ためしてガッテンで紹介された五十肩の治し方と医学的根拠に基づく改善法
肩が痛くて腕を上げられない、夜間に痛みで目が覚める、衣服の着脱が困難になるといった症状に悩まされている方は、五十肩(肩関節周囲炎)の可能性があります。NHKの人気健康番組「ためしてガッテン」では、五十肩の治し方として肩甲骨を動かすストレッチや体操が紹介され、多くの視聴者から反響を得ました。しかし、番組で紹介された方法がすべての病期に適しているわけではなく、急性期には安静が必要であるなど、病期に応じた適切な対処が求められます。そのため、番組内容を正しく理解したうえで、医学的根拠に基づいた治療法を選択することが重要です。
五十肩は40歳代から60歳代を中心に発症し、人口の2~5%が罹患するとされています【文献1】。肩関節を構成する組織に炎症が生じることで痛みと可動域制限が現れ、日常生活に大きな支障をきたします。一方で、適切な治療とリハビリテーションを行えば、多くの症例で症状の改善が期待できます【文献2】。したがって、ためしてガッテンで紹介された方法を含め、科学的根拠のある治療法を理解し、自身の病期に合わせた対処を実践することが、五十肩からの回復への近道となります。
本記事では、ためしてガッテンで紹介された五十肩の治し方の具体的内容を詳しく解説し、その方法が医学的にどのように評価されるかを検証します。また、五十肩の病期ごとに異なる適切なアプローチ方法、自宅で安全に実践できるストレッチと運動療法、そして医療機関での専門的治療法について、最新の研究知見を踏まえて体系的に説明します。これにより、読者の皆様が五十肩の痛みを適切に管理し、機能回復を目指すための実践的な知識を得られることを目指します。
ためしてガッテンで紹介された五十肩の治し方:番組内容の全容
NHKの健康情報番組「ためしてガッテン」では、五十肩をテーマとした放送回が複数回にわたって制作され、視聴者に大きな反響を呼びました。番組では五十肩の症状や原因を分かりやすく解説するとともに、自宅で実践できる具体的な改善方法が紹介されています。特に2014年2月5日放送の「長引く肩の痛みに喝!五十肩&コリ一挙撃滅」では、五十肩の見分け方や予防体操が詳しく取り上げられ、多くの整骨院や接骨院でも患者から番組内容についての質問が相次ぎました。番組の核心は、肩関節そのものを無理に動かすのではなく、肩甲骨を中心とした周辺筋肉の柔軟性を高めることで五十肩の症状を改善するというアプローチにあります。
番組内で最も注目を集めた方法が「肩甲骨を動かすストレッチ」です。このストレッチは、痛みが強い時期の五十肩において肩関節を直接動かすことが困難であるという点に着目し、肩関節への負担を最小限に抑えながら肩甲骨周辺の筋肉を動かすことを目的としています。具体的には「ひじまる体操」と呼ばれる方法が紹介され、片手で襟をつまんで肘を上に上げ、視線を肘に向けながら肘を中心に円を描くように回転させる動作が推奨されました。この体操は時計回りと反時計回りの両方向で行い、右肘・左肘・両肘それぞれ5回を1セットとして、1日に3分程度実施することが提案されています。また、両肘を同時に回転させる動作は、水泳のクロールや背泳ぎと同様の運動となり、肩周りの血行を促進する効果が期待できるとされました。
さらに番組では、五十肩には「自然に治るタイプ」と「悪化するタイプ」が存在することが強調されました。悪化するタイプは「終身型」と呼ばれ、肩甲骨と上腕骨を結ぶ腱板という組織の損傷が原因であり、放置すると痛みがどんどん増して手術が必要になる場合もあると説明されています。この終身型五十肩を早期に見分けるためのチェック方法として、「サル」を用いた実演が行われ、特定の動作で痛みが誘発されるかどうかを確認する簡易テストが紹介されました。加えて、番組では金メダリストのアスレチックトレーナーが登場し、予防法として肩甲骨の可動性を高める体操を実演しています。このように、ためしてガッテンでは五十肩の多様な側面を取り上げ、視聴者が自身の状態を理解し適切な対処を選択できるよう配慮した内容となっています。
■1. 番組で紹介された具体的なストレッチ方法
ためしてガッテンで紹介されたストレッチ方法は、複数のバリエーションが存在します。最も基本となるのが前述の「ひじまる体操」ですが、そのほかにも寝た姿勢で行う体操や、壁を使ったストレッチなど、さまざまな方法が提案されました。これらの体操に共通する原則は、肩関節に直接的な負荷をかけず、肩甲骨や周辺筋群の動きを促すことで間接的に肩関節の機能改善を図るという点にあります。番組では、呼吸を止めずにゆっくりとした動きで気持ちよいと感じる程度に加減して行うことが重要であると説明されており、痛みを我慢して無理に動かすことは推奨されていません。
寝た姿勢で行うストレッチの一例として、仰向けに寝て両腕を横に伸ばし、頭と肩を床につけたまま両膝をそろえて左右に捻る体操が紹介されています。この体操では、両膝が離れないように注意しながら体幹を回旋させることで、肩甲骨周辺の筋肉を伸ばす効果が得られます。また、壁を使ったストレッチでは、壁に向かって立ち両手を壁につけ、ゆっくりと腰を引くように体を後ろに倒すことで、肩の筋肉がしっかりと伸ばされ無理なく可動域を広げることが期待できるとされました。これらの方法は、自宅で特別な器具を必要とせず簡単に実践できる点が評価され、多くの視聴者が番組放送後に試みています。
[1] ひじまる体操の実施手順
ひじまる体操は、五十肩の症状がある側の肩を中心に行う体操です。まず、椅子に座るか立った状態で背筋を伸ばし、リラックスした姿勢をとります。次に、痛みのある側の手で反対側の襟や肩の辺りをつまみ、肘を上に持ち上げます。このとき、視線を肘に向けることで肩甲骨周辺の筋肉により意識を向けやすくなります。
- 椅子に座るか立った状態で背筋を伸ばし、リラックスした姿勢を作ります。
- 痛みのある側の手で反対側の襟や肩の辺りをつまみ、肘を上方に持ち上げます。
- 視線を肘に向けながら、肘を中心に円を描くように回転させます。
- 最初は小さな円から始め、徐々に円を大きくしていきます。
- 時計回りと反時計回りの両方向で各5回ずつ実施します。
この体操を実施する際の重要なポイントは、無理に大きく動かさないことです。痛みが強く出る範囲まで動かすと炎症を悪化させる可能性があるため、気持ちよいと感じる範囲内で動作を行います。また、呼吸を止めずに自然な呼吸を続けることで、筋肉の緊張を和らげながら運動を行うことができます。右肘と左肘を別々に行った後、両肘を同時に回転させる動作を加えることで、肩甲骨周辺全体の血行促進効果がさらに高まるとされています。番組では1日3分程度の実施が推奨されましたが、症状の程度に応じて回数や時間を調整することが大切です。
[2] バスタオルを使った体操の方法
番組ではバスタオルを使った体操も紹介されています。この体操は肩関節の可動域を広げることを目的とし、特に痛みを感じやすい部位を緩める効果があるとされました。具体的には、バスタオルを横にして両端を両手で持ち、片方の手でバスタオルを引っ張りながら反対側の手を伸ばすように動かします。この動作により、横方向に引く力が肩関節周りの筋肉に加わり、筋肉が伸ばされる効果が得られます。
- バスタオルを横にして持ち、両手で両端をしっかりとつかみます。
- 片方の手でバスタオルを引っ張りながら、反対側の手を伸ばすように動かします。
- 引っ張る力は無理のない範囲で調整し、痛みが強く出ない程度にとどめます。
- 左右交互に10回ずつ実施し、これを1セットとして1日2~3セット行います。
バスタオルを使った体操の利点は、タオルを介することで力のかかり方を調整しやすく、直接肩を動かすよりも安全に可動域訓練ができる点にあります。また、タオルの長さを変えることで運動の強度を調整できるため、症状の進行度に応じて無理なく継続できます。番組では、この体操を風呂上がりなど体が温まった状態で行うとより効果的であると説明されており、筋肉の柔軟性が高まっているタイミングでストレッチを行うことが推奨されています。
[3] 壁を使ったストレッチの実施方法
壁を使ったストレッチは、肩関節周辺の筋肉を無理なく伸ばすための方法として番組で紹介されました。この方法では、壁に向かって立ち両手を肩の高さで壁につけ、ゆっくりと腰を引くように体を後ろに倒します。このとき、肩の筋肉がしっかりと伸ばされる感覚が得られ、無理な力をかけずに可動域を広げることが期待できます。
- 壁から約50~70cm離れた位置に立ちます。
- 両手を肩の高さで壁につけ、肘を軽く曲げた状態を保ちます。
- ゆっくりと腰を引くように体を後ろに倒し、肩と胸の筋肉が伸びる感覚を確認します。
- 伸ばした状態で10~15秒間キープし、ゆっくりと元の姿勢に戻ります。
- この動作を5回程度繰り返します。
壁を使ったストレッチは、自分の体重を利用して自然な負荷をかけることができるため、力加減の調整がしやすく安全性が高い方法です。また、壁に手をついて支えることで安定した姿勢を保ちやすく、バランスを崩す心配も少なくなります。番組では、この運動を行う際に自分の体の反応を見ながら慎重に進めることが強調されており、痛みが強く出る場合は無理をせず中止することが重要であると説明されています。
■2. 番組で説明された五十肩の種類と見分け方
ためしてガッテンでは、五十肩に「自然に治るタイプ」と「悪化するタイプ」が存在することが詳しく説明されました。自然に治るタイプは一般的な肩関節周囲炎であり、適切な安静と時間の経過により症状が改善していく経過をたどります。一方、悪化するタイプは「終身型五十肩」とも呼ばれ、腱板という肩関節を安定させる筋肉組織の損傷が原因となっています。この終身型五十肩は放置すると痛みが徐々に増悪し、最終的には手術が必要となる可能性があるため、早期の発見と適切な治療が重要です。
番組では、終身型五十肩を見分けるための簡易的なチェック方法が紹介されました。具体的には、腕を特定の角度で動かしたときに鋭い痛みが誘発されるかどうかを確認する方法です。また、サルを用いた実演では、サルが木から木へ飛び移る際の肩の動きと、人間の肩関節の動きを比較することで、肩関節にかかる負担の大きさが視覚的に説明されました。この説明により、視聴者は五十肩が単なる加齢による症状ではなく、肩関節の構造的な問題に起因する可能性があることを理解しやすくなっています。
[1] 自然に治るタイプの特徴
自然に治るタイプの五十肩は、肩関節を包む関節包や滑液包などの組織に炎症が生じることで発症します。このタイプの五十肩は、急性期に強い痛みが現れるものの、適切な安静と保存的治療により炎症が徐々に収まり、拘縮期を経て回復期に至るという経過をたどります。回復までには個人差があるものの、多くの場合3か月から1年程度で症状が改善していきます【文献3】。
- 急性期には安静時痛や夜間痛が強く現れ、日常生活に支障をきたします。
- 拘縮期では痛みが徐々に軽減する一方で、肩関節の可動域制限が顕著になります。
- 回復期には可動域が少しずつ改善し、痛みも軽減していきます。
- 適切な治療とリハビリテーションにより、ほとんどの症例で機能回復が期待できます。
このタイプの五十肩では、炎症期に無理に肩を動かすことは避けるべきであり、安静を保ちながら炎症の鎮静化を図ることが優先されます。番組でも、痛みが強い時期に無理に動かすと炎症が悪化し回復が遅れる可能性があると説明されており、病期に応じた適切な対処の重要性が強調されています。
[2] 悪化するタイプ(終身型)の特徴
終身型五十肩は、腱板の損傷や断裂が原因となって発症するタイプであり、自然治癒が期待できない場合があります。腱板は肩関節を安定させるために重要な役割を果たす筋肉組織であり、加齢による退行性変化や外傷により損傷しやすくなります。このタイプの五十肩は、初期には痛みがないこともあるため自分では気づきにくく、症状が進行してから発見されることが多いとされています。
- 腱板の損傷や断裂が原因となっており、自然治癒が困難です。
- 初期には痛みが軽微であるため見過ごされやすく、症状の進行により痛みが増悪します。
- 放置すると痛みがどんどん強くなり、最終的には手術が必要となる場合があります。
- 早期発見と適切な治療介入が予後を大きく左右します。
番組では、終身型五十肩を早期に発見するための簡易チェック方法として、特定の動作で痛みが誘発されるかを確認するテストが紹介されました。また、60歳以上の約40%は何らかの腱板の損傷や変性を起こしているとされ、終身型五十肩は決して稀な病態ではないことが説明されています。このため、五十肩の症状がある場合には自己判断で放置せず、医療機関を受診して正確な診断を受けることが重要です。
■3. 番組で推奨された日常生活の注意点
ためしてガッテンでは、五十肩の改善のために日常生活で注意すべき点についても詳しく説明されました。特に強調されたのは、痛みが強い時期には無理に肩を動かさず安静を保つことの重要性です。番組では「痛くても動かさないと固まる」という俗説が誤りであることが明確に指摘され、炎症期に無理に動かすと炎症が悪化して回復が遅れる可能性があると警告されています。したがって、急性期には肩関節にとって最も楽な姿勢である安静肢位を保ち、肩への刺激を極力減らすことが推奨されました。
また、番組では夜間就寝時の姿勢についても具体的なアドバイスが提供されています。五十肩の患者は夜間痛に悩まされることが多く、寝返りや肩を下にした姿勢で痛みが増悪するため、睡眠の質が低下しがちです。これを改善するための方法として、肩から肘の後ろにクッションや座布団を敷き、枕を抱えるようにして休む姿勢が紹介されました。この姿勢により肩関節が軽度屈曲位に保たれ、関節内圧が軽減されることで夜間痛が和らぐ効果が期待できます。
[1] 急性期における安静の保ち方
急性期は炎症が最も強い時期であり、この時期に適切な安静を保つことが回復の鍵となります。安静とは完全に動かさないという意味ではなく、炎症を助長する刺激を与えないことを指します。そのため、痛みが出るような動作はすべて避け、日常生活においても肩への負担を最小限にする工夫が必要です。
- 痛みが誘発される動作や姿勢を避け、肩関節への刺激を減らします。
- 重い物を持つ、腕を高く上げる、腕を後ろに回すなどの動作は控えます。
- 必要に応じて三角巾やスリングを使用し、肩関節を安静肢位に保ちます。
- 夜間就寝時にはクッションを使用して肩を支え、痛みが出にくい姿勢を保ちます。
番組では、安静肢位として仰向けに寝た状態で肘を曲げた腕をやや上げて前に出し、肘をやや外側に向け、手首を軽く外側に回す姿勢が示されました。この姿勢は肩関節にとって最も負担が少なく、関節内圧を低下させる効果があります。急性期には安静を保っても痛みが続く場合があり、そのような場合にはできるだけ早く整形外科を受診することが推奨されています。
[2] 拘縮期・回復期における運動の進め方
拘縮期に入ると痛みは徐々に軽減しますが、肩関節の可動域制限が顕著になります。この時期には、過度な安静を避け、無理のない範囲で肩を動かすことが重要です。ためしてガッテンで紹介された肩甲骨を動かすストレッチは、この拘縮期から回復期にかけて特に有効であるとされています。
- 拘縮期初期は痛みのない範囲でゆっくりと肩甲骨周辺の筋肉を動かします。
- 痛みが軽減してきたら、徐々に運動の範囲を広げていきます。
- 回復期には積極的にストレッチや軽い筋力トレーニングを取り入れます。
- 日常生活動作を通じて肩を使う機会を増やし、機能回復を促進します。
番組では、拘縮期から回復期にかけての運動を段階的に進めることの重要性が強調されています。無理に痛みを我慢して動かすと炎症が再燃する可能性があるため、常に自分の体の反応を観察しながら運動を進めることが大切です【文献7】。また、ストレッチや体操を行う際には、体が温まっている入浴後などに実施するとより効果的であり、筋肉の柔軟性が高まっているタイミングで運動を行うことが推奨されています。
番組で紹介された方法の医学的検証:効果と注意すべき点
ためしてガッテンで紹介された五十肩の治し方は、多くの視聴者から肯定的な反応を得ましたが、医学的な観点からその効果と限界を検証することが重要です。番組で中心的に紹介された「肩甲骨を動かすストレッチ」は、理学療法の分野において肩関節周囲炎の治療に用いられる運動療法の一つとして位置づけられます。肩甲骨の可動性を高めることで肩関節への負担を軽減し、肩甲胸郭関節の機能を改善することは、五十肩の治療において重要なアプローチです【文献1】。しかし、この方法がすべての病期や病態に適しているわけではなく、特に急性期の炎症が強い時期には安静が優先されるべきであり、運動療法は慎重に導入する必要があります【文献2】。
医学的な研究によれば、五十肩の治療には病期に応じたアプローチが不可欠です。急性期には炎症を鎮静化させることが最優先であり、過度な運動は炎症を悪化させる可能性があります。一方、拘縮期から回復期にかけては、関節可動域の改善と筋力の維持を目的とした運動療法が有効であるとされています。ためしてガッテンで紹介された肩甲骨ストレッチは、拘縮期以降の段階において適切に実施すれば効果が期待できる方法ですが、急性期に無理に実施すると症状を悪化させるリスクがあります。したがって、番組内容を参考にする際には、自身の病期を正しく理解し、適切なタイミングで運動を開始することが求められます。
また、番組で紹介された方法は自宅で手軽に実践できる点が大きな利点ですが、医療機関での専門的な診断と治療を代替するものではありません。五十肩の症状には腱板断裂や石灰沈着性腱板炎など、肩関節周囲炎とは異なる病態が含まれることがあり、これらは画像検査によって初めて診断されます【文献4】。番組でも「終身型五十肩」として腱板損傷の可能性が言及されていましたが、このような病態は自己判断での運動療法では改善が困難であり、専門医による適切な治療が必要です。したがって、番組の内容を実践する前に、まず医療機関を受診して正確な診断を受けることが重要です。
■1. 肩甲骨ストレッチの医学的根拠
肩甲骨を動かすストレッチが五十肩の改善に有効である理由は、肩甲骨と肩関節の運動連鎖に基づいています。肩関節の動きは単独で行われるのではなく、肩甲骨の動きと協調することで正常な可動域が実現されます。五十肩の患者では肩関節の可動域制限が生じるだけでなく、肩甲骨周辺の筋肉も硬くなり、肩甲骨の動きが制限されることが多く報告されています【文献5】【文献7】。そのため、肩甲骨の可動性を改善することで、肩関節への負担を軽減し、全体的な肩の機能を向上させることが可能となります。
理学療法の分野では、肩甲胸郭関節の可動性を高めることが五十肩の治療において重要な要素とされています【文献6】。肩甲胸郭関節とは、肩甲骨と胸郭の間で形成される機能的な関節であり、この部分の柔軟性が低下すると肩関節に過度な負担がかかります。ためしてガッテンで紹介された肩甲骨ストレッチは、この肩甲胸郭関節の可動性を改善することを目的としており、理学療法における運動療法の原則に合致しています。ただし、ストレッチの効果を最大限に引き出すためには、正しいフォームで実施することが重要であり、痛みが強く出る範囲まで無理に動かすことは避けるべきです。
[1] 肩甲骨と肩関節の運動連鎖
肩関節の動きは、肩甲骨と上腕骨の協調運動によって実現されます。腕を上げる動作では、最初の30度程度は肩関節が単独で動きますが、それ以上の挙上では肩甲骨が上方回旋することで動きが補完されます。この肩甲骨と肩関節の協調運動は「肩甲上腕リズム」と呼ばれ、正常な肩の機能にとって不可欠です。五十肩の患者では肩関節の可動域制限に加えて、肩甲骨の動きも制限されることが多く、この肩甲上腕リズムが乱れます【文献7】。
- 肩関節と肩甲骨は協調して動くことで正常な可動域を実現します。
- 五十肩では肩関節だけでなく肩甲骨周辺の筋肉も硬くなり動きが制限されます。
- 肩甲骨の可動性を改善することで肩関節への負担が軽減されます。
- 肩甲骨ストレッチは肩甲上腕リズムの改善に寄与します。
ためしてガッテンで紹介された肩甲骨ストレッチは、この肩甲上腕リズムの改善を目的とした運動であり、肩甲骨周辺の筋肉の柔軟性を高めることで、肩関節の動きをスムーズにする効果が期待できます。特に、肩甲骨を寄せる動作や回旋させる動作は、肩甲骨周辺の筋群を活性化し、血行を促進する効果があります。これにより、拘縮期から回復期にかけての可動域改善が促進されると考えられます。
[2] 運動療法における肩甲骨エクササイズの位置づけ
理学療法における五十肩の運動療法では、肩甲骨周辺の筋肉を活性化するエクササイズが重要な役割を果たします。肩甲骨を動かすエクササイズは、肩関節に直接的な負荷をかけずに肩周辺の血行を改善し、筋肉の柔軟性を高めることができるため、拘縮期の患者に対して推奨される方法の一つです【文献8】。番組で紹介されたひじまる体操は、肩甲骨の上方回旋と下方回旋を促す動作であり、肩甲骨周辺の筋群を効果的に動かすことができます。
- 肩甲骨エクササイズは肩関節への直接的な負荷を避けながら機能改善を図ります。
- 肩甲骨周辺の血行を促進し筋肉の柔軟性を高める効果があります。
- 拘縮期から回復期にかけて特に有効な運動療法です。
- 正しいフォームで実施することで効果が最大化されます。
ただし、肩甲骨エクササイズはすべての五十肩患者に適しているわけではありません。急性期で炎症が強い時期には、たとえ肩関節に直接負荷をかけない運動であっても、肩周辺の筋肉を動かすことで炎症が悪化する可能性があります。そのため、運動療法を開始する前には、必ず医師や理学療法士に相談し、自身の病期と病態に適した運動を選択することが重要です。
■2. 番組内容の限界と注意すべき点
ためしてガッテンで紹介された方法は、一般視聴者にとって理解しやすく実践しやすい内容である一方、医学的な観点からいくつかの限界と注意点が存在します。最も重要な点は、番組で紹介された方法が「拘縮期以降の五十肩」に適した内容である一方、「急性期の炎症が強い時期」には適さない可能性があることです。番組内でも安静の重要性には触れられていましたが、視聴者の中には病期の判断が難しく、誤ったタイミングで運動を開始してしまうケースがあります。
また、番組では五十肩の多様な病態について一部言及されていたものの、腱板断裂や石灰沈着性腱板炎などの鑑別診断については詳しく説明されていませんでした。これらの病態は五十肩と症状が類似しているものの、治療アプローチが異なるため、正確な診断が不可欠です。特に腱板断裂の場合、運動療法だけでは改善が困難であり、場合によっては手術が必要となることもあります。したがって、番組の内容を実践する前に、まず医療機関で画像検査を含む適切な診断を受けることが強く推奨されます。
[1] 急性期における運動療法のリスク
急性期は肩関節周囲の組織に強い炎症が生じている時期であり、この時期に運動療法を行うことは炎症を悪化させるリスクがあります。炎症期には安静を保ち、炎症の鎮静化を最優先とすることが医学的に推奨されています。番組で紹介された肩甲骨ストレッチは、肩関節への直接的な負荷は少ないものの、肩周辺の筋肉を動かすことで間接的に炎症部位に刺激を与える可能性があります。
- 急性期には安静時痛や夜間痛が強く炎症が活発な状態です。
- 運動療法を行うと炎症が悪化し回復が遅れる可能性があります。
- 痛みが強い時期には無理に動かさず安静を優先すべきです。
- 医師の指導のもとで適切なタイミングで運動を開始することが重要です。
急性期における適切な対処は、消炎鎮痛剤の内服や湿布の使用、必要に応じてステロイド注射やヒアルロン酸注射などの薬物療法を行い、炎症を速やかに鎮静化させることです。運動療法は炎症が落ち着き、痛みが軽減してから段階的に導入するべきであり、自己判断で早期に開始することは避けるべきです。番組の内容を実践する際には、現在の症状が急性期に該当するのか、拘縮期以降に該当するのかを医療専門職に判断してもらうことが推奨されます。
[2] 病態の鑑別診断の重要性
五十肩と診断される症状の中には、実際には腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、インピンジメント症候群、変形性肩関節症など、異なる病態が含まれていることがあります。これらの病態は症状が類似しているものの、治療法が異なるため、正確な鑑別診断が不可欠です。特に腱板断裂の場合、保存的治療では改善が困難であり、手術が必要となることもあります。
- 五十肩と類似した症状を示す病態は複数存在します。
- 腱板断裂は腱板組織の損傷または断裂により肩の挙上が困難になります。
- 石灰沈着性腱板炎は腱板にカルシウムが沈着し激痛を引き起こします。
- インピンジメント症候群は肩峰下滑液包が挟まれることで痛みが生じます。
- 変形性肩関節症は関節軟骨の変性により痛みと可動域制限が現れます。
これらの病態を鑑別するためには、X線検査やMRI検査、超音波検査などの画像診断が必要です。番組では「終身型五十肩」として腱板損傷の可能性が言及されていましたが、視聴者が自己判断で病態を特定することは困難です。そのため、五十肩の症状がある場合には、まず整形外科を受診し、専門医による適切な診断を受けることが重要です。正確な診断に基づいて治療方針を決定することで、より効果的な治療が可能となります。
■3. 番組内容を安全に実践するためのガイドライン
ためしてガッテンで紹介された方法を安全かつ効果的に実践するためには、いくつかの重要なガイドラインを守る必要があります。まず、運動を開始する前に医療機関を受診し、自身の病期と病態を正確に把握することが最も重要です。医師や理学療法士の指導のもとで、自分の状態に適した運動を選択し、適切なタイミングで開始することで、安全性と効果を両立させることができます。
次に、運動を実施する際には、痛みのない範囲で行うことが絶対的な原則です。痛みは体からの警告信号であり、痛みを我慢して運動を続けることは炎症を悪化させるリスクがあります。番組でも「気持ちよいと感じる程度」に加減して行うことが推奨されていましたが、この原則を厳守することが重要です。また、運動中は呼吸を止めずに自然な呼吸を続けることで、筋肉の緊張を和らげながら効果的に運動を行うことができます。
[1] 運動実施時の基本原則
番組で紹介されたストレッチや体操を実施する際には、以下の基本原則を守ることで、安全性を確保しながら効果を最大化することができます。これらの原則は理学療法の分野で広く推奨されているものであり、五十肩の運動療法において不可欠な要素です。
- 痛みのない範囲で運動を行い痛みを我慢して無理に動かさないこと。
- 呼吸を止めずに自然な呼吸を続けながらリラックスして運動すること。
- ゆっくりとした動作で行い急激な動きや反動を避けること。
- 体が温まっている入浴後などに実施すると効果が高まります。
- 毎日継続して行うことで徐々に効果が現れます。
- 症状が悪化した場合にはすぐに運動を中止し医師に相談すること。
これらの原則を守ることで、番組で紹介された方法を安全に実践することができます。また、運動を開始した後も、定期的に医療機関を受診し、症状の経過を医師に報告することが重要です。症状の改善が見られない場合や、逆に悪化している場合には、運動方法の見直しや追加的な治療が必要となることがあります。
[2] 医療専門職との連携の重要性
番組で紹介された方法は自宅で手軽に実践できる利点がありますが、医療専門職との連携を怠ってはいけません。理学療法士は運動療法の専門家であり、患者一人ひとりの病期や症状に応じた個別的な運動プログラムを作成することができます。番組の内容を参考にしつつ、理学療法士の指導を受けることで、より安全かつ効果的な運動療法が実現します。
- 医師による正確な診断を受けることが治療の第一歩です。
- 理学療法士は個別的な運動プログラムを作成し適切な指導を提供します。
- 定期的な受診により症状の経過を評価し治療方針を調整します。
- 症状が改善しない場合や悪化した場合には速やかに相談すること。
医療専門職との連携により、番組で紹介された方法を自身の状態に合わせて最適化し、安全に実践することが可能となります。また、運動療法だけでなく、必要に応じて薬物療法や注射療法などの医学的治療を組み合わせることで、より効果的な症状改善が期待できます。ためしてガッテンの内容は有用な情報源ですが、それを医療専門職の指導と組み合わせることで、最良の治療結果が得られるのです。
五十肩の病期分類と各段階における適切な治療アプローチ
五十肩の治療を成功させるためには、病期の正確な理解が不可欠です。五十肩は一様な経過をたどるのではなく、炎症期(急性期)、拘縮期(凍結期)、回復期(解凍期)という3つの明確な病期に分類されます【文献1】。各病期では症状の特徴が異なり、それに応じた治療アプローチが求められます【文献2】。炎症期では痛みが主症状であり安静と炎症の鎮静化が優先されますが、拘縮期では可動域制限が主症状となり運動療法が中心となります【文献2】。回復期には積極的なリハビリテーションにより機能回復を促進します。このように病期に応じた適切な治療を選択することで、回復期間を短縮し、後遺症を最小限に抑えることが可能となります【文献2】。
病期の判断を誤ると、治療効果が得られないばかりか症状を悪化させる危険性があります【文献3】。特に炎症期に無理な運動療法を行うと炎症が増悪し、拘縮が強くなる可能性があります。逆に、拘縮期以降に過度な安静を続けると関節の硬さが進行し、回復が遅れます。したがって、医療専門職による適切な病期評価を受け、その時期に最も適した治療を実施することが重要です。本セクションでは、各病期の特徴と推奨される治療アプローチについて、医学的根拠に基づいて詳しく解説します。
五十肩の病期は明確な境界があるわけではなく、徐々に移行していくことが一般的です。炎症期から拘縮期への移行期では、痛みと可動域制限が同時に存在し、治療方針の判断が難しくなります。この時期には、痛みの程度と可動域の状態を総合的に評価し、炎症のコントロールと可動域の維持のバランスを取ることが求められます。また、個人差が大きいため、画一的な治療プロトコルではなく、患者一人ひとりの症状に応じた個別的なアプローチが必要です。このような複雑な判断には医療専門職の関与が不可欠であり、自己判断での治療には限界があることを理解しておくべきです。
■1. 炎症期(急性期)の特徴と治療方針
炎症期は五十肩の発症初期から数週間から数か月続く時期であり、肩関節周囲の組織に強い炎症が生じています。この時期の最も顕著な症状は激しい痛みであり、安静時痛や夜間痛が特徴的です。痛みのために日常生活動作が著しく制限され、着衣動作、洗髪、歯磨きなどの基本的な動作さえ困難になります。夜間に痛みで目が覚め、睡眠障害に悩まされる患者も多く見られます。この時期の痛みは、肩関節包や滑液包などの組織の炎症、および関節内圧の上昇によって引き起こされます【文献3】。
炎症期における治療の最優先課題は、炎症を速やかに鎮静化させ痛みをコントロールすることです。この時期には、患部の安静を保ち炎症を助長する刺激を避けることが絶対的に重要です【文献12】。「痛くても動かさないと固まる」という俗説は医学的に誤りであり、炎症期に無理に動かすことは炎症を悪化させ、回復を遅らせる結果となります。安静とは完全に動かさないことではなく、痛みが誘発される動作を避け、日常生活において肩への負担を最小限にすることを意味します。必要に応じて三角巾やスリングを使用し、肩関節を安静肢位に保つことが推奨されます。
[1] 炎症期における具体的な症状
炎症期には以下のような特徴的な症状が現れます。これらの症状が複数該当する場合、現在の病期が炎症期である可能性が高く、安静と炎症のコントロールを優先すべきです。症状の強さには個人差がありますが、いずれも日常生活に大きな支障をきたす程度の痛みが特徴です。
- 安静時にも持続的な痛みがあり何もしなくてもズキズキと痛みます。
- 夜間痛により睡眠が妨げられ寝返りで痛みが増悪します。
- 肩を動かすと激痛が走り日常生活動作が著しく制限されます。
- 着衣動作や洗髪など基本的な動作が困難になります。
- 肩関節周囲に熱感や腫脹を伴うことがあります。
- 痛みのために首や肩甲骨周辺の筋肉も緊張し二次的な痛みが生じます。
これらの症状が強く現れている時期には、運動療法を開始すべきではありません。まず医療機関を受診し、消炎鎮痛剤の内服や湿布の使用、必要に応じてステロイド注射やヒアルロン酸注射などの薬物療法により、炎症をコントロールすることが優先されます。痛みが軽減し、日常生活動作が少し楽になってきた段階で、初めて軽い運動療法の導入を検討します。
[2] 炎症期における推奨される治療法
炎症期の治療は、炎症の鎮静化と痛みのコントロールに焦点を当てます。薬物療法が治療の中心となり、運動療法は最小限にとどめるか、完全に控えることが推奨されます。以下に示す治療法を組み合わせることで、炎症を速やかに抑え、拘縮期への円滑な移行を促すことができます。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服により炎症と痛みを抑制します。
- 湿布や外用剤を使用して局所的な炎症をコントロールします。
- 症状が重い場合にはステロイド注射により強力に炎症を抑えます。
- ヒアルロン酸注射により関節の潤滑性を改善し痛みを軽減します。
- 三角巾やスリングを使用して肩を安静肢位に保ちます。
- 夜間就寝時にはクッションを使用して肩を支える姿勢をとります。
- 痛みが誘発される動作を避け日常生活での肩への負担を減らします。
炎症期における理学療法は、肩関節に直接的な負荷をかけない範囲で、肩甲胸郭関節の可動性を維持することに限定されます。具体的には、リラクゼーション技法や軽い肩甲骨の運動などが含まれますが、これらも痛みが強く誘発される場合には実施しません。患者自身が痛みについてよく理解し、炎症を助長する動作を避けることが最も重要です。医療専門職は患者に対して病期や病態について丁寧に説明し、適切な自己管理を促す役割を担います。
■2. 拘縮期(凍結期)の特徴と治療方針
拘縮期は炎症が徐々に落ち着き、痛みが軽減してくる一方で、肩関節の可動域制限が顕著になる時期です。この時期の主症状は肩関節の硬さであり、特に内旋と外旋の制限が強く現れます。関節包が肥厚し癒着することで、肩関節が物理的に動かなくなる状態となります。痛みは炎症期ほど強くはありませんが、可動域の限界を超えて動かそうとすると痛みが生じます。日常生活においては、結髪動作(髪を結ぶ動作)や結帯動作(帯を結ぶ動作)が困難となり、衣服の着脱や背中のファスナーを閉める動作などに支障をきたします。
拘縮期における治療の目的は、関節の硬さが進行するのを最小限に食い止めつつ、肩甲胸郭関節周囲の筋の柔軟性を回復させることです。この時期は組織の線維化や癒着が進行する過程にあるため、物理的刺激を加えすぎないように配慮しながら、関節の可動域が減少するのを防ぐことが重要です。運動療法は痛みのない範囲でゆっくりと行う必要があり、リラクゼーションやストレッチングが中心となります。ためしてガッテンで紹介された肩甲骨を動かすストレッチは、この拘縮期において特に有効な方法です。
[1] 拘縮期における具体的な症状
拘縮期には痛みが主体であった炎症期とは異なり、可動域制限が主症状となります。以下のような症状が該当する場合、拘縮期に入っている可能性が高く、適切な運動療法を開始すべき時期です。ただし、運動は痛みが強く誘発されない範囲で慎重に行う必要があります。
- 安静時痛や夜間痛は軽減しているが可動域の制限が顕著です。
- 肩を動かせる範囲が著しく狭くなり日常生活動作に支障があります。
- 特に内旋と外旋の制限が強く腕を後ろに回す動作が困難です。
- 可動域の限界を超えて動かそうとすると痛みが生じます。
- 結髪動作や結帯動作ができず衣服の着脱が不自由です。
- 肩関節が固まった感覚がありスムーズに動かせません。
拘縮期の判断には、医師や理学療法士による関節可動域の測定が有用です。他動的に肩を動かしたときの可動域を健側と比較し、明らかな制限がある場合には拘縮期と判断されます。この時期には、適切な運動療法を導入することで、拘縮の進行を抑え、回復期への移行を促進することができます。
[2] 拘縮期における推奨される治療法
拘縮期の治療は、関節可動域の維持と改善を目的とした運動療法が中心となります。ただし、過度な刺激は組織の線維化を促進する可能性があるため、痛みのない範囲でゆっくりと行うことが原則です。以下に示す治療法を段階的に導入することで、安全かつ効果的に可動域の改善を図ることができます。
- リラクゼーション技法により筋肉の緊張を和らげます。
- 肩甲骨周辺のストレッチングにより肩甲胸郭関節の可動性を高めます。
- 振り子運動など肩関節への負荷が少ない運動から開始します。
- 痛みのない範囲で他動的および自動介助的な関節可動域訓練を行います。
- 温熱療法により筋肉の柔軟性を高めてから運動を実施します。
- ホームエクササイズを毎日継続することで治療効果を高めます。
- 必要に応じてヒアルロン酸注射により関節の潤滑性を改善します。
拘縮期における運動療法では、肩関節そのものを無理に動かすのではなく、肩甲骨の可動性を高めることが重要です。肩甲骨周辺の筋肉の柔軟性が改善されることで、肩関節への負担が軽減され、結果として肩関節の可動域も改善していきます。ためしてガッテンで紹介されたひじまる体操やバスタオルを使った体操は、この拘縮期における運動療法として適しています。ただし、これらの運動も痛みが強く誘発される場合には無理に継続せず、理学療法士の指導のもとで適切な強度と頻度を設定することが重要です。
■3. 回復期(解凍期)の特徴と治療方針
回復期は拘縮が徐々に改善し、肩関節の可動域が少しずつ回復していく時期です。痛みはさらに軽減し、日常生活動作が徐々に行いやすくなります。この時期には、積極的な運動療法により機能回復を促進することが可能となります。ただし、回復期に入ったからといって急激に強い運動を行うことは避けるべきであり、段階的に運動の強度と範囲を広げていくことが重要です。
回復期における治療の目的は、肩関節の可動域を正常範囲まで回復させ、筋力を強化し、日常生活動作やスポーツ活動への復帰を目指すことです。この時期には、ストレッチングに加えて筋力トレーニングを導入し、肩関節の安定性を高めることが推奨されます。また、日常生活の中で積極的に肩を使う機会を増やし、機能的な動作訓練を行うことで、実生活での肩の使い方を改善していきます。
[1] 回復期における具体的な症状
回復期には痛みと可動域制限が徐々に改善し、日常生活動作が楽になってきます。以下のような変化が見られる場合、回復期に入っている可能性が高く、より積極的な運動療法を進めることができます。ただし、無理な運動は炎症の再燃を招く可能性があるため、常に体の反応を観察しながら進めることが重要です。
- 痛みがほとんどなくなり日常生活動作が楽になります。
- 肩の可動域が徐々に広がり動かしやすくなってきます。
- 結髪動作や結帯動作が少しずつできるようになります。
- 夜間痛がなくなり睡眠の質が改善します。
- 肩関節の硬さが和らぎスムーズに動かせる感覚が戻ってきます。
回復期の期間は個人差が大きく、数か月から1年以上かかることもあります。焦らずに段階的に運動を進めることが、完全な機能回復につながります。また、回復期であっても定期的に医療機関を受診し、可動域や筋力の評価を受けることで、適切な運動プログラムを継続することができます。
[2] 回復期における推奨される治療法
回復期の治療は、積極的な運動療法により機能の完全回復を目指します。ストレッチングに加えて筋力トレーニングを導入し、肩関節の安定性と機能性を高めることが目標です。以下に示す治療法を段階的に進めることで、日常生活やスポーツ活動への完全復帰を実現できます。
- 積極的なストレッチングにより可動域を正常範囲まで回復させます。
- インナーマッスル(腱板筋群)の筋力トレーニングを行います。
- 肩甲骨周辺の筋力を強化し肩関節の安定性を高めます。
- 日常生活動作の中で肩を使う機会を増やし機能的な動作訓練を行います。
- スポーツ活動や趣味活動に段階的に復帰します。
- 姿勢の改善により肩への負担を減らし再発を予防します。
回復期における運動療法では、肩関節の可動域訓練だけでなく、筋力の回復も重要な要素です。特に腱板筋群(インナーマッスル)の筋力強化は、肩関節の安定性を高め、再発を予防するために不可欠です。理学療法士の指導のもとで、個別的な筋力トレーニングプログラムを実施することが推奨されます。また、回復期においても無理な運動は避け、常に体の反応を観察しながら段階的に進めることが、完全な機能回復への近道となります。
五十肩治療における医療機関の役割と専門的治療法
五十肩の治療において、自宅での運動療法は重要な役割を果たしますが、医療機関での専門的な診断と治療もまた不可欠です。五十肩と類似した症状を呈する疾患は多岐にわたり、腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、インピンジメント症候群、変形性肩関節症などの鑑別診断には、医師による問診、身体診察、画像検査が必要です【文献4】【文献12】。これらの疾患は治療法が五十肩とは異なるため、正確な診断に基づいた適切な治療を受けることが、症状の早期改善と機能回復につながります。特に腱板断裂の場合、保存的治療では改善が困難であり、手術が必要となることもあるため、早期の専門医受診が推奨されます。
医療機関では、薬物療法、注射療法、理学療法などの多様な治療法が提供されます。薬物療法には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服や外用剤の使用があり、炎症と痛みを効果的にコントロールします。注射療法では、ステロイド注射やヒアルロン酸注射により、関節内の炎症を直接的に抑制し、関節の潤滑性を改善します【文献6】。理学療法では、理学療法士が患者一人ひとりの病期と症状に応じた個別的な運動プログラムを作成し、関節可動域の改善と筋力強化を図ります。これらの治療法を組み合わせることで、自宅での運動療法だけでは得られない高い治療効果が期待できます。
五十肩の治療は長期間を要することが多く、患者のモチベーションを維持することも重要な課題です。医療機関での定期的な受診により、症状の改善度を客観的に評価し、治療方針を適宜調整することができます。また、医師や理学療法士から適切なフィードバックを受けることで、患者は治療の進捗を実感し、継続的に運動療法に取り組むモチベーションを維持できます。したがって、五十肩の治療においては、自宅での自己管理と医療機関での専門的治療を両輪として進めることが、最良の治療成績につながるのです。
■1. 医療機関における診断プロセス
五十肩の診断は、主に問診、身体診察、画像検査により行われます。問診では、症状の発症時期、痛みの性質、可動域制限の程度、夜間痛の有無、日常生活への影響などが詳しく聴取されます。また、外傷の既往、基礎疾患(糖尿病や甲状腺疾患など)の有無、職業や趣味における肩の使用状況なども重要な情報となります【文献8】【文献9】【文献10】。身体診察では、肩関節の可動域を他動的および自動的に測定し、健側と比較して制限の程度を評価します。特に、五十肩では全方向の可動域制限が特徴的であり、特定の方向のみに制限がある場合には他の疾患の可能性が考慮されます。
画像検査では、まずX線検査が実施されます。五十肩そのものではX線に特徴的な所見は現れませんが、骨折、脱臼、変形性関節症、石灰沈着などの他の疾患を除外するために重要です。X線検査で異常が見つからず、臨床症状から五十肩が疑われる場合には、さらに詳細な評価のためにMRI検査や超音波検査が実施されることがあります。MRI検査では、関節包の肥厚、腱板の状態、滑液包の炎症などを詳細に評価でき、腱板断裂などの五十肩と鑑別すべき疾患の診断に有用です。このような段階的な診断プロセスにより、正確な病態把握と適切な治療方針の決定が可能となります。
[1] 問診と身体診察による評価
問診では、患者の訴える症状を詳細に聴取し、五十肩の典型的な症状パターンに合致するかを評価します。五十肩の典型的な症状には、明らかな外傷歴がないこと、徐々に痛みが増悪すること、安静時痛や夜間痛があること、全方向の可動域制限があることなどが含まれます【文献4】。これらの症状パターンから五十肩が疑われる場合、さらに身体診察により客観的な評価を行います。
- 肩関節の自動可動域と他動可動域を測定し健側と比較します。
- 屈曲・外転・内旋・外旋のすべての方向で可動域制限があるかを確認します。
- 可動域の終末域で痛みが誘発されるかを評価します。
- 肩関節周囲の圧痛点を確認し炎症の部位を特定します。
- 筋力テストにより腱板筋群の筋力低下や断裂の可能性を評価します。
- インピンジメントテストなどの特殊なテストにより他の疾患を鑑別します。
身体診察により得られた情報は、五十肩の診断だけでなく、病期の判定や治療方針の決定にも重要な役割を果たします。例えば、他動可動域も著しく制限されている場合には拘縮が進行していると判断され、積極的な運動療法の導入が検討されます。一方、自動可動域は制限されているが他動可動域は比較的保たれている場合には、筋力低下や疼痛による制限が主であると判断され、筋力強化や疼痛管理が優先されます。
[2] 画像検査による鑑別診断
画像検査は五十肩の診断において、他の疾患を除外するために不可欠です。X線検査は最初に実施される基本的な検査であり、骨の形態異常や石灰沈着の有無を評価します。五十肩では通常X線に明らかな異常は見られませんが、拘縮が長期間続いた症例では骨萎縮を認めることがあります【文献4】。X線検査で異常が見つかった場合には、その所見に応じて適切な治療が選択されます。
- X線検査により骨折・脱臼・変形性関節症・石灰沈着などを除外します。
- MRI検査により関節包の肥厚・腱板断裂・滑液包炎などを評価します。
- 超音波検査により腱板の状態や滑液包の炎症をリアルタイムで観察します。
- 関節造影検査により関節包の容量減少を確認することがあります。
MRI検査は五十肩の診断においては必須ではありませんが、症状が非典型的である場合や、保存的治療で改善が見られない場合には実施が検討されます。MRIでは、関節包の肥厚、烏口上腕靭帯の肥厚、腋窩陥凹の縮小などが五十肩に特徴的な所見として観察されます。また、腱板断裂の有無を評価することで、五十肩と腱板断裂を鑑別し、適切な治療方針を決定することができます。超音波検査は、MRIに比べて簡便でコストも低く、動的な評価が可能であるため、近年注目されている検査法です。
■2. 薬物療法と注射療法
五十肩の薬物療法は、炎症と痛みをコントロールすることを主な目的とします。特に炎症期においては、薬物療法が治療の中心となり、炎症を速やかに鎮静化させることで、拘縮の進行を抑え、回復期への円滑な移行を促します。薬物療法には内服薬と外用剤があり、症状の程度に応じて適切に選択されます。内服薬としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が広く使用され、炎症を抑制するとともに鎮痛効果を発揮します。外用剤には湿布や塗り薬があり、局所的に作用することで全身への副作用を軽減できる利点があります。
注射療法は、薬物療法の中でも特に強力な効果を持つ治療法です。関節内に直接薬剤を注入することで、高濃度の薬剤を患部に届けることができ、内服薬や外用剤では得られない強い抗炎症効果が期待できます。注射療法にはステロイド注射とヒアルロン酸注射があり、症状や病期に応じて使い分けられます【文献6】。ステロイド注射は強力な抗炎症作用を持ち、炎症期の激しい痛みを速やかに軽減する効果があります。ヒアルロン酸注射は関節の潤滑性を改善し、可動域の改善を促進する効果があります。これらの注射療法は、運動療法と組み合わせることで、より高い治療効果が得られます。
[1] 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用
NSAIDsは五十肩の薬物療法において最も広く使用される薬剤です。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害することで、炎症を引き起こすプロスタグランジンの産生を抑制し、抗炎症作用と鎮痛作用を発揮します。内服薬としてはロキソプロフェン、セレコキシブ、ジクロフェナクなどが使用され、外用剤としてはロキソプロフェン含有湿布やジクロフェナク含有湿布などが使用されます。
- 内服NSAIDsは炎症と痛みを全身的に抑制します。
- 外用NSAIDsは局所的に作用し胃腸障害などの副作用が少ない利点があります。
- COX-2選択的阻害薬は胃腸障害のリスクが低い新しいタイプのNSAIDsです。
- 長期間の使用は胃腸障害や腎機能障害のリスクがあるため注意が必要です。
- 高齢者や基礎疾患のある患者では慎重に使用します。
NSAIDsを使用する際には、副作用に注意することが重要です。特に胃腸障害は頻度の高い副作用であり、胃痛、吐き気、胃潰瘍などが生じることがあります。胃腸障害のリスクが高い患者には、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃薬を併用することで、副作用を予防します。また、長期間の使用により腎機能障害や心血管系への影響が生じる可能性があるため、定期的な検査により安全性を確認しながら使用します。痛みが改善してきたら、必要最小限の用量に減らすか、使用を中止することが推奨されます。
[2] ステロイド注射とヒアルロン酸注射
ステロイド注射は五十肩の炎症期において、激しい痛みを速やかに軽減する効果的な治療法です。ステロイドは強力な抗炎症作用を持ち、関節内に注入することで炎症を直接的に抑制します。トリアムシノロンやベタメタゾンなどのステロイド薬が使用され、通常は局所麻酔薬と混合して注入されます。ステロイド注射により、数日以内に痛みが劇的に改善することが多く、夜間痛による睡眠障害も軽減されます【文献6】。
- ステロイド注射は強力な抗炎症作用により激しい痛みを速やかに軽減します。
- 炎症期の夜間痛や安静時痛に対して特に効果的です。
- 効果は数週間から数か月持続しますが個人差があります。
- 頻繁な使用は腱の脆弱化や感染のリスクがあるため通常は年に2~3回までとします。
- ヒアルロン酸注射は関節の潤滑性を改善し可動域の改善を促進します。
- ヒアルロン酸注射は拘縮期から回復期にかけて特に有効です。
ヒアルロン酸注射は、関節液の主成分であるヒアルロン酸を関節内に補充することで、関節の潤滑性を改善し、可動域の改善を促進します。ヒアルロン酸はステロイドに比べて抗炎症作用は弱いですが、副作用が少なく、繰り返し使用することが可能です。通常は週に1回、5回を1クールとして実施されます。ヒアルロン酸注射は拘縮期から回復期にかけて、運動療法と組み合わせることで、より高い効果が得られます。注射後に一時的に痛みが増悪することがありますが、通常は数日以内に軽減します。
■3. 理学療法による専門的リハビリテーション
理学療法は五十肩の治療において中心的な役割を果たします。理学療法士は運動療法の専門家であり、患者一人ひとりの病期、症状、生活背景に応じた個別的な運動プログラムを作成します【文献11】。医療機関での理学療法では、自宅で実施することが難しい専門的な手技や、治療機器を用いた物理療法が提供されます。また、理学療法士は患者に対して正しい運動方法を指導し、自宅でのホームエクササイズを継続できるようサポートします。定期的な理学療法により、症状の改善度を客観的に評価し、運動プログラムを適宜調整することで、効率的な機能回復が実現します。
理学療法では、関節可動域訓練、筋力強化訓練、姿勢指導、日常生活動作訓練など、多様なアプローチが用いられます。関節可動域訓練では、理学療法士が他動的に関節を動かすことで、患者自身では動かせない範囲まで可動域を広げることができます。この際、関節モビライゼーションと呼ばれる特殊な手技を用いることで、関節包の硬さを改善し、痛みを最小限に抑えながら可動域を拡大します。筋力強化訓練では、患者の筋力レベルに応じた適切な負荷設定により、効率的に筋力を向上させます。これらの専門的なアプローチは、自宅での運動療法だけでは得られない高い治療効果をもたらします【文献5】。
[1] 関節モビライゼーションと徒手療法
関節モビライゼーションは、理学療法士が関節に対して特定の方向に緩徐な力を加えることで、関節包や靭帯の柔軟性を改善する手技です。五十肩では関節包が肥厚し癒着することで可動域制限が生じるため、関節モビライゼーションにより関節包の伸張性を高めることが重要です。この手技は痛みを最小限に抑えながら実施できるため、拘縮期の患者に対して安全かつ効果的です。
- 関節モビライゼーションにより関節包の柔軟性を改善し可動域を拡大します。
- グレードI~IVの段階的な力加減により症状に応じた適切な刺激を与えます。
- 痛みのない範囲で実施するため患者の負担が少ない治療法です。
- 軟部組織モビライゼーションにより筋膜や筋肉の柔軟性を改善します。
- ストレッチングと組み合わせることでより高い効果が得られます。
関節モビライゼーションは、関節に加える力の強さによってグレードI~IVに分類されます。グレードIとIIは痛みの軽減を目的とした軽い刺激であり、グレードIIIとIVは可動域の改善を目的としたやや強い刺激です。炎症期にはグレードIやIIの軽い刺激により痛みを軽減し、拘縮期以降にはグレードIIIやIVの刺激により可動域を積極的に改善します。理学療法士は患者の症状や反応を観察しながら、適切なグレードを選択して実施します。
[2] 物理療法と温熱療法
物理療法は、電気刺激、超音波、温熱などの物理的なエネルギーを用いて治療効果を得る方法です。五十肩の治療では、温熱療法が広く用いられており、組織の血流を増加させ、筋肉の柔軟性を高める効果があります。温熱療法にはホットパック、極超短波、超音波などの方法があり、症状や治療目的に応じて選択されます。温熱療法により組織が温まった状態で運動療法を実施することで、運動の効果が高まります。
- ホットパックにより表層の筋肉を温め血流を改善します。
- 極超短波(マイクロウェーブ)により深部組織を温め関節包の柔軟性を高めます。
- 超音波療法により深部組織に機械的刺激を与え組織の修復を促進します。
- 経皮的電気神経刺激(TENS)により痛みを軽減します。
- 温熱療法後に運動療法を実施することで相乗効果が得られます。
温熱療法は炎症期には使用を控え、拘縮期以降に導入されます。炎症期に温熱刺激を加えると炎症が悪化する可能性があるため、この時期には冷却療法(アイシング)が適している場合があります。拘縮期から回復期にかけては、温熱療法により筋肉の柔軟性が高まり、運動療法の効果が増強されます。物理療法は単独で使用されるのではなく、運動療法と組み合わせることで、より高い治療効果が得られることが多くの研究で示されています。
■4. 手術療法が検討される場合
五十肩の大多数は保存的治療により改善しますが、一部の症例では手術療法が検討されることがあります。手術適応となるのは、6か月から1年以上の適切な保存的治療を行っても症状の改善が見られない場合、または日常生活に著しい支障をきたしており早期の機能回復が必要な場合です。手術療法には関節鏡下授動術や徒手的授動術があり、癒着した関節包を解離することで可動域を改善します。手術後は積極的なリハビリテーションにより、獲得した可動域を維持し、筋力を回復させることが重要です。
手術療法の決定には、患者の年齢、職業、生活スタイル、症状の重症度などが総合的に考慮されます。若年者で職業上早期の機能回復が必要な場合や、拘縮が非常に強く日常生活動作が著しく制限されている場合には、手術療法が積極的に検討されます。一方、高齢者や基礎疾患により手術リスクが高い患者では、保存的治療を継続することが選択されます。手術療法は最終的な選択肢であり、まずは適切な保存的治療を十分な期間実施することが原則です。
[1] 関節鏡下授動術
関節鏡下授動術は、関節鏡というカメラを関節内に挿入し、モニターで観察しながら癒着した関節包を切離する手術です。小さな切開で実施できるため、侵襲が少なく、術後の回復が早い利点があります。手術では、肥厚した関節包や烏口上腕靭帯を切離し、関節の可動域を拡大します。手術時間は通常1~2時間程度であり、多くの場合は日帰りまたは数日の入院で実施されます。
- 関節鏡を用いて関節内を直接観察しながら癒着を解離します。
- 小さな切開で実施できるため侵襲が少なく術後の痛みも軽度です。
- 術後早期からリハビリテーションを開始できます。
- 手術により獲得した可動域を維持するため積極的な運動療法が必要です。
関節鏡下授動術後は、麻酔が覚めた直後から関節可動域訓練を開始します。手術により獲得した可動域は、放置すると再び癒着が生じて失われる可能性があるため、術後の積極的なリハビリテーションが極めて重要です。通常、術後3~6か月のリハビリテーション期間を経て、日常生活やスポーツ活動への完全復帰を目指します。手術療法は保存的治療で改善しない症例に対する有効な選択肢ですが、術後のリハビリテーションへの患者の協力が治療成績を左右する重要な要素となります。
まとめ
五十肩は中高年に多く発症する肩関節の疾患であり、痛みと可動域制限により日常生活に大きな支障をきたします。NHKの健康番組「ためしてガッテン」で紹介された五十肩の治し方は、肩甲骨を動かすストレッチを中心とした自宅で実践できる方法であり、多くの視聴者から支持を得ました。番組で紹介されたひじまる体操やバスタオルを使った体操、壁を使ったストレッチなどは、肩関節に直接的な負荷をかけずに肩甲骨周辺の筋肉の柔軟性を高める方法であり、理学療法の観点からも有効性が認められています。これらの方法は拘縮期から回復期にかけて特に効果的であり、適切に実施すれば肩関節の機能改善に寄与します。しかし、番組で紹介された方法がすべての病期に適しているわけではなく、特に炎症期の急性期には安静が優先されるべきであり、無理な運動は症状を悪化させる危険性があることを理解しておく必要があります。
五十肩の治療を成功させるためには、病期の正確な理解が不可欠です。五十肩は炎症期、拘縮期、回復期という3つの明確な病期を経て回復に至ります。炎症期では肩関節周囲の組織に強い炎症が生じており、激しい痛みが主症状となります。この時期には安静を保ち、消炎鎮痛剤の内服やステロイド注射などの薬物療法により炎症を速やかに鎮静化させることが最優先です。拘縮期では炎症が落ち着く一方で関節包の肥厚と癒着により可動域制限が顕著になります。この時期には痛みのない範囲で肩甲骨を動かすストレッチや関節可動域訓練を実施し、拘縮の進行を抑えることが重要です。回復期には可動域が徐々に改善し、積極的な運動療法により機能の完全回復を目指します。病期に応じた適切な治療を選択することで、回復期間を短縮し、後遺症を最小限に抑えることが可能となります。
自宅での運動療法は五十肩の治療において重要な役割を果たしますが、その実施にあたっては重要な原則を守る必要があります。第一に、痛みのない範囲で運動を行うことが絶対的な条件です。痛みを我慢して無理に動かすことは炎症を悪化させ、回復を遅らせる結果となります。第二に、呼吸を止めずにリラックスして運動を行うことで、筋肉の緊張を和らげながら効果的にストレッチを実施できます。第三に、毎日継続して実施することが重要であり、1回の運動時間は短くても継続することで徐々に効果が現れます。また、体が温まっている入浴後に運動を実施することで、筋肉の柔軟性が高まり運動の効果が増強されます。これらの原則を守りながら、肩甲骨の上下運動、肩甲骨の内外運動、振り子運動、壁歩き運動などを段階的に実施することで、安全かつ効果的に五十肩の症状を改善することができます。
医療機関での専門的な治療は、自宅での運動療法と両輪をなす重要な要素です。五十肩と類似した症状を呈する疾患は多岐にわたり、腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、インピンジメント症候群などの鑑別診断には医師による問診、身体診察、画像検査が必要です。正確な診断に基づいた適切な治療を受けることが、症状の早期改善につながります。医療機関では、薬物療法、注射療法、理学療法などの多様な治療法が提供されます。非ステロイド性抗炎症薬による薬物療法は炎症と痛みを効果的にコントロールし、ステロイド注射やヒアルロン酸注射は関節内の炎症を直接的に抑制し関節の潤滑性を改善します。理学療法では理学療法士が患者一人ひとりの病期と症状に応じた個別的な運動プログラムを作成し、関節モビライゼーションなどの専門的な手技により可動域の改善を図ります。これらの専門的治療と自宅での運動療法を組み合わせることで、最良の治療成績が得られます。
五十肩の予防と再発防止には、日常生活における姿勢や動作の改善が重要です。長時間のデスクワークやスマートフォンの使用により不良姿勢が続くと、肩関節への負担が増加し五十肩のリスクが高まります。正しい姿勢を意識し、定期的に姿勢を変え、肩や首のストレッチを行うことで肩への負担を軽減できます。また、五十肩になりやすい人の特徴として、40歳代から60歳代の年齢層、糖尿病や甲状腺疾患などの基礎疾患を持つ人、長時間同じ姿勢で作業をする職業の人などが挙げられます。これらのリスク因子を持つ人は、日常生活の中で肩への負担を減らす工夫を心がけ、定期的に肩のストレッチを行うことで五十肩の発症を予防することができます。また、五十肩を一度経験した人は反対側の肩にも発症するリスクが高いため、回復後も継続的に運動習慣を維持することが再発予防につながります。
ためしてガッテンで紹介された五十肩の治し方は、医学的根拠に基づいた有効な方法ですが、その効果を最大限に引き出すためには適切な実施方法と医療専門職との連携が不可欠です。番組の内容を参考にしつつ、まず医療機関を受診して正確な診断を受け、自身の病期と症状に適した運動方法について指導を受けることが推奨されます。炎症期には安静と薬物療法を優先し、拘縮期以降に段階的に運動療法を導入することで、安全かつ効果的に症状を改善できます。自宅での運動療法は毎日継続することが重要であり、痛みのない範囲で無理なく実施することが成功の鍵となります。五十肩の回復には数か月から1年以上の期間を要することが多いですが、適切な治療とリハビリテーションにより、ほとんどの症例で機能の回復が期待できます。焦らずに段階的に治療を進め、医療専門職のサポートを受けながら継続的に取り組むことで、五十肩からの完全な回復を実現することができるのです。
専門用語一覧
- 肩関節周囲炎:肩関節を構成する組織に炎症が生じ、痛みと可動域制限をきたす疾患の総称です。明らかな外傷や感染、基礎疾患による肩関節疾患を除外した上で診断され、一般的に五十肩や四十肩と呼ばれます。40歳代から60歳代に好発し、肩関節包や滑液包などの組織の炎症により発症します。
- 腱板(けんばん):肩関節を安定させるために重要な役割を果たす4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の腱の総称です。上腕骨頭を肩甲骨の関節窩に押し付けて安定させるとともに、肩関節の回旋運動を担います。加齢による退行性変化により損傷や断裂を起こしやすく、五十肩と鑑別が必要な疾患の原因となります。
- 関節包:関節を包む袋状の組織であり、関節の安定性を保つ役割を果たします。五十肩では関節包が肥厚し癒着することで、肩関節の可動域が制限されます。関節包の内側は滑膜で覆われており、関節液を分泌して関節の潤滑性を保ちます。
- 滑液包(かつえきほう):関節周囲に存在する袋状の組織であり、関節運動時の摩擦を軽減する役割を果たします。肩関節には肩峰下滑液包をはじめ複数の滑液包が存在し、これらに炎症が生じると痛みや運動制限の原因となります。五十肩では滑液包炎を伴うことが多く見られます。
- 肩甲胸郭関節:肩甲骨と胸郭の間で形成される機能的な関節です。解剖学的な関節ではありませんが、肩甲骨が胸郭上を滑るように動くことで肩関節の可動域を補完します。この部分の可動性が低下すると肩関節に過度な負担がかかり、五十肩のリスクが高まります。
- 肩甲上腕リズム:肩関節の挙上運動において、肩甲骨と上腕骨が協調して動く運動パターンを指します。正常では腕を180度挙上する際、肩関節で120度、肩甲骨の回旋で60度の動きが生じ、両者が2対1の割合で協調します。五十肩ではこのリズムが乱れることが多く見られます。
- 拘縮:関節や軟部組織が硬くなり、関節の動きが制限された状態を指します。五十肩では関節包の線維化と癒着により拘縮が生じます。拘縮期は五十肩の病期の一つであり、痛みは軽減するものの可動域制限が主症状となります。
- 非ステロイド性抗炎症薬:炎症を抑制し痛みを軽減する薬剤の総称であり、NSAIDsと略されます。シクロオキシゲナーゼという酵素を阻害することでプロスタグランジンの産生を抑え、抗炎症作用と鎮痛作用を発揮します。五十肩の薬物療法において広く使用されます。
- ステロイド注射:副腎皮質ホルモンを関節内に注入する治療法です。強力な抗炎症作用により五十肩の炎症期における激しい痛みを速やかに軽減します。トリアムシノロンやベタメタゾンなどが使用され、通常は局所麻酔薬と混合して注入されます。
- ヒアルロン酸注射:関節液の主成分であるヒアルロン酸を関節内に注入する治療法です。関節の潤滑性を改善し、可動域の改善を促進します。ステロイドに比べて副作用が少なく、拘縮期から回復期にかけて運動療法と組み合わせて使用されます。
- 関節モビライゼーション:理学療法士が関節に対して特定の方向に緩徐な力を加えることで、関節包や靭帯の柔軟性を改善する手技です。痛みを最小限に抑えながら可動域を拡大することができ、五十肩の拘縮期に有効な治療法です。
- 振り子運動:コッドマン体操とも呼ばれ、重力を利用して肩関節を牽引しながら動かす運動です。肩関節への負担が少ないため、五十肩の拘縮期早期から安全に実施できます。体を前傾させて患側の腕を垂らし、体を揺らすことで腕を振り子のように動かします。
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執筆者
■博士(工学)中濵数理
- 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
- 沖縄再生医療センター:センター長
- 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
- 日本再生医療学会:正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
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