ためしてガッテン紹介の尿漏れ体操:その医学的検証と正確な実践方法

ためしてガッテン紹介の尿漏れ体操:その医学的検証と正確な実践方法

NHKの人気番組「ガッテン!」では、2019年2月27日の放送回において「人類共通の”欠点”が原因!?おしっこの悩み大改善SP」と題し、尿漏れや頻尿といった下部尿路症状に対する骨盤底筋体操が紹介されます。この放送では、骨盤底筋の弛緩が尿失禁の主要な原因であることが解説され、息を吐きながらお尻を「キュッ(3秒)」と締める動作を繰り返す「内臓リフトアップ体操」が具体的な改善方法として示されます。しかし、放送内容が視聴者にとって理解しやすい反面、医学的に厳密な実践方法や適応範囲については補足が必要となる部分も存在します。

尿失禁は世界的に高い有病率を示す疾患であり、特に女性においては妊娠・出産・加齢による骨盤底筋群の損傷や機能低下が主要なリスク因子として知られています。骨盤底筋トレーニングは、腹圧性尿失禁切迫性尿失禁混合性尿失禁のいずれにおいても第一選択の保存的治療として国際的に推奨されており、その有効性は複数の大規模ランダム化比較試験によって実証されています。したがって、ためしてガッテンで紹介される尿漏れ体操の基本概念は医学的根拠に支持されるものですが、実際の臨床現場で推奨される方法とは細部において相違点が認められます。

本記事では、まずためしてガッテンで実際に放送された尿漏れ体操の具体的内容を詳述し、次にその放送内容を学術文献および臨床ガイドラインに照らして医学的に検証します。さらに、国際的に推奨される骨盤底筋トレーニングの正確な実践方法を、運動生理学的根拠・適応条件・禁忌事項とともに解説することで、読者が安全かつ効果的に尿漏れ体操を実践できる情報を提供します。また、放送内容だけでは十分に説明されない骨盤底筋の解剖学的構造・収縮メカニズム・トレーニング効果の発現機序についても、最新の研究知見を踏まえて補足します。

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ためしてガッテンで放送された尿漏れ体操の具体的内容

NHK「ガッテン!」の2019年2月27日放送回では、尿漏れ・頻尿・残尿感といった下部尿路症状の改善を目的とした骨盤底筋体操が紹介されます。この放送の中心的なメッセージは、骨盤底筋という筋肉のたるみが尿トラブルの主要な原因であり、この筋肉を意識的に鍛えることで症状の大幅な改善が期待できるというものです。番組では「内臓リフトアップ体操」という名称が用いられ、視聴者が日常生活の中で手軽に実践できる簡便な方法として提示されます。しかし、この放送内容を医学的に精査するためには、まず番組で具体的にどのような体操が紹介されたのかを正確に把握する必要があります。

放送では、骨盤底筋が膀胱や子宮などの骨盤内臓器を下から支えるハンモック状の筋肉群であること、そして出産や加齢によってこの筋肉が損傷・弛緩すると尿漏れが生じやすくなることが解説されます。また、番組では実際に尿漏れに悩む女性が体操を実践し、症状が改善される様子が紹介されることで、視聴者に対して体操の効果が具体的にイメージできる構成となっています。さらに、この体操は特別な器具や場所を必要とせず、立位・座位・仰臥位のいずれの姿勢でも実施可能であることが強調されます。

放送内容の理解を深めるためには、番組で紹介された体操の具体的な手順・推奨される実施頻度・期待される効果の発現時期について、それぞれ詳細に確認することが重要です。そのため、以下では放送で示された体操方法を構成要素ごとに分解し、視聴者がどのような情報を受け取ったのかを明確にします。これにより、次章で行う医学的検証の基盤となる正確な情報整理が可能となります。

■1. 番組で紹介された基本的な体操の手順

ためしてガッテンで紹介される尿漏れ体操の基本手順は、極めてシンプルな構成となっています。番組では、視聴者が体操を実践する際の心理的ハードルを下げるため、複雑な動作や専門的な解剖学的知識を必要としない方法が採用されます。具体的には、呼吸と骨盤底筋の収縮を連動させることで、筋肉の意識的なコントロールを容易にする工夫がなされています。この呼吸法と筋収縮の連動は、理学療法の分野でも広く用いられる手法であり、初心者が骨盤底筋の位置を感覚的に把握するのに有効です。

番組で示される体操の中心的な動作は、息を吐きながら肛門と膣の周囲を締める動作を3秒間保持することです。この際、番組では「お尻をキュッと締める」という表現が用いられ、視聴者にとって理解しやすい言葉で説明されます。また、体操を行う際には背筋を伸ばし、腹部に過度な力を入れないことが注意点として挙げられます。これは、腹筋に力を入れすぎると腹圧が上昇し、かえって骨盤底筋に負荷がかかる可能性があるためです。

[1] 呼吸法と筋収縮の連動方法

番組で紹介される呼吸法は、息を吐く動作と骨盤底筋の収縮を同期させる方法です。これは、呼気時に横隔膜が上昇し腹腔内圧が相対的に低下することで、骨盤底筋の収縮がより意識しやすくなるという生理学的原理に基づいています。具体的には、ゆっくりと息を吐きながら肛門・膣周囲を内側に引き上げるように締める動作を行います。

  1. リラックスした姿勢をとり、全身の力を抜きます。
  2. 鼻からゆっくりと息を吸い、腹部を軽く膨らませます。
  3. 口からゆっくりと息を吐きながら、肛門と膣を締めます。
  4. 締めた状態を3秒間保持し、そのまま呼吸を続けます。
  5. 力を抜いて元の状態に戻し、数秒間休息します。

この呼吸法と筋収縮の連動は、骨盤底筋トレーニングにおける基本的な技法であり、臨床現場でも広く指導されています。しかし、番組では呼吸のペースや吸気・呼気の比率について詳細な説明がなされないため、視聴者が自己判断で実施する際には個人差が生じる可能性があります。また、呼吸に意識を向けすぎると肝心の骨盤底筋の収縮が不十分になる場合もあるため、両者のバランスを適切に保つことが重要です。

[2] 推奨される体操の実施回数と頻度

番組では、この体操を1日に複数回実施することが推奨されます。具体的な実施回数としては、1セットあたり5回から10回程度の収縮動作を行い、これを1日に3回から5回繰り返すことが目安として示されます。ただし、番組では視聴者の生活スタイルに合わせて柔軟に実施することが強調され、厳密な回数にこだわるよりも継続することの重要性が説かれます。

  • 1回の収縮動作は3秒間の保持とし、その後3秒から5秒の休息を挟みます。
  • 1セットは5回から10回の収縮動作で構成されます。
  • 1日あたり3セットから5セットを目安に実施します。
  • 朝・昼・夜など、生活リズムに合わせて分散して行います。
  • 効果が実感できるまで最低でも2週間から3週間は継続します。

この実施頻度は、骨盤底筋の筋力強化という観点から見ると比較的穏やかな設定です。実際の理学療法では、より高頻度・高負荷のトレーニングプログラムが推奨される場合もありますが、番組では一般視聴者が無理なく継続できることを優先した設定となっています。また、体操を日常生活の中で習慣化するため、特定の行動(歯磨き・通勤時・テレビ視聴中など)と紐付けて実施することが提案されます。

[3] 体操実施時の姿勢と注意点

番組では、体操を実施する際の姿勢として仰臥位(仰向け)・座位・立位のいずれも可能であることが示されます。特に、仰臥位は重力の影響が少なく骨盤底筋の収縮を意識しやすいため、初心者に推奨される姿勢として紹介されます。仰臥位で実施する場合には、膝を立てて足を肩幅程度に開き、腰部が床から過度に浮かないように注意します。

  • 仰臥位では膝を立て、足裏を床につけた状態で行います。
  • 座位では背筋を伸ばし、椅子に浅く腰掛けた姿勢が推奨されます。
  • 立位では足を肩幅に開き、膝を軽く曲げて安定した姿勢を保ちます。
  • いずれの姿勢でも、肩や首に不必要な力が入らないよう注意します。
  • 腹部に過度な力を入れず、骨盤底筋のみを意識して収縮させます。

番組では、体操中に腹筋や臀筋に力が入りすぎないことが重要な注意点として挙げられます。これは、骨盤底筋以外の筋群が過剰に動員されると、肝心の骨盤底筋への刺激が不十分になるためです。また、体操中に息を止めないこと、無理に強い力で締めすぎないことも強調されます。これらの注意点は、安全かつ効果的な体操実施のために不可欠な要素です。

■2. 番組で解説された骨盤底筋の役割と尿漏れのメカニズム

ためしてガッテンでは、骨盤底筋の解剖学的位置と生理学的機能について、視聴者に理解しやすい形で解説が行われます。番組では、骨盤底筋が骨盤の最下部に位置し、膀胱・子宮・直腸といった骨盤内臓器を下から支えるハンモック状の構造を持つことが示されます。また、この筋肉群が排尿・排便のコントロールにも重要な役割を果たしていることが説明されます。

番組では、尿漏れが生じるメカニズムとして、骨盤底筋の弛緩による尿道括約機能の低下が主要な原因として提示されます。具体的には、咳・くしゃみ・笑い・重い物を持つなどの動作で腹圧が上昇した際に、弛緩した骨盤底筋が膀胱と尿道を適切に支持できず、尿道内圧が膀胱内圧を下回ることで尿漏れが発生すると解説されます。この説明は、腹圧性尿失禁の病態生理を簡潔に表現したものです。

[1] 骨盤底筋が弱まる主な原因

番組では、骨盤底筋が弱まる原因として、妊娠・出産・加齢・肥満・慢性的な咳・便秘といった要因が列挙されます。特に女性の場合、妊娠中の子宮重量増加による持続的な負荷と、経膣分娩時の骨盤底筋の過伸展・損傷が主要なリスク因子として強調されます。これらの要因により骨盤底筋の筋力が低下すると、尿道を適切に閉鎖する機能が損なわれます。

  • 妊娠による子宮重量の増加が骨盤底筋に持続的な負荷をかけます。
  • 経膣分娩時に骨盤底筋が過度に伸展し、筋線維の損傷が生じます【文献4】。
  • 加齢に伴う筋量減少と筋力低下が骨盤底筋にも影響します。
  • 肥満による腹腔内圧の慢性的上昇が骨盤底筋に負担をかけます。
  • 慢性的な咳や便秘による反復的な腹圧上昇が筋疲労を引き起こします。

これらの原因に関する番組の説明は、疫学研究および臨床研究の知見と概ね一致しています。日本人女性を対象とした地域調査では、出産経験・加齢・BMI(Body Mass Index)が腹圧性尿失禁の有意なリスク因子として報告されています【文献5】。したがって、番組で提示されるリスク因子の説明は医学的根拠に基づいたものであり、視聴者が自身の状況を理解する上で有用な情報です。

[2] 骨盤底筋体操による改善の仕組み

番組では、骨盤底筋体操を継続することで尿漏れが改善される仕組みについて、筋力強化と神経筋協調性の向上という2つの観点から説明されます。まず、反復的な収縮運動により骨盤底筋の筋線維が肥大し、最大筋力が向上することで尿道閉鎖圧が高まります。次に、随意的な筋収縮を繰り返すことで、脳から骨盤底筋への運動指令経路が強化され、咳やくしゃみなどの予測可能な腹圧上昇時に反射的に骨盤底筋を収縮させる能力が獲得されます。

  • 筋線維の肥大により骨盤底筋の最大収縮力が向上します。
  • 尿道周囲の筋組織が強化され、尿道閉鎖圧が上昇します。
  • 随意的な筋収縮の反復により神経筋協調性が改善します。
  • 腹圧上昇時に反射的に骨盤底筋を収縮させる能力が獲得されます。
  • 継続的なトレーニングにより筋持久力が向上し、長時間の姿勢保持が可能になります。

これらの改善メカニズムに関する番組の説明は、骨盤底筋トレーニングの生理学的効果を概ね正確に反映しています。大規模な系統的レビューでは、骨盤底筋トレーニング腹圧性尿失禁切迫性尿失禁混合性尿失禁のいずれにおいても、無治療や不活性対照群と比較して有意な改善効果を示すことが報告されています【文献1】。したがって、番組で提示される改善の仕組みは科学的根拠に支持されるものです。

■3. 番組で示された効果発現までの期間と期待される改善度

ためしてガッテンでは、体操を開始してから効果が実感できるまでの期間として、2週間から3週間程度が目安として示されます。ただし、番組では個人差があることが強調され、早い人では1週間程度で変化を感じる場合もあれば、3ヶ月程度継続して初めて明確な改善を実感する場合もあることが説明されます。この期間設定は、視聴者に対して現実的な期待値を提示するための配慮と考えられます。

番組では、体操による改善効果として、尿漏れの頻度減少・尿漏れ量の減少・尿意切迫感の軽減・残尿感の改善といった複数の症状改善が期待できることが示されます。また、実際に番組で体操を実践した女性の体験談が紹介され、日常生活における具体的な変化(外出時の不安軽減・パッドの使用枚数減少など)が報告されます。これにより、視聴者は体操の効果を具体的にイメージしやすくなります。

[1] 効果発現に影響する個人差の要因

番組では、体操の効果発現には個人差があることが説明されますが、その要因については詳細な言及がなされません。実際には、効果発現の速度や程度には、年齢・尿失禁の重症度・骨盤底筋の初期筋力・トレーニングの正確性・実施頻度といった複数の要因が影響します。特に、骨盤底筋の損傷が軽度で初期筋力が比較的保たれている場合には、短期間で効果が現れやすい傾向があります。

  • 尿失禁の重症度が軽度から中等度の場合、効果が現れやすい傾向があります。
  • 骨盤底筋の初期筋力が高い人ほど、トレーニング効果が早く現れます。
  • 正確な収縮技術を習得できた人は、効果発現が早い傾向があります。
  • 推奨される頻度と強度を遵守できる人ほど、改善度が高くなります。
  • 若年者は高齢者と比較して、筋力向上の速度が速い傾向があります。

これらの個人差要因は、臨床研究においても報告されています。したがって、番組で提示される「2週間から3週間」という期間はあくまで目安であり、視聴者は自身の状況に応じて柔軟に継続期間を調整する必要があります。また、3ヶ月程度継続しても明確な改善が得られない場合には、医療機関への受診を検討することが推奨されます。

[2] 長期的な継続の重要性

番組では、体操を開始して初期の改善が得られた後も、継続的に実施することの重要性が強調されます。これは、骨盤底筋トレーニングの効果が一時的なものではなく、継続的な実施により長期的に維持されるためです。番組では、体操を生活習慣の一部として定着させることが推奨され、症状が改善した後も予防的に継続することが望ましいと説明されます。

  • 初期の改善効果を維持するためには、継続的な実施が不可欠です。
  • 体操を中断すると、数週間から数ヶ月で筋力が低下し、症状が再発する可能性があります。
  • 長期的な継続により、尿失禁の完全な消失も期待できる場合があります。
  • 加齢に伴う骨盤底筋の自然な筋力低下を予防する効果も期待できます。
  • 体操を日常生活に組み込むことで、無理なく長期継続が可能になります。

長期継続の重要性については、追跡調査を含む臨床研究でも確認されています。したがって、番組で強調される継続の重要性は、長期的な症状管理という観点から極めて妥当な指導内容です。また、2025年6月にはNHK「あしたが変わるトリセツショー」でも尿漏れ体操が取り上げられ、大阪医科薬科大学の二宮早苗准教授が考案した「つま先を90度開く」骨盤底筋体操が紹介されるなど、継続的な情報提供が行われています。



放送内容の医学的検証と補足が必要な点

ためしてガッテンで紹介される尿漏れ体操は、骨盤底筋トレーニングの基本原理に基づいており、その有効性は国際的な臨床研究により支持されています。しかし、テレビ番組という媒体の特性上、限られた放送時間内で一般視聴者に理解しやすい形で情報が提示されるため、医学的に重要な詳細情報や注意事項が十分に説明されない場合があります。特に、骨盤底筋の正確な収縮方法・トレーニング強度の設定・個別の適応判断・禁忌事項については、放送内容だけでは不十分な部分が存在します。また、番組で示される効果発現期間や改善度についても、大規模臨床試験のデータと照合する必要があります。

本章では、放送内容を学術文献および国際的な臨床ガイドラインと照合し、医学的な正確性を検証します。具体的には、番組で紹介される体操方法が現在の医学的標準とどの程度一致しているか、また放送では触れられない重要な補足情報は何かを明確にします。これにより、視聴者が放送内容を正しく理解し、より安全かつ効果的に体操を実践するための医学的基盤を提供します。さらに、放送内容では十分に説明されない骨盤底筋の収縮確認方法・トレーニング効果を減弱させる誤った実施方法・医療機関への受診が必要となる状況についても、医学的根拠に基づいて詳述します。

また、ためしてガッテンで示される「息を吐きながらお尻を3秒間締める」という基本動作は、骨盤底筋トレーニングの標準的な方法と本質的に一致していますが、臨床研究で有効性が実証されるトレーニングプログラムと比較すると、いくつかの重要な要素が欠落しています。特に、最大随意収縮持久的収縮を組み合わせるプロトコル、段階的な負荷増加の原則、収縮の正確性を確認する方法については、放送内で十分に触れられません。これらの要素は、トレーニング効果を最大化し、誤った方法による効果減弱を防ぐために重要です。

■1. 放送される体操方法の医学的妥当性と標準的プロトコルとの比較

ためしてガッテンで紹介される「息を吐きながらお尻を3秒間締める」という基本動作は、骨盤底筋トレーニングの標準的な方法と本質的に一致しています。国際尿禁制学会および国際泌尿器科学会が推奨する骨盤底筋トレーニングプログラムでも、随意的な骨盤底筋収縮を反復する方法が第一選択として位置づけられています。したがって、番組で提示される体操の基本原理は医学的に妥当です。しかし、臨床研究で有効性が実証されるトレーニングプログラムと比較すると、番組の説明にはいくつかの重要な要素が欠落しています。特に、最大随意収縮持久的収縮を組み合わせるプロトコル、段階的な負荷増加の原則、収縮の正確性を確認する方法については、放送内で十分に触れられません。

大規模なCochraneシステマティックレビューでは、骨盤底筋トレーニング腹圧性尿失禁切迫性尿失禁混合性尿失禁のいずれにおいても、無治療や不活性対照群と比較して有意な改善効果を示すことが報告されています【文献1】。このレビューでは31試験1817名の女性が含まれ、腹圧性尿失禁の女性は骨盤底筋トレーニング後に治癒を報告する確率が8倍高く、すべてのタイプの尿失禁を持つ女性では5倍高いことが示されています。さらに、2024年に更新されたCochraneレビューでは、骨盤底筋トレーニングの異なるアプローチを比較し、監督下でのトレーニングや段階的な負荷増加を含むプログラムがより効果的である可能性が示唆されています【文献2】。したがって、番組で提示される基本的な体操は有効ですが、より包括的なプログラムと比較すると最適化の余地があります。

[1] 収縮時間と休息時間の設定に関する医学的根拠

番組では3秒間の収縮保持が推奨されますが、この時間設定の医学的根拠については説明がなされません。実際の理学療法では、骨盤底筋速筋線維遅筋線維の両方を効果的に刺激するため、短時間の最大収縮と長時間の持久的収縮を組み合わせるプロトコルが推奨されています【文献2】。このアプローチにより、瞬発的な腹圧上昇に対応する能力と、持続的な姿勢保持に必要な筋持久力の両方が向上します。

  • 速筋線維を刺激するためには、2秒から3秒の短時間最大収縮が有効です。
  • 遅筋線維を刺激するためには、5秒から10秒の持久的収縮が必要です【文献2】。
  • 収縮時間と同等以上の休息時間を設けることで、筋疲労を防ぎます。
  • 1セット内で短時間収縮と持久的収縮を組み合わせることが推奨されます。
  • トレーニング開始時は短時間から始め、筋力向上に応じて段階的に延長します。

したがって、番組で提示される3秒間の収縮は、速筋線維の刺激という観点からは適切ですが、遅筋線維の十分な刺激という観点からは不十分です。より包括的なトレーニング効果を得るためには、3秒収縮に加えて、5秒から10秒の持久的収縮も組み合わせることが望ましいと考えられます。また、収縮時間の延長は骨盤底筋の筋力向上に伴って段階的に行うべきであり、初期から過度に長い収縮時間を設定すると正確な収縮が困難になる可能性があります。

[2] 実施回数と頻度の設定に関する研究知見との整合性

番組では1日3回から5回のセット実施が推奨されますが、この頻度設定の根拠については明示されません。大規模なランダム化比較試験では、骨盤底筋トレーニングの効果は実施頻度に依存し、週3回以上の実施で有意な改善が得られることが報告されています【文献1】。また、1回のトレーニングセッションにおける収縮回数についても、8回から12回の最大収縮を含むプログラムが標準的とされています。

  • 週3回以上の実施で、腹圧性尿失禁の有意な改善が得られます【文献1】。
  • 1セットあたり8回から12回の最大収縮が推奨されます【文献2】。
  • トレーニング効果は累積的であり、実施頻度が高いほど改善度が大きくなります。
  • ただし、過度な頻度は筋疲労を引き起こし、逆効果となる可能性があります。
  • 個人の筋力レベルに応じて、実施回数を段階的に増加させることが重要です。

番組で提示される実施頻度は、この研究知見と概ね一致しています。しかし、1セットあたりの収縮回数については、番組では5回から10回とされており、標準的な推奨と比較してやや少ない設定です。また、番組ではトレーニング強度の段階的増加という概念が明示されないため、視聴者が初期レベルに留まり続ける可能性があります。筋力トレーニングの基本原理である漸進性過負荷の原則に従い、筋力向上に応じて収縮時間・回数・セット数を段階的に増加させることが、長期的な効果維持のために重要です。

[3] 姿勢選択が骨盤底筋トレーニング効果に与える影響

番組では仰臥位・座位・立位のいずれでも体操が可能であることが示されますが、各姿勢の利点と欠点については詳細な説明がなされません。実際には、姿勢によって骨盤底筋にかかる重力負荷が異なるため、トレーニング効果にも差が生じます。一般的に、仰臥位は重力の影響が最小となるため骨盤底筋の収縮を意識しやすく、初心者に適した姿勢とされています。一方、立位は日常生活に近い姿勢であり、機能的なトレーニングという観点から重要です。

  • 仰臥位は重力負荷が最小で、骨盤底筋の収縮を最も意識しやすい姿勢です。
  • 座位は日常生活で長時間とる姿勢であり、実用的なトレーニングに適しています。
  • 立位は重力負荷が最大となり、最も難易度が高い姿勢です。
  • トレーニング初期は仰臥位から開始し、習熟に応じて座位・立位へ進行することが推奨されます。
  • 最終的には立位でも正確な収縮が可能となることを目標とします。

したがって、番組で示される姿勢選択の自由度は、視聴者にとって実践しやすさを高める反面、適切な姿勢選択のガイダンスが不足しています。特に初心者の場合、いきなり立位で実施すると骨盤底筋の正確な収縮が困難であり、代わりに腹筋や臀筋が過剰に動員される可能性があります。そのため、トレーニング開始時は仰臥位で正確な収縮技術を習得し、その後段階的により困難な姿勢へ移行するというプログレッションが望ましいと考えられます。

■2. 放送で触れられない重要な技術的要素と正確な収縮方法

ためしてガッテンの放送では、骨盤底筋体操の基本動作は説明されますが、正確な収縮を実現するための技術的詳細については十分に触れられません。骨盤底筋は内部に位置し視覚的に確認できない筋群であるため、多くの女性が誤った収縮パターンを習得してしまう可能性があります。実際、臨床研究では、初回の口頭指示のみで正確な骨盤底筋収縮を実施できる女性は全体の約30%に過ぎないことが報告されています。正確な骨盤底筋収縮を実現するためには、いくつかの重要な技術的要素があります。

まず、収縮の方向性として、肛門と膣を「内側に引き上げる」感覚が重要です。単に肛門を締めるだけでは不十分であり、骨盤底全体を頭側へ引き上げる動作が必要です。また、収縮時に腹筋・臀筋・内転筋といった周囲の筋群が過度に動員されないことを確認する必要があります。これらの技術的要素は、トレーニング効果を最大化するために不可欠です。さらに、バイオフィードバックや電気刺激を併用した骨盤底筋トレーニングの有効性も報告されています【文献3】。これらの補助的手段は、特に正確な収縮が困難な場合に有用です。

[1] 正確な収縮を実現するための感覚的手がかりと指導方法

骨盤底筋の正確な収縮を習得するためには、適切な感覚的手がかりを用いることが有効です。番組では「お尻を締める」という表現が用いられますが、この表現だけでは臀筋の収縮が主体となり、骨盤底筋の十分な収縮が得られない可能性があります。理学療法では、より具体的なイメージを用いた指導が行われます。例えば、「膣と肛門を体の中心に向かって引き上げる」「尿を途中で止めるように締める」「タンポンを吸い上げるように引き上げる」といった表現が用いられます。

  • 膣と肛門を「内側かつ上方」へ引き上げる感覚を意識します。
  • 排尿を途中で止める動作をイメージすることが有効です。
  • 膣内にタンポンやゼリーがあると想定し、それを吸い上げるイメージを持ちます。
  • 骨盤底を「閉じる」のではなく「持ち上げる」感覚が重要です。
  • 収縮時に下腹部が内側に引き込まれる感覚があれば、正確な収縮です。

これらの感覚的手がかりは、臨床研究においても有効性が確認されています。特に、視覚的・触覚的フィードバックと組み合わせることで、正確な収縮技術の習得率が向上することが報告されています【文献3】。したがって、番組で提示される「お尻を締める」という表現に加えて、これらの補足的な感覚的手がかりを用いることで、より正確な骨盤底筋収縮が実現できます。また、バイオフィードバック装置や電気刺激装置を用いることで、収縮の正確性をさらに向上させることができます。

[2] 誤った収縮パターンとその回避方法に関する臨床知見

骨盤底筋トレーニングにおいて最も一般的な誤りは、骨盤底筋以外の筋群が過度に動員されることです。これらの筋群は骨盤底筋と神経支配が近接しているため、意識的に分離することが困難です。特に、腹筋に強い力を入れると腹圧が上昇し、骨盤底筋にかかる負荷が増大するため、かえって尿失禁を悪化させる可能性があります。したがって、骨盤底筋のみを選択的に収縮させる技術の習得が重要です。

  • 腹筋に過度な力が入ると腹圧が上昇し、骨盤底筋への負荷が増大します。
  • 臀筋を強く収縮させると、骨盤底筋の収縮が不十分になる傾向があります。
  • 内転筋の過剰な収縮も、正確な骨盤底筋収縮を妨げます。
  • 収縮時に息を止めるバルサルバ動作は、腹圧を上昇させるため禁忌です。
  • 肩や首に力が入ることは、全身の緊張を示し、リラックスした収縮を妨げます。

誤った収縮パターンを回避するためには、自己モニタリングの技術が必要です。具体的には、収縮時に腹部の筋肉が硬くなっていないか手で触れて確認する、臀部が浮き上がっていないか観察する、呼吸が止まっていないか意識する、といった方法が有効です。また、初期段階では鏡を用いて姿勢や身体の動きを視覚的に確認することも推奨されます。これらの自己モニタリング技術により、正確な骨盤底筋収縮の習得が促進されます。

[3] 収縮の正確性を確認する具体的な方法と臨床的評価

骨盤底筋は体表から直接観察できないため、収縮が正確に行われているかを確認する方法が必要です。最も簡便な方法は、尾骨の動きを触診することです。正確な骨盤底筋収縮が行われると、尾骨がわずかに前方へ動きます。これは、骨盤底筋が尾骨に付着しており、収縮時に尾骨を前方へ牽引するためです。番組ではこの確認方法が明示されないため、視聴者が誤った収縮を続けてしまうリスクがあります。

  • 仰臥位で尾骨の下に指を当て、収縮時に尾骨が前方へ動くことを確認します。
  • 入浴時に膣内に指を挿入し、収縮時に膣壁が指を締めつける感覚を確認します。
  • 正確な収縮では、下腹部がわずかに内側へ引き込まれる感覚があります。
  • 収縮時に臀部が浮き上がる、腹部が膨らむ場合は、誤った収縮パターンです。
  • 専門家による評価を受ける場合、膣内触診や超音波画像診断が用いられます。

これらの確認方法のうち、尾骨の触診は自己実施が容易であり、番組でも紹介されるべき重要な情報です。また、膣内触診による確認は、正確な収縮を習得する上で最も確実な方法ですが、自己実施には心理的抵抗がある場合もあります。そのため、初期段階では尾骨触診から開始し、必要に応じて膣内触診や専門家による評価を受けることが現実的なアプローチです。正確な収縮技術の習得は、トレーニング効果を左右する最も重要な要素の一つです。

■3. 効果発現期間と改善度に関する研究データとの比較検証

ためしてガッテンでは2週間から3週間で効果が実感できると説明されますが、この期間設定は大規模臨床試験のデータと完全には一致しません。系統的レビューによれば、骨盤底筋トレーニングによる臨床的に意義のある改善が得られるまでには、通常6週間から12週間のトレーニング期間が必要とされています【文献1】。ただし、主観的な症状改善の自覚は個人差が大きく、早期に軽度の改善を感じる人もいれば、数ヶ月を要する人もいます。番組で示される「2週間から3週間」という期間は、視聴者の継続意欲を維持するための現実的な目安として提示されている可能性があります。

大規模なCochraneレビューでは、骨盤底筋トレーニングを実施した女性は、実施しなかった女性と比較して、尿漏れエピソードが24時間あたり1回少なくなることが報告されています【文献1】。また、腹圧性尿失禁の女性では、治癒または改善を報告する確率が6倍高く、すべてのタイプの尿失禁では約2倍高いことが示されています。これらのデータは、骨盤底筋トレーニングの有効性を支持していますが、効果の程度には個人差があることも示唆しています。さらに、日本人女性を対象とした研究でも、骨盤底筋トレーニングの有効性が確認されています【文献4】。

[1] 効果発現に影響する個人差の要因と予測因子

番組では、体操の効果発現には個人差があることが説明されますが、その要因については詳細な言及がなされません。実際には、効果発現の速度や程度には、年齢・尿失禁の重症度・骨盤底筋の初期筋力・トレーニングの正確性・実施頻度といった複数の要因が影響します。特に、骨盤底筋の損傷が軽度で初期筋力が比較的保たれている場合には、短期間で効果が現れやすい傾向があります。

  • 尿失禁の重症度が軽度から中等度の場合、効果が現れやすい傾向があります。
  • 骨盤底筋の初期筋力が高い人ほど、トレーニング効果が早く現れます。
  • 正確な収縮技術を習得できた人は、効果発現が早い傾向があります。
  • 推奨される頻度と強度を遵守できる人ほど、改善度が高くなります。
  • 若年者は高齢者と比較して、筋力向上の速度が速い傾向があります。

これらの個人差要因は、臨床研究においても報告されています。したがって、番組で提示される「2週間から3週間」という期間はあくまで目安であり、視聴者は自身の状況に応じて柔軟に継続期間を調整する必要があります。また、3ヶ月程度継続しても明確な改善が得られない場合には、医療機関への受診を検討することが推奨されます。日本人女性を対象とした疫学研究では、腹圧性尿失禁のリスク因子として、出産回数・BMI・加齢が報告されています【文献5】【文献6】。

[2] 長期的な継続の重要性と維持効果に関するエビデンス

番組では、体操を開始して初期の改善が得られた後も、継続的に実施することの重要性が強調されます。これは、骨盤底筋トレーニングの効果が一時的なものではなく、継続的な実施により長期的に維持されるためです。番組では、体操を生活習慣の一部として定着させることが推奨され、症状が改善した後も予防的に継続することが望ましいと説明されます。

  • 初期の改善効果を維持するためには、継続的な実施が不可欠です。
  • 体操を中断すると、数週間から数ヶ月で筋力が低下し、症状が再発する可能性があります。
  • 長期的な継続により、尿失禁の完全な消失も期待できる場合があります【文献1】。
  • 加齢に伴う骨盤底筋の自然な筋力低下を予防する効果も期待できます。
  • 体操を日常生活に組み込むことで、無理なく長期継続が可能になります。

長期継続の重要性については、追跡調査を含む臨床研究でも確認されています。したがって、番組で強調される継続の重要性は、長期的な症状管理という観点から極めて妥当な指導内容です。また、2025年6月にはNHK「あしたが変わるトリセツショー」でも尿漏れ体操が取り上げられ、大阪医科薬科大学の二宮早苗准教授が考案した「つま先を90度開く」骨盤底筋体操が紹介されるなど、継続的な情報提供が行われています。

[3] 医療機関への受診が必要となる状況と専門的治療の選択肢

番組では骨盤底筋体操の有効性が強調されますが、すべての尿失禁が体操のみで改善するわけではありません。特に、神経障害による骨盤底筋の収縮不全や、重度の骨盤臓器脱を伴う場合には、体操だけでは十分な効果が得られない可能性があります。番組でも簡単に触れられますが、神経障害などで骨盤底筋が収縮しない場合は専門の医師に相談し、手術という選択肢もあることが説明されます。しかし、どのような状況で医療機関への受診が必要となるかについては、詳細な説明がなされません。

  • 3ヶ月以上体操を継続しても症状の改善が全く見られない場合は受診を検討します。
  • 尿失禁の頻度や量が増加している場合は、早期に受診することが推奨されます。
  • 骨盤臓器脱の症状がある場合は、体操と並行して専門医の診察を受けるべきです。
  • 血尿・排尿痛・発熱などの症状を伴う場合は、泌尿器科疾患の可能性があります。
  • 日常生活に著しい支障をきたす場合は、早期に専門的治療を検討すべきです。

これらの状況では、骨盤底筋体操以外の治療法が必要となる場合があります。治療選択肢としては、薬物療法・バイオフィードバック療法・電気刺激療法・手術療法などがあります【文献7】【文献8】。特に、腹圧性尿失禁に対する手術療法は、重症例において高い有効性が報告されています。したがって、視聴者は体操を試みながらも、必要に応じて専門医への相談を躊躇すべきではありません。日本では女性泌尿器科を専門とする医療機関が増加しており、適切な診断と治療を受けることが可能です。



医学的根拠に基づいた尿漏れ体操の正確な実践方法

ためしてガッテンで紹介される尿漏れ体操の基本原理は医学的に妥当ですが、より効果的かつ安全に実践するためには、臨床研究で実証されたプロトコルに基づいた詳細な実践方法を理解する必要があります。本章では、国際的な臨床ガイドラインおよび大規模ランダム化比較試験の知見に基づき、骨盤底筋トレーニングの正確な実践方法を段階的に解説します。具体的には、トレーニング開始前の準備・基本姿勢の取り方・収縮技術の習得手順・トレーニングプログラムの段階的進行・日常生活への組み込み方について、医学的根拠とともに詳述します。

骨盤底筋トレーニングの効果を最大化するためには、正確な収縮技術の習得が最も重要です。しかし、骨盤底筋は視覚的に確認できない内部の筋群であるため、多くの人が正確な収縮方法を習得できないまま誤った方法を継続してしまう可能性があります。大規模なシステマティックレビューでは、骨盤底筋トレーニング腹圧性尿失禁切迫性尿失禁混合性尿失禁のすべてにおいて有意な改善効果を示すことが確認されていますが、その効果は正確な収縮技術の習得に大きく依存します【文献1】。したがって、初期段階で正確な収縮方法を習得することが、長期的な成功の鍵となります。

また、骨盤底筋トレーニングは単独で実施するだけでなく、日常生活における姿勢・排尿習慣・腹圧管理といった包括的なアプローチと組み合わせることで、より高い効果が期待できます。特に、咳やくしゃみなどの予測可能な腹圧上昇時に、反射的に骨盤底筋を収縮させる能力を獲得することが重要です。この能力は「ナック」と呼ばれ、臨床研究においても尿失禁の予防に有効であることが示されています【文献7】。さらに、バイオフィードバックや電気刺激といった補助的手段を併用することで、トレーニング効果をさらに向上させることができます【文献3】。本章では、これらの包括的なアプローチを含めた正確な実践方法を提供します。

■1. トレーニング開始前の準備と骨盤底筋の位置確認

骨盤底筋トレーニングを開始する前に、まず骨盤底筋の解剖学的位置と機能を理解することが重要です。骨盤底筋は骨盤の最下部に位置し、ハンモック状に骨盤内臓器を下から支える筋群です。この筋群は表層・中間層・深層の3層構造を持ち、膀胱・子宮・直腸を支持するとともに、尿道・膣・肛門の開閉をコントロールする機能を担っています。骨盤底筋の位置を正確に理解することで、トレーニング中に適切な筋群を意識的に収縮させることが可能になります。

トレーニング開始前には、骨盤底筋の収縮感覚を確認するための予備的な練習が推奨されます。最も簡便な方法は、排尿中に尿を一時的に止める動作を試みることです。ただし、この方法は骨盤底筋の位置を確認するための練習であり、実際のトレーニングとして排尿中に繰り返し行うことは膀胱機能に悪影響を及ぼす可能性があるため禁止されます。また、仰臥位で膝を立てた姿勢で尾骨の下に指を当て、肛門と膣を締める動作を行ったときに尾骨がわずかに前方へ動くことを確認することも有効です。この動きが確認できれば、骨盤底筋が正確に収縮していることを示します。

[1] 骨盤底筋の解剖学的理解と収縮メカニズム

骨盤底筋群は、恥骨・坐骨・尾骨に付着する複数の筋肉から構成されます。主要な筋肉としては、肛門挙筋・尾骨筋・会陰横筋・尿道括約筋・肛門括約筋などがあります。これらの筋肉は協調的に働き、骨盤内臓器の支持・排尿排便のコントロール・性機能の維持という重要な役割を果たしています。骨盤底筋の収縮メカニズムを理解することで、より効果的なトレーニングが可能になります。

  • 肛門挙筋は骨盤底筋群の中で最も大きな筋肉であり、骨盤内臓器の主要な支持構造です。
  • 尿道括約筋は尿道を取り囲み、随意的な尿道閉鎖機能を担っています。
  • 会陰横筋は骨盤底の前後方向の安定性を提供し、腹圧上昇時の支持に重要です。
  • 骨盤底筋速筋線維遅筋線維の両方を含み、瞬発的収縮と持久的収縮が可能です。
  • 正確な収縮では、これらの筋群が協調的に働き、骨盤底全体が上方へ引き上げられます。

骨盤底筋の収縮メカニズムに関する理解は、正確なトレーニング技術の習得に不可欠です。特に、骨盤底筋が腹横筋・横隔膜・多裂筋とともに体幹のインナーユニットを構成し、呼吸と連動して働くことを理解することが重要です。呼気時には横隔膜が上昇し腹腔内圧が低下するため、骨盤底筋の収縮がより容易になります。この生理学的特性を利用し、息を吐きながら骨盤底筋を収縮させることで、より効果的なトレーニングが可能になります。また、骨盤底筋トレーニングの効果メカニズムに関するスコーピングレビューでは、筋力強化・神経筋協調性の向上・反射的収縮能力の獲得が主要なメカニズムとして報告されています【文献10】。

[2] 骨盤底筋の収縮感覚を確認する予備練習

骨盤底筋の位置と収縮感覚を確認するための予備練習は、正確なトレーニング技術を習得する上で重要なステップです。この予備練習では、様々な感覚的手がかりを用いて骨盤底筋の収縮を意識することを目的とします。ただし、予備練習の段階では完璧な収縮を求める必要はなく、まず骨盤底筋の存在と動きを感じることが重要です。

  1. リラックスした姿勢で座り、肛門と膣の位置を意識します。
  2. 排便や排尿を我慢する感覚を思い出し、その際に働く筋肉を意識します。
  3. 膣内にタンポンがあると想像し、それを吸い上げるように内側へ引き上げます。
  4. 尾骨の下に手を当て、収縮時に尾骨がわずかに前方へ動くことを確認します。
  5. 腹部や臀部に力が入らないよう注意しながら、骨盤底のみを動かす練習を繰り返します。

これらの予備練習を通じて、骨盤底筋の収縮感覚を徐々に習得していきます。初期段階では正確な収縮が困難であっても、繰り返し練習することで徐々に感覚が明確になってきます。また、バイオフィードバック装置を用いることで、収縮の正確性を客観的に評価することができます【文献3】。バイオフィードバックは、特に自己の収縮感覚に自信が持てない場合や、誤った収縮パターンを修正したい場合に有効です。ただし、バイオフィードバック装置がなくても、適切な指導と自己モニタリングにより正確な収縮技術を習得することは可能です。

[3] トレーニング環境の整備と準備事項

骨盤底筋トレーニングを効果的に実施するためには、適切なトレーニング環境を整備することが重要です。トレーニングは特別な器具や広いスペースを必要としませんが、リラックスして集中できる環境を準備することで、より正確な収縮技術の習得が可能になります。また、トレーニング開始前には、膀胱を空にしておくことが推奨されます。膀胱が充満している状態では、骨盤底筋の正確な収縮が困難になる場合があります。

  • 静かで落ち着いた環境を選び、集中してトレーニングに取り組みます。
  • トレーニング開始前に排尿を済ませ、膀胱を空にしておきます。
  • 締め付けの少ない快適な服装を選び、身体の動きを妨げないようにします。
  • ヨガマットやクッションを用意し、仰臥位でのトレーニングを快適に行えるようにします。
  • タイマーや時計を準備し、収縮時間と休息時間を正確に計測できるようにします。

これらの準備を整えることで、トレーニングの質が向上し、継続的な実施が容易になります。また、トレーニングの実施時間を決めておくことで、習慣化が促進されます。例えば、朝起きた直後・昼食後・就寝前など、日常生活の中で決まった時間にトレーニングを組み込むことが推奨されます。さらに、トレーニング日誌をつけることで、実施頻度・収縮回数・症状の変化を記録し、長期的な効果を評価することができます。日本人女性を対象とした研究でも、骨盤底筋トレーニングの継続が尿失禁の改善に有効であることが報告されています【文献4】。

■2. 段階的トレーニングプログラムの構築と進行

骨盤底筋トレーニングの効果を最大化するためには、個人の筋力レベルに応じた段階的なプログラムを構築することが重要です。初期段階では仰臥位での短時間収縮から開始し、徐々に収縮時間の延長・回数の増加・より困難な姿勢への移行を行います。この段階的進行は、筋力トレーニングの基本原理である漸進性過負荷の原則に基づいており、筋力向上と技術習得を効率的に達成するために不可欠です。大規模なシステマティックレビューでは、段階的に強度を増加させるプログラムがより高い効果を示すことが報告されています【文献2】。

トレーニングプログラムは、初級・中級・上級の3段階に分けて構築することが推奨されます。初級段階では、仰臥位での正確な収縮技術の習得と、短時間収縮の反復に焦点を当てます。中級段階では、収縮時間の延長・座位でのトレーニング導入・収縮回数の増加を行います。上級段階では、立位でのトレーニング・日常動作との統合・予測的収縮能力の獲得を目指します。各段階は2週間から4週間程度継続し、次の段階へ進む前に現在の段階の目標を達成することが重要です。急激な強度増加は、筋疲労や誤った収縮パターンの定着を引き起こす可能性があるため避けるべきです。

[1] 初級段階のトレーニングプロトコルと実施方法

初級段階のトレーニングは、骨盤底筋の正確な収縮技術を習得することを最優先の目標とします。この段階では、仰臥位という最も収縮を意識しやすい姿勢で、短時間の最大収縮を反復します。収縮時間は2秒から3秒とし、収縮後は同等以上の休息時間を設けます。急いで回数をこなすことよりも、1回1回の収縮を正確に行うことが重要です。

  1. 仰臥位で膝を立て、足を肩幅程度に開いた姿勢をとります。
  2. 全身の力を抜き、特に肩・腹部・臀部がリラックスしていることを確認します。
  3. 息をゆっくり吸い、吐きながら肛門と膣を内側かつ上方へ引き上げます。
  4. 引き上げた状態を2秒から3秒保持し、その間も自然な呼吸を続けます。
  5. ゆっくりと力を抜き、3秒から5秒休息してから次の収縮を行います。
  6. この動作を5回から8回繰り返し、1セットとします。
  7. 1日3セットから開始し、各セット間には十分な休息を設けます。

初級段階では、収縮の正確性を最優先とし、回数や強度を無理に増やさないことが重要です。尾骨の動きを手で確認しながら実施することで、正確な収縮が行われているかを自己評価できます。また、この段階では腹筋や臀筋が過度に動員されないよう、常に注意を払います。初級段階を2週間から4週間継続し、正確な収縮技術が安定して実施できるようになったら、中級段階へ進みます。ランダム化比較試験では、監督下でのトレーニングが自己トレーニングと比較して高い効果を示すことが報告されていますが【文献8】、正確な技術習得後は自己トレーニングでも十分な効果が期待できます。

[2] 中級段階のトレーニングプロトコルと負荷増加

中級段階では、初級段階で習得した正確な収縮技術を維持しながら、収縮時間の延長・収縮回数の増加・座位でのトレーニング導入を行います。この段階では、速筋線維を刺激する短時間収縮と、遅筋線維を刺激する持久的収縮を組み合わせたプログラムを実施します。このアプローチにより、瞬発的な腹圧上昇への対応能力と、持続的な臓器支持能力の両方が向上します【文献2】。

  1. 仰臥位で短時間収縮を8回から10回実施します(1回3秒保持、4秒休息)。
  2. 続いて持久的収縮を5回から8回実施します(1回5秒から8秒保持、10秒休息)。
  3. これを1セットとし、1日3セットから4セット実施します。
  4. 座位でも同様のプログラムを実施し、より日常的な姿勢でのトレーニングを導入します。
  5. 座位では背筋を伸ばし、椅子に浅く腰掛けた姿勢で実施します。
  6. 週単位で徐々に保持時間を延長し、最終的に10秒保持を目指します。
  7. 正確性が維持できる範囲で、セット数や回数を段階的に増加させます。

中級段階では、トレーニング強度の増加に伴い、筋疲労が生じる可能性があります。過度な疲労は誤った収縮パターンの定着につながるため、疲労を感じた場合は休息を増やすか、1日のセット数を減らすことが推奨されます。また、この段階では日常生活の中で骨盤底筋を意識する練習も導入します。例えば、重い物を持つ前や咳をする前に、予測的に骨盤底筋を収縮させる練習を行います。この予測的収縮は「ナック」と呼ばれ、実際の尿失禁予防に重要な役割を果たします【文献7】。中級段階を4週間から8週間継続し、持久的収縮が安定して実施できるようになったら、上級段階へ進みます。

[3] 上級段階のトレーニングプロトコルと機能的統合

上級段階では、立位でのトレーニング・機能的動作との統合・予測的収縮能力の完成を目指します。この段階では、日常生活のあらゆる場面で骨盤底筋を適切に機能させることが目標となります。立位でのトレーニングは重力負荷が最大となるため、最も困難ですが、日常生活に最も近い条件でのトレーニングとなります。

  1. 立位で足を肩幅に開き、膝を軽く曲げた姿勢をとります。
  2. 短時間収縮を10回実施します(1回3秒保持、4秒休息)。
  3. 持久的収縮を8回実施します(1回8秒から10秒保持、10秒休息)。
  4. これを1セットとし、1日4セットから5セット実施します。
  5. 歩行中・階段昇降中・家事動作中に骨盤底筋を意識的に収縮させる練習を追加します。
  6. 咳やくしゃみの前に反射的に骨盤底筋を収縮させる練習を繰り返します。
  7. スクワットや片足立ちなど、より負荷の高い動作と組み合わせた応用トレーニングを導入します。

上級段階では、骨盤底筋トレーニングが特別な運動ではなく、日常生活の一部として自然に組み込まれることを目指します。この段階を達成した後も、維持的なトレーニングとして週3回から5回のセッションを継続することが推奨されます。長期的な継続により、加齢に伴う骨盤底筋の自然な筋力低下を予防し、尿失禁の再発を防ぐことができます【文献1】。また、上級段階ではスクワットなどの下半身全体を強化する運動を併用することで、骨盤底筋を含む体幹全体の安定性が向上します。日本経済新聞の記事でも、骨盤底筋体操とスクワットの組み合わせが尿漏れ改善に効果的であることが紹介されています。

■3. 日常生活への統合と長期継続のための戦略

骨盤底筋トレーニングの効果を長期的に維持するためには、トレーニングを日常生活の一部として習慣化することが不可欠です。多くの研究で、トレーニングの効果は継続的な実施に依存し、中断すると数週間から数ヶ月で筋力が低下し症状が再発する可能性があることが報告されています。したがって、初期の改善効果が得られた後も、維持的なトレーニングを継続することが重要です。しかし、多くの人がトレーニングの継続に困難を感じるため、日常生活に無理なく組み込むための具体的な戦略が必要です。

トレーニングの習慣化を促進するためには、既存の日常習慣と結びつける方法が有効です。例えば、歯磨き中・通勤電車内・テレビ視聴中・就寝前など、毎日必ず行う活動の際にトレーニングを実施することで、特別な時間を確保しなくても継続が可能になります。また、スマートフォンのリマインダー機能を活用し、定期的にトレーニングの時間を知らせる設定をすることも有効です。さらに、トレーニング日誌をつけることで、実施状況を可視化し、モチベーションを維持することができます。日誌には、実施日時・セット数・収縮回数・症状の変化を記録し、長期的な改善を確認します。

[1] 日常動作と統合した機能的トレーニング

骨盤底筋トレーニングを日常動作と統合することで、より実用的かつ効果的なトレーニングが可能になります。日常生活の中で腹圧が上昇する場面は多く、それらの場面で骨盤底筋を適切に機能させることが、実際の尿失禁予防につながります。特に、咳・くしゃみ・重い物を持つ・階段を降りるなどの動作では、予測的に骨盤底筋を収縮させる習慣をつけることが重要です。

  • 咳やくしゃみをする直前に、骨盤底筋を意識的に収縮させます。
  • 重い物を持ち上げる前に、骨盤底筋を締めてから動作を開始します。
  • 階段を降りる際には、着地の衝撃に備えて骨盤底筋を保持します。
  • 立ち上がる動作や座る動作の際にも、骨盤底筋を意識します。
  • 歩行中も定期的に骨盤底筋を短時間収縮させる練習を行います。

これらの機能的トレーニングは、特別な時間を確保しなくても実施できるため、継続性が高く実用的です。また、実際に尿漏れが生じやすい場面での対処能力が向上するため、日常生活における症状の改善に直結します。さらに、骨盤底筋の収縮を日常動作と統合することで、無意識的に適切な筋活動が行われるようになり、長期的な症状管理が可能になります。この予測的収縮能力の獲得は、骨盤底筋トレーニングの重要な効果メカニズムの一つです【文献10】。

[2] 継続を妨げる障壁とその対処法

骨盤底筋トレーニングの継続を妨げる主な障壁としては、時間不足・効果実感の遅れ・モチベーションの低下・正確性への不安・社会的支援の欠如などが報告されています。これらの障壁を理解し、適切に対処することで、長期継続の成功率が向上します。特に、効果実感の遅れは多くの人が経験する問題であり、初期の数週間は目立った改善が見られなくても、継続することで徐々に効果が現れることを理解しておくことが重要です。

  • 時間不足に対しては、日常習慣と結びつけることで特別な時間確保を不要にします。
  • 効果実感の遅れに対しては、トレーニング日誌で小さな変化を記録し可視化します。
  • モチベーション低下に対しては、短期的な目標設定と達成感の積み重ねが有効です。
  • 正確性への不安に対しては、定期的な自己チェックや専門家への相談が推奨されます。
  • 社会的支援の欠如に対しては、家族や友人への情報共有が継続の助けになります。

これらの対処法を適切に活用することで、トレーニングの長期継続が可能になります。また、3ヶ月程度継続しても明確な改善が得られない場合は、収縮方法が誤っている可能性や、他の治療法が必要な状態である可能性があるため、専門医への相談が推奨されます。日本では女性泌尿器科を専門とする医療機関が増加しており、骨盤底筋トレーニングの指導やバイオフィードバック療法などの専門的サポートを受けることができます【文献6】。

[3] 補助的手段の活用とその効果

骨盤底筋トレーニングの効果を向上させるために、バイオフィードバック・電気刺激・膣コーンなどの補助的手段を併用することができます。これらの補助手段は、特に正確な収縮方法の習得が困難な場合や、トレーニング効果が不十分な場合に有効です。系統的レビューでは、バイオフィードバックを併用した骨盤底筋トレーニングが、単独トレーニングと比較して高い効果を示す可能性が報告されています【文献3】。

  • バイオフィードバックは、骨盤底筋の収縮を視覚的または聴覚的に確認できる装置です【文献3】。
  • 電気刺激は、外部からの電気刺激により骨盤底筋の収縮を誘発し、筋力強化を促進します【文献8】。
  • 膣コーンは、重りのついたコーンを膣内に挿入し、落とさないよう保持することで筋力を鍛えます【文献8】。
  • これらの補助手段は、特に初期段階での正確な収縮技術習得に有効です。
  • 補助手段の使用には専門家の指導が推奨され、適応と禁忌を確認する必要があります。

ランダム化比較試験では、骨盤底筋トレーニング単独と、電気刺激や膣コーンを併用した群を比較し、いずれも有意な改善効果を示すことが報告されています【文献8】。ただし、補助手段の効果は個人差が大きく、すべての人に必要というわけではありません。基本的な骨盤底筋トレーニングで十分な効果が得られる場合は、補助手段を使用する必要はありません。しかし、3ヶ月以上のトレーニングで効果が不十分な場合や、正確な収縮方法に自信が持てない場合は、専門医に相談し補助手段の使用を検討することが推奨されます。



まとめ

NHK「ためしてガッテン」で2019年2月27日に放送された尿漏れ体操は、骨盤底筋トレーニングの基本原理に基づいた科学的に妥当な方法です。番組で紹介される「息を吐きながらお尻を3秒間締める」という動作は、国際的な臨床ガイドラインで推奨される骨盤底筋トレーニングの標準的な方法と本質的に一致しており、その有効性は多数の大規模ランダム化比較試験によって実証されています。特に、Cochraneシステマティックレビューでは、31試験1817名の女性を対象とした解析により、骨盤底筋トレーニング腹圧性尿失禁切迫性尿失禁混合性尿失禁のすべてにおいて無治療群と比較して有意な改善効果を示すことが確認されています。腹圧性尿失禁の女性では治癒を報告する確率が8倍高く、すべてのタイプの尿失禁では5倍高いという結果は、この体操の医学的価値を明確に示しています。したがって、番組で紹介される体操を実践することは、尿失禁に悩む多くの女性にとって有益な第一歩となります。

しかし、放送内容が視聴者にとって理解しやすく実践しやすい形で提示されている反面、医学的に重要ないくつかの詳細情報が省略されている点にも注意が必要です。特に、速筋線維遅筋線維の両方を効果的に刺激するための短時間収縮と持久的収縮の組み合わせ、段階的な負荷増加の原則、正確な収縮技術の習得方法、姿勢選択の段階的進行については、放送内容だけでは不十分です。これらの要素は、トレーニング効果を最大化し、誤った方法による効果減弱を防ぐために重要であり、臨床研究においても標準的なプロトコルとして推奨されています。また、骨盤底筋は視覚的に確認できない内部の筋群であるため、多くの人が正確な収縮方法を習得できないまま誤った方法を継続してしまう可能性があります。初回の口頭指示のみで正確な骨盤底筋収縮を実施できる女性は約30%に過ぎないという報告は、正確な技術習得の困難さを示しており、尾骨の動きによる自己確認や専門家による評価が重要であることを示唆しています。さらに、バイオフィードバックや電気刺激といった補助的手段を併用することで、特に初期段階での正確な収縮技術習得が促進される可能性があります。

放送で示される効果発現期間についても、医学的に正確な情報提供が必要です。番組では2週間から3週間で効果が実感できると説明されますが、大規模な系統的レビューによれば、臨床的に意義のある改善が得られるまでには通常6週間から12週間のトレーニング期間が必要とされています。ただし、主観的な症状改善の自覚は個人差が大きく、尿失禁の重症度・骨盤底筋の初期筋力・トレーニングの正確性・実施頻度といった複数の要因が効果発現の速度に影響します。特に、骨盤底筋の損傷が軽度で初期筋力が比較的保たれている場合には短期間で効果が現れやすい傾向がありますが、重症例や神経障害を伴う場合には体操のみでは十分な効果が得られない可能性があります。日本人女性を対象とした疫学研究では、出産回数・BMI・加齢が腹圧性尿失禁の主要なリスク因子として報告されており、これらのリスク因子を持つ人では特に継続的なトレーニングが重要となります。また、3ヶ月以上体操を継続しても症状の改善が全く見られない場合、尿失禁の頻度や量が増加している場合、骨盤臓器脱の症状を伴う場合、血尿・排尿痛・発熱などの症状がある場合には、専門医への受診が必要となります。これらの状況では、薬物療法・バイオフィードバック療法・電気刺激療法・手術療法などの他の治療選択肢を検討する必要があります。

骨盤底筋トレーニングを効果的かつ安全に実践するためには、段階的なプログラムの構築と正確な技術習得が不可欠です。初級段階では仰臥位での正確な収縮技術の習得に焦点を当て、短時間収縮を反復することから開始します。この段階では収縮の正確性を最優先とし、尾骨の動きを手で確認しながら実施することで自己評価が可能になります。中級段階では収縮時間の延長と座位でのトレーニング導入を行い、速筋線維を刺激する短時間収縮と遅筋線維を刺激する持久的収縮を組み合わせたプログラムを実施します。このアプローチにより、瞬発的な腹圧上昇への対応能力と持続的な臓器支持能力の両方が向上します。上級段階では立位でのトレーニングと日常動作との統合を行い、咳やくしゃみの前に反射的に骨盤底筋を収縮させる予測的収縮能力を獲得します。この予測的収縮は「ナック」と呼ばれ、実際の尿失禁予防に重要な役割を果たします。各段階は2週間から4週間程度継続し、次の段階へ進む前に現在の段階の目標を達成することが重要です。急激な強度増加は筋疲労や誤った収縮パターンの定着を引き起こす可能性があるため、個人の筋力レベルに応じた段階的な進行が推奨されます。

長期的な効果維持のためには、トレーニングを日常生活の一部として習慣化することが不可欠です。多くの研究で、トレーニングの効果は継続的な実施に依存し、中断すると数週間から数ヶ月で筋力が低下し症状が再発する可能性があることが報告されています。したがって、初期の改善効果が得られた後も、維持的なトレーニングとして週3回から5回のセッションを継続することが推奨されます。トレーニングの習慣化を促進するためには、既存の日常習慣と結びつける方法が有効であり、歯磨き中・通勤電車内・テレビ視聴中・就寝前など、毎日必ず行う活動の際にトレーニングを実施することで、特別な時間を確保しなくても継続が可能になります。また、咳やくしゃみをする直前や重い物を持ち上げる前に予測的に骨盤底筋を収縮させる習慣をつけることで、実際に尿漏れが生じやすい場面での対処能力が向上し、日常生活における症状の改善に直結します。さらに、トレーニング日誌をつけることで実施状況を可視化し、モチベーションを維持することができます。時間不足・効果実感の遅れ・モチベーションの低下・正確性への不安といった継続を妨げる障壁に対しては、適切な対処法を活用することで長期継続の成功率が向上します。

ためしてガッテンで紹介される尿漏れ体操は、科学的根拠に基づいた有効な方法であり、多くの女性にとって尿失禁改善の第一歩となる価値ある情報です。しかし、放送内容を正しく理解し、医学的に推奨される詳細な実践方法を習得することで、より高い効果と安全性が期待できます。特に、正確な収縮技術の習得・段階的なプログラム進行・日常生活への統合・長期的な継続という4つの要素は、トレーニングの成功に不可欠です。また、個人の状況に応じて専門医への相談や補助的手段の活用を検討することも重要です。日本では女性泌尿器科を専門とする医療機関が増加しており、骨盤底筋トレーニングの専門的指導やバイオフィードバック療法などのサポートを受けることができます。尿失禁は決して恥ずかしい問題ではなく、適切な対処により多くの場合改善可能な疾患です。ためしてガッテンで紹介される体操を正しく理解し実践することで、尿失禁に悩む多くの女性が症状の改善を実現し、生活の質を向上させることができるでしょう。2025年6月にはNHK「あしたが変わるトリセツショー」でも尿漏れ体操が取り上げられ、大阪医科薬科大学の二宮早苗准教授が考案した新しいアプローチが紹介されるなど、骨盤底筋トレーニングに関する情報提供は継続的に行われています。これらの情報を総合的に活用し、自身に最適な方法を見つけることが、長期的な症状管理の成功につながります。



専門用語一覧

  • 骨盤底筋:骨盤の最下部に位置し、膀胱・子宮・直腸などの骨盤内臓器を下から支えるハンモック状の筋肉群です。肛門挙筋・尾骨筋・会陰横筋などから構成され、排尿排便のコントロールや骨盤臓器の支持という重要な役割を果たしています。
  • 腹圧性尿失禁:咳・くしゃみ・笑い・重い物を持つなど、腹圧が上昇する動作時に意思に反して尿が漏れる状態です。骨盤底筋の弛緩や尿道括約筋の機能低下により、腹圧上昇時に尿道閉鎖圧が膀胱内圧を下回ることで発生します。
  • 切迫性尿失禁:突然の強い尿意が生じ、トイレまで我慢できずに尿が漏れてしまう状態です。膀胱の過活動や神経系の異常により、膀胱が不適切なタイミングで収縮することで発生します。
  • 混合性尿失禁:腹圧性尿失禁切迫性尿失禁の両方の症状を併せ持つ状態です。多くの女性において、加齢や出産の影響により両方のタイプの尿失禁が同時に発生することがあります。
  • 骨盤底筋トレーニング:骨盤底筋を随意的に収縮・弛緩させる運動を反復することで、筋力・筋持久力・神経筋協調性を向上させる保存的治療法です。PFMT(Pelvic Floor Muscle Training)とも呼ばれ、尿失禁に対する第一選択の治療として国際的に推奨されています。
  • 最大随意収縮:骨盤底筋を意識的に最大限の力で収縮させることです。速筋線維を刺激し、瞬発的な腹圧上昇に対応する能力を向上させる効果があります。通常2秒から3秒の保持時間で実施されます。
  • 持久的収縮:骨盤底筋を中程度の力で長時間保持する収縮です。遅筋線維を刺激し、持続的な臓器支持能力や長時間の姿勢保持に必要な筋持久力を向上させる効果があります。通常5秒から10秒の保持時間で実施されます。
  • 速筋線維:素早く強い力を発揮できる筋線維です。骨盤底筋の速筋線維は、咳やくしゃみなどの突然の腹圧上昇に対して瞬発的に収縮し、尿道を閉鎖する役割を果たします。
  • 遅筋線維:持久力に優れた筋線維です。骨盤底筋の遅筋線維は、長時間にわたって骨盤内臓器を支持し続ける役割を果たします。日常生活における姿勢保持や持続的な臓器支持に重要です。
  • ナック:咳やくしゃみなどの予測可能な腹圧上昇の直前に、反射的に骨盤底筋を収縮させる動作です。この予測的収縮により、腹圧上昇時の尿漏れを防ぐことができます。骨盤底筋トレーニングの重要な目標の一つです。
  • バイオフィードバック:骨盤底筋の収縮を視覚的または聴覚的に確認できる装置を用いたトレーニング方法です。膣内または肛門内にセンサーを挿入し、筋収縮の強度や持続時間をモニター画面や音で確認しながらトレーニングを行います。
  • 電気刺激療法:骨盤底筋に外部から電気刺激を与えることで、筋収縮を誘発し筋力強化を促進する治療法です。特に自己の随意的な収縮が困難な場合や、トレーニング初期段階での筋力向上に有効です。
  • 膣コーン:重りのついた円錐形の器具を膣内に挿入し、落とさないように保持することで骨盤底筋を鍛えるトレーニング器具です。重力に抗して保持することで、機能的な筋力強化が可能になります。
  • 骨盤臓器脱:骨盤底筋の支持機能が低下することで、膀胱・子宮・直腸などの骨盤内臓器が膣から脱出する状態です。重症例では外科的治療が必要となる場合がありますが、軽度から中等度の場合は骨盤底筋トレーニングで改善する可能性があります。
  • 尿道括約筋:尿道を取り囲み、尿道の開閉をコントロールする筋肉です。随意的にコントロール可能な外尿道括約筋と、自律神経により制御される内尿道括約筋があり、両者が協調して尿禁制を維持します。
  • 漸進性過負荷の原則:筋力トレーニングにおいて、筋力の向上に応じて段階的に負荷を増加させることで、継続的な筋力向上を達成する原則です。骨盤底筋トレーニングでも、収縮時間・回数・セット数を段階的に増加させることが推奨されます。
  • 神経筋協調性:神経系と筋肉系が協調して働く能力です。骨盤底筋トレーニングにより、脳から骨盤底筋への運動指令経路が強化され、より効率的かつ正確な筋収縮が可能になります。
  • 内臓リフトアップ体操:NHK「ためしてガッテン」で紹介された骨盤底筋トレーニングの呼称です。医学的には骨盤底筋トレーニングまたは骨盤底筋体操と呼ばれる同一の運動を指します。
  • Cochraneレビュー:世界的に最も信頼性の高い系統的レビューの一つであり、複数のランダム化比較試験の結果を統合して分析した医学的エビデンスです。骨盤底筋トレーニングの有効性は複数のCochraneレビューで確認されています。
  • ランダム化比較試験:研究参加者を無作為に治療群と対照群に割り付け、治療効果を比較する研究デザインです。RCT(Randomized Controlled Trial)とも呼ばれ、医学的エビデンスの中で最も信頼性が高い研究方法とされています。



参考文献一覧

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  2. Hay-Smith EJC, Starzec-Proserpio M, Moller B, Aldabe D, Cacciari L, Pitangui ACR, Vesentini G, Woodley SJ, Dumoulin C, Frawley HC, Jorge CH, Morin M, Wallace SA, Weatherall M. Comparisons of approaches to pelvic floor muscle training for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2024 Dec 20;12(12):CD009508.
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執筆者

代表取締役社長 博士(工学)中濵数理

■博士(工学)中濵数理

  • 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
  • 沖縄再生医療センター:センター長
  • 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
  • 日本再生医療学会:正会員
  • 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
  • 日本バイオマテリアル学会:正会員
  • 公益社団法人高分子学会:正会員
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