【パーキンソン病の概論】
症状・原因・最新治療法・薬と効果的なリハビリ方法
パーキンソン病とは|本稿の目的
「歩くスピードが遅くなった」「字が小さくなり、うまく書けない」「家族に手の震えを指摘された」——こうした変化を感じたことはありませんか? もしかすると、それはパーキンソン病の初期症状かもしれません。
パーキンソン病は、日本国内で約20万人以上の患者がいると推定され、65歳以上の約1%が発症する神経変性疾患です。加齢とともに発症リスクが高まり、高齢化が進む現代において決して他人事ではありません。
この病気の主な原因は、脳内のドーパミン神経細胞の減少です。ドーパミンは体のスムーズな動きを調整する役割を果たしており、その不足により振戦(手足の震え)、筋固縮(筋肉のこわばり)、動作の遅れ(無動)、姿勢の不安定さ(姿勢反射障害) などの運動症状が現れます。さらに、便秘や低血圧、抑うつ、認知機能低下などの非運動症状も進行とともに見られるようになります。
「パーキンソン病は進行性だから、いずれ何もできなくなるのでは…?」 と不安に思う方も多いでしょう。しかし、現在では レボドパ(L-ドパ)を中心とした薬物療法、脳深部刺激療法、集束超音波治療、リハビリテーションなど、多様な治療法が進化しており、適切な管理を行うことで 症状の進行を遅らせ、生活の質(QOL:Quality of life)を向上させることが可能です。
本稿では、パーキンソン病の初期症状、原因、薬物療法を含む最新治療法、効果的なリハビリ方法について詳しく解説します。患者さんやご家族が より良い生活を送るための実践的な情報をお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。
「歳をとると動きが鈍くなるもの」と考えていたら、それはパーキンソン病のサインかもしれません。早期発見・早期治療が鍵となるこの疾患について、正しい知識を身につけ、前向きに対策を講じるための第一歩を踏み出しましょう。
パーキンソン病の主な症状
パーキンソン病の症状は、大きく 「運動症状」 と 「非運動症状」 に分類されます。運動症状は、脳の黒質(こくしつ)にある神経細胞の変性によってドーパミンの分泌が減少することが原因で、動作や筋肉の制御が困難になります。一方、非運動症状は自律神経の異常や脳の他の部位の影響によって生じ、認知機能や精神面、内臓機能にまで影響を及ぼします。
適切な治療とリハビリテーションを行うことで、これらの症状を軽減し、生活の質QOLを向上させることが可能です。以下、パーキンソン病の代表的な症状について詳しく解説します。
■1. 運動症状(体の動きに関する症状)
運動症状は パーキンソン病の特徴的な症状であり、日常生活に大きな影響を与えます。特に 振戦(しんせん)、筋固縮(きんこしゅく)、無動・寡動(むどう・かどう)、姿勢反射障害は、診断基準としても重要視される主要な症状です。
[1] 振戦(しんせん) – 手足の震え
振戦とは、安静時に手や指が震える症状です。これは パーキンソン病の初期症状 として最もよく見られるものであり、患者の約70%が経験するとされています。脳のドーパミン不足により 不適切な運動指令が筋肉に伝わることで発生すると考えられています。
1. 振戦の進行度
- 軽症:震えは軽く、ストレスや疲れで悪化するが、日常生活に支障は少ない。
- 中等症:震えが継続的になり、食事や筆記が困難になる。
- 重症:震えが強くなり、コップを持つ、ボタンを留めるなどの細かい動作が難しくなる。
[2] 筋固縮(きんこしゅく) – 筋肉のこわばり
筋固縮とは、筋肉の異常な緊張によって、手足や体の動きが制限される症状です。脳内のドーパミン不足が、筋肉の弛緩と収縮のバランスを崩すことで発生します。
1. 筋固縮の進行度
- 軽症:肩こりのような違和感があり、動作がぎこちなくなる。
- 中等症:手足を動かすときに抵抗を感じ、服の着脱が困難になる。
- 重症:関節が固まり、動きが大幅に制限される。
[3] 無動・寡動(むどう・かどう) – 動作が遅くなる
無動とは、動作の開始が難しくなる症状で、寡動(かどう)は、動き自体が遅くなる状態を指します。パーキンソン病の進行とともに悪化することが多く、転倒や生活の自立度に影響を与えます。
1. 無動・寡動の進行度
- 軽症:少し動きが遅くなるが、意識すれば普通に動ける。
- 中等症:服を着替える、階段を上るなどの動作に時間がかかる。
- 重症:歩行が困難になり、日常生活のあらゆる動作が著しく遅くなる。
[4] 姿勢反射障害 – バランスを崩しやすい
姿勢反射障害とは、バランスを保つための反射機能が低下する症状です。転倒のリスクが高まり、骨折やケガの原因になります。
1. 姿勢反射障害の進行度
- 軽症:軽いふらつきがあるが、歩行には支障がない。
- 中等症:段差やカーブでバランスを崩しやすく、転倒の危険がある。
- 重症:一人で歩くのが困難になり、転倒による骨折のリスクが高まる。
■2. 非運動症状(体の動き以外の症状)
パーキンソン病では、運動症状以外にも自律神経や脳機能の異常による非運動症状 が現れます。これらの症状は 病気の初期段階から現れることも多く、日常生活に影響を与えます。
[1] 自律神経症状(体の内側の機能の異常)
パーキンソン病は、自律神経の働きにも影響を与える ため、消化器・循環器・泌尿器に症状が現れます。
1. 代表的な自律神経症状
- 便秘:腸の動きが鈍くなり、便秘が慢性化する。
- 排尿障害:頻尿や尿漏れが起こりやすくなる。
- 低血圧:立ち上がったときにめまいやふらつきが生じる(起立性低血圧)。
[2] 精神症状(脳の認知機能や感情の異常)
パーキンソン病では脳の神経伝達が低下することで、以下のような精神的な症状が現れることがあります。
1. 代表的な精神症状
- うつ症状:気分が落ち込み、意欲が低下する。
- 認知機能低下:記憶力が衰え、判断力が鈍ることがある。
- 幻覚・妄想:実際にはないものが見えることがある。
[3] 感覚障害(体の感覚が変化する)
パーキンソン病では、嗅覚や痛みの感覚が変化することもあります。
1. 代表的な感覚障害
- 嗅覚低下:匂いを感じにくくなる。
- 痛み:筋肉や関節に慢性的な痛みを感じることがある。
■3. 症状の進行と個人差
パーキンソン病の症状は、患者によって異なり、進行のスピードも個人差があります。一般的には以下のように進行します。
2. 進行段階
- 初期段階:片側の手や足に軽い震えが現れる。
- 中期段階:両側に症状が広がり、日常生活に支障をきたす。
- 後期段階:立ち上がることや歩行が困難になり、介助が必要となる。
適切な治療とリハビリテーションを行うことで、進行を遅らせ、生活の質を維持することが可能 です。
パーキンソン病の原因
パーキンソン病の正確な原因は、現在も完全には解明されていません。しかし、研究の進展により、神経細胞の変性を引き起こす複数の要因が関与していることが明らかになっています。特に、脳内のドーパミン神経細胞の変性が発症の中心的なメカニズムとされており、これには 遺伝的要因、環境的要因、加齢、腸内細菌の影響、異常タンパク質の蓄積などが複雑に絡み合っていると考えられています。
■1. ドーパミン神経細胞の変性と異常タンパク質の蓄積
パーキンソン病では、脳の黒質と呼ばれる部分にあるドーパミンを産生する神経細胞が徐々に減少します。ドーパミンは、運動の制御を担う重要な神経伝達物質であり、その減少によって運動機能の調整が難しくなり、振戦、筋固縮、動作の遅れなどの症状が現れます。
この神経細胞の変性には、α-シヌクレインというタンパク質の異常な蓄積が大きく関与していると考えられています。α-シヌクレインが異常に折りたたまれ、レビー小体という異常構造を形成すると、神経細胞が機能不全を起こし、最終的には死滅します。
[1]なぜα-シヌクレインが異常に蓄積するのか?
- 健常な状態では、α-シヌクレインは適切に分解されるが、分解機能の低下や遺伝的異常によって不要なタンパク質が蓄積する。
- 老化に伴い、細胞の自己修復能力が低下し、異常タンパク質を排除しにくくなる。
- 酸化ストレスや炎症反応が増大し、神経細胞へのダメージが加速する。
■2. 遺伝的要因と発症リスク
パーキンソン病の多くは 孤発性(家族歴がない)ですが、一部には遺伝的要因が関与する家族性パーキンソン病も存在します。研究によると、家族性パーキンソン病は全体の5〜10%を占め、以下の遺伝子変異が関与していることが分かっています。
[2] 代表的なパーキンソン病関連遺伝子
- PARK1(P-Adrenergic Receptor Kinase 1)
→ α-シヌクレインの異常を引き起こし、レビー小体の形成を促進する。 - PARK2(P-Adrenergic Receptor Kinase 2)
→ タンパク質の分解機能を調節するが、この遺伝子に異常があると不要なタンパク質の蓄積が進みやすい。 - PARK8(P-Adrenergic Receptor Kinase 8)
→ 遺伝性のパーキンソン病の中で最も頻度が高く、炎症反応の異常に関与する可能性がある。
ただし、これらの遺伝子変異を持っているからといって、必ずしもパーキンソン病を発症するわけではありません。遺伝的要因と環境的要因が相互に作用することで、発症リスクが変化すると考えられています。
■3. 環境要因と発症リスク
環境要因もパーキンソン病の発症リスクに影響を与えると考えられていますが、直接的な因果関係が完全に証明されているわけではありません。しかし、一部の研究では、以下のような環境因子がリスクを高める可能性が示唆されています。
[1] 農薬や重金属の影響
- 農薬(パラコート、ロテノン)
→ ミトコンドリア(細胞のエネルギーを生み出す器官)の働きを阻害し、神経細胞の機能を低下させることが報告されている。 - 重金属(鉛、マンガン)
→ 長期間曝露されると、酸化ストレスが増加し、神経細胞の損傷を引き起こす可能性がある。
[2] 喫煙とカフェインの影響
興味深いことに、喫煙者やカフェインをよく摂取する人は、パーキンソン病の発症リスクが低いことが複数の研究で報告されています。
- ニコチン
→ 神経保護作用がある可能性が指摘されている。 - カフェイン
→ ドーパミン受容体を刺激し、神経細胞を保護する作用がある可能性があ
ただし、これらの要因が実際に予防につながるかどうかは、まだ研究段階であり、喫煙による健康リスクを考慮すると積極的に推奨されるものではありません。
■4. 加齢とパーキンソン病の関係
加齢は、パーキンソン病の発症リスクを高める要因の一つとされています。
[1] なぜ加齢が影響するのか?
- ドーパミン神経細胞の自然な減少
→ 健康な人でも加齢とともに黒質の神経細胞は減少するが、パーキンソン病ではそのスピードが速い。 - 細胞の修復能力の低下
→ 老化により、不要なタンパク質を分解する機能が衰え、レビー小体の蓄積が進む。 - ミトコンドリア機能の低下
→ 細胞のエネルギー産生が低下し、酸化ストレスが蓄積することで神経細胞が損傷しやすくなる。
■5. 腸内細菌とパーキンソン病の関連性
近年の研究で、腸内細菌のバランスがパーキンソン病の発症に関与している可能性が示唆されています。
[1] 腸内細菌とパーキンソン病の関係
- パーキンソン病患者の多くが、発症前から便秘の症状を経験している。
- 腸内の特定の細菌が、α-シヌクレインの異常な蓄積を促す可能性がある。
- 腸脳相関の概念が注目され、腸の健康が脳の健康に影響を与える可能性が指摘されている。
腸内細菌の影響については、まだ研究段階ですが、将来的にパーキンソン病の新たな治療ターゲットとして期待されています。
パーキンソン病の最新治療法
パーキンソン病の治療は、症状を軽減し、QOLを向上させることを目的としています。しかし、現時点では根本的な治療法は確立されておらず、対症療法が中心です。
治療法は、大きく以下のカテゴリに分類されます。
- 薬物療法(ドーパミン不足を補う治療)
- 外科的治療(脳深部刺激療法など)
- リハビリテーション(運動療法・作業療法)
- 最先端医療(再生医療・遺伝子治療など)
それぞれの治療法には得意な症状や限界があり、併用することで相乗効果を発揮する場合もあります。
■1. 薬物療法(ドーパミン不足を補う治療)
パーキンソン病の最も一般的な治療法は薬物療法であり、脳内のドーパミン不足を補うことで症状を軽減します。薬ごとに作用の仕組みや持続時間、副作用が異なるため、症状や進行度に応じた組み合わせが重要です。
[1] レボドパ(L-ドパ) – 最も効果の高い基本治療
- レボドパ(L-DOPA:L-3,4-dihydroxyphenylalanine)は、ドーパミンの前駆体であり、体内でドーパミンに変換されることで脳内のドーパミン濃度を増やし、運動症状を大幅に改善します。
特に運動症状の改善に強い効果を示しますが、長期使用によって効果が低下するウェアリングオフ現象や、「ジスキネジア(不随意運動)」という副作用が現れることがあります。
1. どの治療と併用すると良いか?
- COMT(Catechol Methyltransferase)阻害薬と併用することで、レボドパの分解を抑え、効果を持続させることができます。
- ドーパミン受容体作動薬と併用することで、レボドパの使用量を減らし、副作用を抑えることが可能です。
[2] ドーパミン受容体作動薬 – レボドパの代替・補助治療
- 脳内のドーパミン受容体を直接刺激し、ドーパミン不足を補う薬です。
- レボドパと比べて効果はマイルドですが、長期使用でもジスキネジア(不随意運動)の副作用が出にくい特徴があります。
- 初期治療として単独で使用されることが多く、中期以降ではレボドパと併用されることがあります。
1. どの治療と併用すると良いか?
- レボドパと併用すると、レボドパの使用量を減らし、副作用を抑えながら運動症状をコントロールできます。
[3] モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬 – ドーパミンの分解を防ぐ
- MAO-B(モノアミン酸化酵素B:Monoamine Oxidase B)は、ドーパミンを分解する酵素であり、これを阻害することで脳内のドーパミン濃度を維持します。
- レボドパと併用することで、より長時間安定した効果を得られるため、ウェアリングオフ現象の軽減に有効です。
[4] COMT阻害薬 – レボドパの効果を長持ちさせる
- COMTは、レボドパを分解する酵素であり、これを阻害することでレボドパの持続時間を延長します。
- 特にレボドパの効果が途切れる「ウェアリングオフ現象」が出てきた患者に有効とされています。
1. どの治療と併用すると良いか?
- レボドパと併用することで、効果が持続し、症状の波が減ります。
■2. 外科的治療(薬が効きにくくなった場合の治療)
[1] 脳深部刺激療法(DBS:Deep Brain Stimulation)
- 脳の特定部位(視床下核など)に電極を埋め込み、電気刺激を送ることで異常な神経活動を調整し、運動症状を緩和する治療法です。
- レボドパの効果が低下した患者に適用されることが多いとされています。
- 薬物療法と併用することで、薬の使用量を減らし、副作用を抑えながら症状をコントロールできる可能性があります。
[2] 集束超音波治療(FUS:Focused Ultrasound Surgery)
- 超音波を使って特定の神経組織を加熱し、不随意運動を抑える治療法です。
- 比較的新しい治療法であり、特定の症状に対して有効とされていますが、適応できる患者は限られているため、医師との相談が必要です。
■3. 研究段階の最先端治療
[1] ヒト血小板溶解液を用いた再生医療
- ヒト血小板溶解液(HPL:Human platelet lysate)を用いて、炎症やストレスから神経細胞を保護しながら神経細胞の修復を促し、情報伝達を改善させる試みです。
- 現在、アカデミアにおいて作用機序解明のための非臨床研究が進行中であり、一部の医療機関おいて臨床的有効性が認められるとして臨床症例が蓄積されつつあります。
[2] iPS細胞を用いた再生医療
- 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いて、ドーパミン神経細胞を移植し、失われた神経機能を回復させる試みです。
- 現在、臨床試験が進行中であり、将来的には根本的な治療法となる可能性があります。
[3] 遺伝子治療
- 特定の遺伝子を導入し、神経細胞の変性を防ぐ試みです。
- ドーパミンの産生を促進する研究も進められています。
- 現段階では研究段階ですが、将来的にパーキンソン病の進行を止める可能性があるとされています。
■4. どの治療法がどの治療法より優れているのか?
- 初期段階では、ドーパミン受容体作動薬がレボドパよりも副作用が少なく推奨されることが多いです。
- レボドパは最も効果が高いですが、長期使用による副作用(ジスキネジア)を考慮し、他の薬と併用することでバランスを取ることが重要です。
- 症状が進行し、薬が効きにくくなった場合には、外科的治療(DBSやFUS)が適応される可能性があります。
効果的なリハビリ方法
パーキンソン病のリハビリテーションは、運動機能の維持や症状の進行抑制、QOLの向上を目的としています。適切なリハビリを実践することで、脳の可塑性(神経の適応能力) を活用し、運動能力や認知機能の低下を最小限に抑えることが可能です。さらに、リハビリの継続は、日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)の自立度を向上させるだけでなく、薬物療法の効果を補完する役割も果たします。
■1. 運動療法(身体の動きを改善するリハビリ)
[1] ストレッチと柔軟性トレーニング – 筋固縮の緩和と可動域の維持
パーキンソン病では筋固縮(筋肉のこわばり) が進行し、関節の可動域が狭くなることがあります。ストレッチを行うことで、筋肉の柔軟性を維持し、関節の可動域を拡大する効果が期待できます。
1. メカニズム:
- ストレッチを行うと血流が増加し、筋肉の硬直が和らぐ。
- 神経可塑性が促進され、スムーズな動作が可能になる。
- 筋肉の弛緩が促進され、姿勢反射障害による転倒リスクを低減する。
2. 具体的なストレッチ方法:
- 首・肩・背中のストレッチ:姿勢の改善に効果的
- 太ももやふくらはぎのストレッチ:歩行時のスムーズな動作をサポート
[2] 筋力トレーニング – バランス能力と歩行の安定化
パーキンソン病では、筋力の低下が進行すると、バランス能力が悪化し、転倒リスクが高まります。 筋力トレーニングを行うことで、体の安定性を高め、転倒防止に寄与します。
1. メカニズム:
- 下肢の筋力強化:姿勢反射を改善し、歩行時の安定性を向上させる
- 体幹の筋力強化:猫背や前屈姿勢を防ぎ、転倒のリスクを低減
- 神経-筋システムの活性化:運動のスムーズな連携を向上させる
2. 具体的なトレーニング:
- スクワット:下半身の筋力強化
- カーフレイズ(かかと上げ運動):ふくらはぎの筋力強化
- プランク:体幹の強化
■2. 歩行訓練(スムーズな歩行を取り戻すリハビリ)
パーキンソン病の患者は歩幅が狭くなり、小刻み歩行になりやすいため、転倒のリスクが高まります。歩行訓練を行うことで、歩行の安定性を向上させ、転倒防止につながります。
[1] メカニズム:
- リズム運動を行うことで、大脳基底核の機能を補助し、歩行の流動性を改善できる。
- 目標物を設定して歩行することで、視覚情報を利用した歩行制御が向上する。
[2] 具体的な歩行訓練:
- 大股歩行:意識的に歩幅を大きくすることでスムーズな歩行を促す。
- リズム歩行:メトロノームの音に合わせて歩くことで、リズム感を養い、歩行のぎこちなさを軽減。
■3. 作業療法(手先の機能を維持するリハビリ)
パーキンソン病では、手の細かい動作が困難になるため、作業療法を行うことでADLの維持・改善を図ります。
[1]メカニズム:
- 繰り返し動作を行うことで、神経回路を強化し、手の巧緻性を維持できる。
- 感覚入力を増やすことで、動作のぎこちなさを改善できる。
[2] 具体的な作業療法:
- ペグボード(小さなピンを穴に入れる訓練):手指の微細運動を向上
- 書字訓練:文字を書くことで手の動作をスムーズにする
- ボタンの付け外し:日常生活動作の改善
■4. 言語・嚥下リハビリ(話し方や飲み込みの改善)
パーキンソン病の患者は、声が小さくなったり、発音が不明瞭になったりすることが多いため、言語訓練が有効です。また、嚥下(えんげ)障害による誤嚥性肺炎のリスクもあるため、嚥下リハビリも重要です。
[1] メカニズム:
- 発声練習によって、声帯の筋力を強化し、発話の明瞭さを向上させる。
- 嚥下訓練を行うことで、誤嚥のリスクを軽減し、食事を安全に摂取できるようにする。
[2] 具体的な訓練:
- 大きな声で発声するトレーニング(LSVT LOUD):音量を意識して発声する
- 水を飲み込む練習:嚥下の動作を強化し、誤嚥を防ぐ
■5. 音楽療法とダンス療法(リズム感を活用するリハビリ)
パーキンソン病の患者はリズムに合わせた運動がスムーズにできるという特徴があるため、音楽やダンスを利用したリハビリが有効です。
[1] メカニズム:
- 音楽のリズムが歩行や動作のスムーズな制御を助ける。
- ダンスによってバランス感覚と運動機能が向上する。
[2] 具体的な療法:
- タンゴダンス:姿勢と歩行の改善
- 音楽に合わせた体操:運動能力の向上
※参考:(3)
まとめ|パーキンソン病の症状・原因・治療法を総括
パーキンソン病は 中脳の黒質にあるドーパミン神経細胞が変性することで発症する進行性の神経変性疾患です。この病気では、振戦(手足の震え)、筋固縮(筋肉のこわばり)、無動(動作の遅れ)、姿勢反射障害(バランスの喪失)などの運動症状が現れるだけでなく、自律神経障害、認知機能の低下、精神症状などの非運動症状も多くの患者に影響を及ぼします。
パーキンソン病の正確な原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因、環境要因、加齢、異常タンパク質(αシヌクレイン)の蓄積、腸内細菌の変化などが複雑に絡み合って発症すると考えられています。また、病状の進行速度には 個人差があり、適切な治療を行うことで進行を遅らせ、QOLを維持することが可能です。
■1. パーキンソン病の主な治療法
パーキンソン病の治療では、薬物療法が中心となります。特にレボドパは最も効果的な薬剤ですが、長期使用による副作用(ジスキネジアやウェアリングオフ現象)があるため、ドーパミン受容体作動薬、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬などと組み合わせることで、効果を持続させながら副作用を抑える戦略がとられています。症状が進行し、薬が効きにくくなった場合には、DBSやFUSなどの外科的治療が有効です。
■2. リハビリテーションの重要性
薬物療法や外科的治療に加えて、適切なリハビリテーションを行うことが非常に重要です。運動療法(ストレッチ、筋力トレーニング)、歩行訓練、作業療法、言語療法などを組み合わせることで、運動機能の維持、転倒リスクの低減、嚥下機能の改善が期待できます。さらに、音楽療法やダンス療法が、リズム感を活用することで運動症状を緩和する可能性もあると注目されています。
■3. 今後の治療の可能性
近年では、HPLやiPS細胞を用いた再生医療、遺伝子治療などの先進医療が研究されており、将来的にはパーキンソン病の根本的な治療法が確立される可能性もあります。現時点では病気の進行を完全に止めることはできませんが、医師と連携しながら最適な治療を選択し、積極的にリハビリを継続することで、生活の質を向上させることが可能 です。
パーキンソン病の治療やリハビリについては、常に最新の情報を確認しながら、適切な対策を講じることが重要です。早期発見・早期治療を行い、患者さんとそのご家族がより良い生活を送るために、医療機関や専門家との連携を強化することをおすすめします。
本稿の内容につきまして、お気軽にお問い合わせください。但し、真摯なご相談には誠実に対応いたしますが、興味本位やいたずら、嫌がらせ目的のお問い合わせには対応できませんので、ご理解のほどお願いいたします。
執筆者
■博士(工学)中濵数理
- 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
- 沖縄再生医療センター:センター長
- 一般社団法人日本スキンケア協会
:顧問 - 日本再生医療学会:正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
- 日本バイオマテリアル学会:正会員
- 公益社団法人高分子学会:正会員
- X認証アカウント:@kazu197508
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