再生医療解説|ヒト血小板溶解液系の硬膜外注射が椎間板ヘルニアの症状改善に寄与する作用機序
当社へ報告されている自由診療下の臨床所見「椎間板ヘルニアの症状改善」を踏まえ、ヒト血小板溶解液(HPL)を硬膜外投与(硬膜外注射)した場合における想定作用機序を既存の学術知見に基づいて整理します。
大見出し】椎間板ヘルニアの病態と症状の整理
■1. 圧迫と化学的刺激が同時に進む病態
椎間板ヘルニアでは、髄核が線維輪の裂け目から突出して神経根を物理的に圧迫します。同時に、椎間板から放出される炎症性サイトカイン(例:腫瘍壊死因子α、インターロイキン1β)が神経根周囲に広がり、いわゆる「化学的刺激(ケミカルラディキュロパチー)」が加わります【文献1】【文献2】。
この二重の刺激は、神経根の浮腫、血流の乱れ、痛みの過敏化を引き起こします【文献1】。
■2. 後根神経節の過敏化
痛みの増幅には、脊髄に入る直前の後根神経節(DRG)が深く関わります。DRGでは炎症性シグナルと酸化ストレスがイオンチャネルの働きを変え、神経が興奮しやすい状態が続きます【文献3】。
■3. 血液—神経関門の破綻
神経根やDRGは、タイトジャンクションで構成される血液—神経関門(BNB)や血液—後根神経節関門(BDB)に守られています。炎症下ではこれらの関門が緩み、浮腫と免疫細胞の流入が起こりやすくなります【文献4】【文献5】。
ヒト血小板溶解液系の定義と硬膜外投与の狙い
■1. ヒト血小板溶解液系の定義
本稿でいう「ヒト血小板溶解液系」は、ヒト血小板溶解液(Human Platelet Lysate:HPL)を中核とし、その中に含まれる細胞外小胞(エクソソームを含む)、血小板由来微小粒子、さらに上流素材に当たる多血小板血漿(Platelet‑Rich Plasma:PRP)をひとまとめに扱う呼び方です。
これらは共通して、成長因子(PDGF、VEGF、IGF‑1、TGF‑βなど)、抗酸化酵素群、核酸成分(mRNA/miRNA)を含み、これらは細胞外小胞に積み込まれて運ばれることがあります【文献6】【文献7】【文献8】【文献9】。
■2. 硬膜外投与の解剖学的メリット
硬膜外(とくに椎間孔周囲)に投与すると、薬液が神経根とDRGの周囲へ拡散し、炎症と浮腫の中心に近い微小環境へ直接届きます。
そして、関門構造が乱れた局所で、内皮細胞・免疫細胞・シュワン細胞に取り込まれ、病態の核心に早期から働きかけやすくなります【文献4】【文献5】。
三要素の補完的な作用機序
■1. 抗酸化酵素とNrf2が担う過敏性の沈静化
細胞外小胞に搭載されたSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)やカタラーゼなどの抗酸化酵素は、取り込まれた細胞内で活性酸素(ROS)を直接下げます【文献9】。さらにPRP/HPLはNrf2(抗酸化応答の司令塔)を活性化し、SOD、カタラーゼ、HO‑1、NQO1などの遺伝子発現を底上げします【文献10】。
その結果、膜電位とイオンチャネルの働きが安定し、DRGと神経根の過敏性が下がります【文献3】【文献10】。
■2. 成長因子が担う保護と血流の立て直し
PDGF、VEGF、HGF、TGF‑β、IGF‑1などは受容体を介してPI3K‑Akt/MAPK経路を速やかに起動し、神経・グリアの生存を支え、過剰な炎症反応を和らげます【文献6】【文献8】。
また、VEGFやHGFは内皮機能と微小循環を整え、虚血ぎみの神経根周囲で酸素と栄養の供給を補います【文献6】。
さらに、血小板に蓄えられるBDNF(脳由来神経栄養因子)は、軸索の維持と回復の土台を作ります【文献8】。
■3. miRNA/mRNAが担う炎症と内皮機能の調整
血小板由来の細胞外小胞はmiRNA(例:miR‑223、miR‑21、miR‑146a)やmRNAを運び、受け手の細胞でNF‑κBなどの炎症シグナルを抑える方向に遺伝子発現を調整します【文献11】【文献12】。
また、miR‑126は内皮の安定化や血管新生の質を高め、局所の修復段取りを整えます【文献6】。
[1] 関門機能の安定化と浮腫の減少
PRP由来の細胞外小胞は、タイトジャンクション(ZO‑1、クローディン、オクルディン)の発現を保ち、血液—脊髄関門や末梢のバリア機能に近い構造の漏出を抑えることが報告されています【文献13】。
関門が整うほど、浮腫と不要な炎症細胞の流入が減り、機械的圧迫に伴う化学的刺激が弱まります【文献4】【文献5】。
症状の時間軸と作用機序の対応(単回投与を想定)
■1. 0〜3日
- 小胞由来の抗酸化酵素がROSを直接下げ、膜興奮性が安定します【文献9】。
- 成長因子がPI3K‑Akt/MAPKを即時に起動し、神経・グリアの生存シグナルが立ち上がります【文献8】。
→ 痛みのピークの高さとしびれの変動が小さくなり始めます。
■2. 3日〜3週間
- Nrf2活性化によってSOD、カタラーゼ、HO‑1、NQO1の発現が増え、細胞自身の抗酸化能が保たれます【文献10】。
- miRNAがNF‑κB依存の炎症を抑え、内皮機能を整えます【文献11】【文献12】。
→ 夜間痛や長座位後の増悪が落ち着き、動作時の痛みの波が減ります。
■3. 2〜8週間
- VEGFやmiR‑126が微小血管を安定化し、炎症産物のクリアランスと組織修復が進みます【文献6】。
- 自然経過としてのヘルニア縮小は、血管新生と免疫細胞浸潤、マトリックス分解の組み合わせで起こるため、この段階の血管・免疫の整いは理にかないます【文献2】。
→ 歩行・起居での突っ張りや放散痛が徐々に軽くなります。
■4. 1〜3か月
→ 改善の安定化と持続が見えてきます。
投与回数と効果の積み上げ(シリーズ投与を想定)
■1. 単回投与と複数回投与の考え方
無作為化比較試験には単回投与で3〜6か月の改善が持続した報告がありますが、実地診療では2〜3回を数週間間隔で行うプロトコルが一般的です【文献16】【文献17】【文献18】。
追加投与は「0〜2週間の初期変化(抗酸化と炎症調整)」を再び立ち上げ、微小循環と関門機能の整いを保つ狙いがあります【文献16】【文献17】。
まとめ
■1. 要点の整理
- 椎間板ヘルニアの痛みは、圧迫と化学的刺激、DRG過敏化、関門破綻が重なって生じます【文献1】【文献3】【文献4】。
- ヒト血小板溶解液系は、成長因子・抗酸化酵素・核酸成分(mRNA/miRNA)が別々の経路で作用し、結果として病態の主要因を補完的に改善方向へ動かします【文献6】【文献8】【文献9】【文献10】【文献11】。
- 単回投与では日〜週の段階で順に変化が現れ、シリーズ投与ではその変化を再起動・維持することで持続性の向上が期待できます【文献16】【文献17】【文献18】。
専門用語一覧
- 椎間板ヘルニア:椎間板の中身(髄核)が外へはみ出して神経を圧迫し、痛みやしびれを起こす状態【文献1】。
- 後根神経節(DRG):感覚神経の細胞体が集まる場所で、ここが過敏になると痛みが続きやすくなります【文献3】。
- 血液—神経関門(BNB)/血液—後根神経節関門(BDB):末梢神経やDRGを守る「漏れにくい血管」の仕組みで、炎症で緩むと浮腫が悪化します【文献4】【文献5】。
- ヒト血小板溶解液(HPL):ヒトの血小板を処理して中の有効成分を取り出した液体。成長因子・抗酸化酵素・mRNA/miRNA・細胞外小胞を含みます【文献6】【文献7】。
- 多血小板血漿(PRP):血小板を濃く含む自己血の製剤。成長因子と細胞外小胞が豊富です【文献16】。
- 細胞外小胞(エクソソームを含む):細胞が放出する小さな袋で、たんぱく質やmRNA/miRNAを運び、受け手の細胞の働きを変えます【文献11】。
- miRNA:遺伝子発現を細かく調整する短いRNAで、炎症や血管機能の制御に関わります【文献11】【文献12】。
- Nrf2:抗酸化応答を司る転写因子で、複数の抗酸化酵素の産生を増やします【文献10】。
- BDNF:脳由来神経栄養因子。神経の維持と回復を支えます【文献8】。
- PI3K‑Akt/MAPK:細胞の生存や修復を制御する代表的なシグナル伝達経路です【文献8】。
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執筆者
■博士(工学)中濵数理
- 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
- 沖縄再生医療センター:センター長
- 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
- 日本再生医療学会:正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
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