型化し、毛の成長期(アナゲン期)が短くなることで、毛の太さや本数が少しずつ減っていく疾患です【文献1】【文献2】。

毛の成長を支えるためには、毛乳頭周囲の微小循環による酸素と栄養の供給に加えて、血管内皮増殖因子(VEGF)を含む成長因子が発する合図が欠かせません【文献3】。

再生医療解説|薄毛治療(AGA・FAGA)に対するヒト血小板溶解液系+ダーマローラーの発毛機序|毛根図解

■1. 毛乳頭の役割

毛乳頭毛包の底部にあり、毛の成長に必要な合図を統合して出します【文献1】。その働きは局所の血流やホルモン環境の影響を強く受けます。

■2. バルジ幹細胞の役割

バルジは毛包の中部(立毛筋が付着する部位付近)に存在し、幹細胞を蓄える重要な領域です。成長期の開始時にこの幹細胞が活性化し、毛母細胞に変わる前段階の細胞を生み出します【文献9】【文献10】。

■3. 毛母細胞の役割

毛母細胞毛乳頭の直上で盛んに分裂し、毛軸と内毛根鞘を直接つくります。毛母細胞そのものは長期的に維持される幹細胞ではなく、バルジ幹細胞から補充されることで数を保っています【文献1】【文献2】。

■4. 発毛が進む順序

発毛は「毛乳頭が合図を出す → バルジ幹細胞が活性化する → 毛母細胞が補充される → 毛軸が形成される」という順序で進みます【文献1】【文献9】。



ヒト血小板溶解液系の構成と三つの主要作用

本稿では、HPLを中核に、HPL由来エクソソーム(細胞外小胞)とPRPを含めて、便宜上一体の「ヒト血小板溶解液系」として扱います【文献4】。

ヒト血小板溶解液系は、大きく三つの作用で発毛環境を整えます。

■1. 抗酸化酵素による酸化ストレスの低減

HPL/PRPにはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素が含まれます。これらは活性酸素(ROS)を直接処理し、慢性的な酸化ストレスの負荷を下げることで、毛乳頭バルジ幹細胞の環境を守ります【文献6】。

■2. 成長因子による修復と環境再構築

PDGF、VEGF、IGF-1、HGF、FGF-7(KGF)などの成長因子は、毛乳頭や外毛根鞘の代謝を底上げし、基質の作り直しや微小血管の再構成を促します。これにより毛乳頭が合図を出しやすくなり、バルジ幹細胞が働きやすい環境が再整備されます【文献3】【文献4】。

■3. miRNAによる長期的な維持と安定化

HPL由来エクソソームmiRNAを運び、受け取った細胞の遺伝子発現を長期間にわたり調整します。代表例のmiR‑126は内皮機能や血管新生の維持に関わり、微小循環と修復環境の持続性を高めます【文献5】。

これら三つの作用(抗酸化→修復と環境再構築→維持と安定化)は、創傷治癒における基本的な流れであり、発毛環境の整備にもそのまま当てはまります【文献1】【文献3】【文献5】。

ダーマローラーによる経皮送達と修復反応の誘導

薄毛治療(AGAFAGA)では、多くの場合、針長0.5mmのダーマローラーが用いられます。理由は、針長0.5mmのダーマローラーであれば、角層を確実に越えつつ、過度な深部損傷を避けられるためです。

ここでは二つの働きが注目されます。

■1. 経皮送達の向上

角層に多数の微小な道が一時的に開き、ヒト血小板溶解液系に含まれるタンパク質や小胞が毛包周囲へ届きやすくなります【文献12】。

■2. 自然修復反応の誘導

浅い創傷に対して体が備える修復反応(創傷治癒プログラム)が立ち上がり、外因性の成長因子や小胞が働きやすい細胞環境が整います。AGAFAGAを対象にした臨床研究でも、マイクロニードリング併用の有効性が報告されています【文献7】。

これら二つの作用が重なることで、外用成分の「浸透」と「作用」が一致し、効果の立ち上がりがより明確になります【文献7】【文献12】。



発毛作用機序における時間的進行と寄与の区分

本章では、ヒト血小板溶解液系とダーマローラーの寄与を分け、それぞれの役割を整理したうえで相乗効果を説明します。

時間の流れに沿って三段階に区切りますが、実際には重なりながら進みます。

■1. 直後〜4週間における酸化ストレス制御と毛包環境の安定化

[1] ヒト血小板溶解液系の寄与

  1. SODカタラーゼグルタチオンペルオキシダーゼが、毛乳頭バルジ幹細胞の周囲に発生する活性酸素を減らし、毛包内での脂質過酸化の広がりを抑えます【文献6】。
  2. PDGFIGF-1が、毛乳頭と外毛根鞘の代謝を高め、毛乳頭バルジ幹細胞毛母細胞に成長期へ入るようにという合図を出しやすい状態を整えます【文献4】。
  3. エクソソームが、毛乳頭細胞や内皮細胞に取り込まれ、血管新生や修復に関わる遺伝子の発現を高めます【文献5】。

[2] ダーマローラーの寄与

ダーマローラーが角層に微小チャネルを作ることで、外用成分が毛包周囲や毛乳頭部まで届く到達性が高まります。また、浅い創傷に対する修復反応が立ち上がり、浸透した成分が毛乳頭バルジ幹細胞に取り込まれて作用しやすい環境が整います【文献12】【文献7】。

[3] 相乗効果

抗酸化酵素による環境の安定化に続いて、成長因子エクソソーム毛乳頭や内皮に作用します。ダーマローラーによる通路形成と修復反応が加わることで、作用が毛包全体に広がる相乗効果が生まれます【文献4】【文献5】【文献12】。

■2. 1〜3カ月における成長期誘導と毛母細胞の補充

[1] ヒト血小板溶解液系の寄与

  1. VEGFを含む成長因子が働き、毛乳頭周囲の微小血管が再構成され、酸素と栄養の供給が改善します【文献3】。
  2. 成長因子群と創傷治癒の信号が重なり、毛乳頭が合図を出し、バルジ幹細胞が応答し、毛母細胞が補充される流れが強まります【文献1】【文献8】【文献9】。

[2] ダーマローラーの寄与

修復反応が継続し、外因性の成長因子エクソソームに対する細胞の応答性が高い状態が保たれます【文献7】。

[3] 相乗効果

VEGFmiR‑126による血流改善と、PDGFIGF-1による毛乳頭刺激が同時に作用し、毛乳頭が出す合図が十分に届き、バルジ幹細胞がその合図を受け取る環境が整います【文献3】【文献5】。

■3. 3〜12カ月における幹細胞ニッチの安定化と毛周期の維持

[1] ヒト血小板溶解液系の寄与

  1. 新生した微小血管が成熟し、毛乳頭バルジ幹細胞への酸素と栄養の供給が持続的に安定します【文献3】。
  2. エクソソーム由来miRNAが、毛包内の細胞に取り込まれて抗酸化・抗炎症・組織維持に関わる遺伝子発現を調整し、環境のバランスを保ちます【文献5】。

[2] ダーマローラーの寄与

初期に整えた浸透と修復反応の一体化が、継続的な施術によって繰り返し再現され、毛包環境の安定性が強化されます【文献7】【文献12】。

[3] 相乗効果

幹細胞ニッチ(特にバルジ幹細胞の周囲)が酸化に傾きにくくなり、毛乳頭が出す合図に対するバルジ幹細胞の応答性が長期間保たれます。この結果、毛は「生える」だけでなく「抜けにくい」状態が維持されます【文献2】【文献5】。



ミノキシジルとの作用機序の違い

■1. ミノキシジルの作用機序

ミノキシジルは主にK_ATPチャネルを開き、血管拡張を介して毛乳頭周囲の血流と代謝活動を一時的に高めます。さらに、毛乳頭細胞でVEGFの発現を促す作用が報告されています【文献13】【文献14】。

しかし、バルジ幹細胞ニッチを作り直す働きは限定的と考えられています【文献13】。

そのため、投薬を中止すると毛乳頭への刺激が失われ、元の状態に戻りやすい傾向があります。

■2. ヒト血小板溶解液系+ダーマローラーの作用機序

ヒト血小板溶解液系は、

  1. 抗酸化酵素毛乳頭バルジ幹細胞の周囲で発生する活性酸素を減らし、酸化ストレスの負荷を抑える。
  2. 成長因子毛乳頭バルジ幹細胞の環境を修復し、毛乳頭が「成長期に入るように」という合図を出しやすくする。
  3. miRNA毛包内の細胞に取り込まれ、長期的に遺伝子発現を調整し、修復と維持に有利な環境を整える。

この三段階で毛包環境を刷新します。

さらに、ダーマローラーが角層に微小チャネルを作ることで、外用成分が毛包周囲や毛乳頭部に届く到達性が高まり、浅い創傷に対する自然修復反応が立ち上がります。その結果、浸透した成分が毛乳頭細胞やバルジ幹細胞に取り込まれて働きやすい状態が作られます【文献7】【文献12】。

■3. 両者の比較による違い

ミノキシジルは「毛乳頭への一時的な刺激」が中心であり、バルジ幹細胞ニッチまで立て直すことは難しいため、中止すると元の状態に戻りやすい傾向があります。これに対してヒト血小板溶解液系とダーマローラーの併用は、毛乳頭が出す合図を強め、バルジ幹細胞がその合図を受け取って活性化する流れを整え、幹細胞ニッチを安定化させるため、「毛が生える」と「抜けにくい」が両立するという説明が成り立ちます【文献3】【文献4】【文献5】。



まとめ

ヒト血小板溶解液系は、

  1. 抗酸化酵素毛乳頭バルジ幹細胞の周囲で発生する活性酸素を減らし、酸化ストレスを抑える。
  2. 成長因子毛乳頭バルジ幹細胞の環境を修復し、合図と応答のやり取りを整える。
  3. miRNA毛包内の細胞に取り込まれ、遺伝子発現を長期的に調整して環境を安定させる。

この三段階によって、毛乳頭バルジ幹細胞が働きやすい条件が整います【文献4】【文献5】【文献6】。

さらに、針長0.5mmダーマローラーを併用することにより、外用成分が毛包毛乳頭に届く到達性を高め、浅い創傷に対する自然修復反応を引き出すことで、この三段階を頭皮全体に広げます【文献7】【文献12】。

時間の流れに沿って整理すると、

  1. 直後〜4週間は酸化ストレスの抑制と環境の安定化
  2. 1〜3カ月は成長期誘導と毛母細胞の補充
  3. 3〜12カ月は幹細胞ニッチの安定化と毛周期の維持

という順序で進みます。

これは、「6カ月頃からの実感」や「中止後の維持傾向」という臨床所見や、「12カ月での仕上がり」という施術運用と良く一致します【文献1】【文献3】【文献5】。



専門用語一覧

  • AGA(男性型脱毛症):男性ホルモンの影響により頭頂部や前頭部の毛包が徐々に縮小し、髪が細く短くなって脱毛が進行する慢性的な疾患です。
  • FAGA(女性型脱毛症):女性にみられる進行性の脱毛症で、びまん性に頭頂部の毛が細く短くなり、毛量が減少する一方で生え際は保たれるのが特徴です。
  • 毛包:皮膚内で毛を生み出す器官で、毛乳頭毛母細胞を含み、毛の成長周期(成長期・退行期・休止期)を制御する重要な構造です。
  • 毛乳頭:毛包の最下部に位置する結合組織で、毛母細胞に栄養や成長因子を供給し、毛の形成や成長周期の調節に重要な役割を果たします。
  • バルジ幹細胞:毛包中部の膨らんだ部位(バルジ領域)に存在する幹細胞で、毛の再生や皮膚の修復に寄与し、毛周期を維持する重要な細胞群です。
  • 毛母細胞:毛包下部の毛球に存在する分裂活発な細胞で、毛乳頭からの刺激を受けて増殖・分化し、毛幹や毛根鞘を形成して毛の成長を担います。
  • 幹細胞ニッチ:幹細胞が存在する微小環境で、細胞外基質や周囲細胞からのシグナルにより幹細胞の自己複製や分化を調節する制御システムです。
  • ヒト血小板溶解液(HPL):ヒト血小板を凍結融解などで破壊し、細胞成分を除去して得られる上清で、成長因子やサイトカインを豊富に含む生理活性物質です。
  • 多血小板血漿(PRP):採取した自己血を遠心分離して血小板を高濃度に濃縮した血漿で、成長因子を多く含み、組織修復や再生医療研究に利用されます。
  • エクソソーム(細胞外小胞):細胞が分泌する直径30〜150nmほどの小さな膜小胞で、タンパク質やmiRNAを運び、細胞間コミュニケーションや組織修復に関与します。
  • miRNA(miR‑126など):約20塩基の短い非コードRNAで、標的mRNAに結合して翻訳を抑制し、細胞の分化や増殖など遺伝子発現を精密に調節します。
  • 抗酸化酵素(SOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなど):活性酸素を分解して細胞を酸化ストレスから守り、老化や疾患の進行を防ぐ重要な防御因子です。
  • 成長因子(PDGF、VEGF、IGF-1、HGF、FGF-7(KGF)など):細胞の増殖や分化、血管新生や組織修復を促進するタンパク質で、再生や治癒過程に重要な役割を果たします。
  • VEGF(血管内皮増殖因子):毛包周囲の血管新生を促進し、毛乳頭への酸素や栄養供給を高めることで、毛包の成長環境を整え発毛を助ける重要な因子です。
  • K_ATPチャネル:細胞膜に存在するATP感受性カリウムチャネルで、ATP濃度に応じて開閉し、膜電位や細胞の興奮性、代謝応答の調節に関与します。
  • Wnt/β‑catenin:Wntシグナルによってβ-cateninが細胞内に蓄積し、核内で遺伝子発現を制御する経路で、細胞増殖や分化、組織再生に重要な役割を果たします。
  • 微小循環:毛細血管・細小動脈・細小静脈から成る微細な血流ネットワークで、酸素や栄養の供給、老廃物の除去を通じて組織の代謝と恒常性を維持します。
  • ダーマローラー:微細な針が多数ついたローラー型医療美容器具で、皮膚に微小な穴を作り、創傷治癒を促進するとともに、薬剤や有効成分の浸透を高めます。
  • 活性酸素(ROS):酸素から生じる反応性の高い分子群で、生体防御や細胞シグナルに役立つ一方、過剰に産生されると酸化ストレスを引き起こし細胞障害をもたらします。
  • 酸化ストレス:活性酸素種の過剰産生や抗酸化防御の低下によって細胞内の酸化還元バランスが崩れ、DNAや脂質、タンパク質に障害を与える状態です。



参考文献一覧(学術論文)

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執筆者

代表取締役社長 博士(工学)中濵数理

■博士(工学)中濵数理

  • 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
  • 沖縄再生医療センター:センター長
  • 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
  • 日本再生医療学会:正会員
  • 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
  • 日本バイオマテリアル学会:正会員
  • 公益社団法人高分子学会:正会員
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