再生医療解説|ヒト血小板溶解液系の点鼻投与が脳卒中予後の症状改善に寄与する作用機序
当社へ報告されている自由診療下の臨床所見「脳卒中予後の症状改善」を踏まえ、ヒト血小板溶解液(hPL)を点鼻投与した場合における想定作用機序を既存の学術知見に基づいて整理します。
この記事のねらい
本稿は、ヒト血小板溶解液(Human Platelet Lysate:HPL)を、そこに含まれる細胞外小胞(エクソソームを含む)・血小板由来微小粒子、および上流素材に相当する多血小板血漿(Platelet Rich Plasma:PRP)までを包摂した「ヒト血小板溶解液系」として一括し、点鼻投与が脳卒中(虚血性・出血性の双方)における回復過程へどのように関与し得るかを、病態生理と結びつけて因果の筋道が通る形で解説します。
また、点鼻ルートで脳に届く根拠、各成分が担う役割、そして抗酸化酵素を含む酸化ストレス制御までを明示し、臨床現場で報告されている改善例と整合的な仮説を提示します【文献1】【文献2】【文献3】。
脳卒中の共通病態と本稿の視点
脳卒中は、血管が詰まる虚血性脳卒中と、血管が破れて出血する出血性脳卒中に大別されます。起点は異なっても、どちらにも炎症の持続、浮腫の拡大、微小循環の破綻、酸化ストレスの上昇、神経栄養の低下、白質損傷という共通の問題が連続して起こります【文献9】【文献10】【文献18】【文献19】。
この共通病態に働きかけられるなら、タイプを問わず回復の土台を整えられるはずです。なお、虚血性では「虚血コア」「ペナンブラ」「再灌流」「ノーリフロー現象」が重要で、出血性では血腫による圧迫と血液成分が引き起こす二次障害が前景に出ますが、背景には炎症・酸化ストレス・微小循環障害という共通項が横たわります【文献9】【文献10】【文献18】【文献20】。
ヒト血小板溶解液系の中身と特徴
ヒト血小板溶解液は、血小板を凍結融解などで破砕し、α顆粒などから成長因子・サイトカイン・細胞外小胞を放出させた混合液です。代表的な成分は、BDNF(脳由来神経栄養因子)、IGF 1(インスリン様成長因子 1)、VEGF(血管内皮増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、EGF(上皮成長因子)、FGF 2(線維芽細胞増殖因子)などです【文献5】【文献14】。
さらに、ヒト血小板溶解液には血小板由来の細胞外小胞(エクソソームを含む)と血小板由来微小粒子が含まれ、これらはmiRNA(例:miR 126、miR 133b など)や多様なタンパク質を運び、受け手細胞の遺伝子発現とシグナル伝達を同時多発的に組み替えることで、血管・炎症・神経の各層に影響を及ぼします【文献6】【文献7】【文献11】。
点鼻投与で脳に届く理由
点鼻投与は、鼻腔から嗅神経・三叉神経に沿う経路や、鼻腔とくも膜下腔の連続性を利用して、血液脳関門(BBB)による制約を相対的に回避しつつ中枢へ物質を運ぶ方法です【文献1】。動物研究では、点鼻した細胞外小胞が数時間スケールで脳実質に到達し、ニューロンやミクログリアに取り込まれることが示されています【文献2】【文献3】。
さらに、一部の研究は、点鼻の方が静脈内投与より脳への集積が高い可能性を示しています【文献4】【文献16】。このため、生体由来で多成分のヒト血小板溶解液系は、点鼻ルートと薬理学的に相性が良いと考えられます【文献1】【文献16】。
想定作用機序の全体像
以下では、共通病態の流れに合わせて、ヒト血小板溶解液系がどのように働くかを因果のつながりで整理します。また、これまで過小評価されがちだった酸化ストレス制御(抗酸化酵素を含む)についても言及します。
■1. 微小循環の立て直し
脳卒中後の微小循環は、内皮障害・炎症・酸化ストレス・ペリサイト収縮が重なり、毛細血管レベルの詰まりが続きます。虚血性では再開通後もノーリフロー現象を生み、出血性でも血腫周囲に二次的虚血域を形成します【文献9】【文献10】【文献18】。
ヒト血小板溶解液系に含まれるmiR 126は、SPRED1やPIK3R2を抑えてVEGFシグナルを底上げし、内皮細胞の生存と血管新生を促します【文献6】【文献8】。また血小板由来微小粒子は、内皮にmiRNAを直接受け渡し、接着分子や炎症応答の過剰化を抑える方向へ働き得ます【文献7】。
これらが重なり、微小循環の通り道を再び開く筋道になります。
■2. 炎症の制御と浮腫の軽減
ミクログリア・アストロサイト・浸潤免疫細胞の相互作用は、炎症性サイトカインの渦を生み、浮腫と二次損傷を増幅させます。細胞外小胞療法は、この過剰な炎症ループを緩め、不要物の片付けを促進し、炎症の尾を短くする方向に働くことがまとめられています【文献15】。
ヒト血小板溶解液系は、miRNAと成長因子の組み合わせで免疫—血管—グリアの協調を促し、浮腫の増悪を防ぎやすい環境を作ります【文献6】【文献15】【文献18】。
■3. 酸化ストレスの低減と抗酸化酵素の動員
酸化・亜硝酸ストレスは、ペリサイト収縮→毛細血管閉塞→ノーリフローという悪循環の起点であり、虚血性・出血性のどちらにも共通する障害増幅因子です【文献9】【文献10】【文献18】。
ヒト血小板溶解液由来の細胞外小胞は、NADPHオキシダーゼ(Nox4)活性の低下などを通じて活性酸素(ROS)の産生を減らす方向に働くことが示されています【文献6】。さらに、細胞外小胞療法は受け手細胞側の抗酸化酵素群(スーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなど)の発現・活性を上向かせる報告があり、Nrf2/ARE 経路の活性化を伴って酸化ストレス耐性を高める可能性があります【文献15】。
この二重の効果(発生源の抑制+酵素的な無毒化)が働くと、内皮障害とペリサイト収縮が和らぎ、微小循環の再開を助けます。結果として、虚血性ではペナンブラの延命、出血性では血腫周囲の二次的虚血と浮腫の抑制につながります【文献9】【文献10】【文献18】。
■4. 神経保護と神経栄養の底上げ
血小板は末梢で最大級のBDNFの貯蔵庫であり、活性化により選択的に放出します【文献14】。ヒト血小板溶解液はBDNFやIGF 1を含み、急性期のシナプス維持と細胞死の抑制を後押しします【文献12】【文献14】。
酸化ストレスの低減と組み合わせることで、エネルギー不足下でも神経細胞が持ちこたえる余地が広がります。
■5.血管新生と神経新生の並進
回復期には、新生毛細血管の道筋に沿って神経前駆細胞が移動し、回路の再建が進みます。
miR 126やVEGFはスプラウティング(毛細血管の芽生え)を促し、その周囲で神経新生が進行します【文献6】【文献8】。細胞外小胞療法は、血管新生・神経新生・白質再編の同時進行と機能回復を伴うことがまとめられています【文献15】。
■6.シナプス可塑性とネットワーク再編
細胞外小胞は、miR 133bなどを神経細胞へ届け、軸索伸長やスパイン形成を後押しします。これが機能回復と結びつくことが動物モデルで示されています【文献11】。
さらに、BDNFの供給が長期増強(LTP)を支え、作り直された回路の定着を助けます【文献11】【文献14】。
■7.白質修復(髄鞘再生)
虚血・出血は軸索と髄鞘を傷めます。
IGF 1はオリゴデンドロサイトの生存・分化を高め、PDGFは前駆細胞(OPC)の増殖を促進します【文献12】【文献13】。細胞外小胞療法は白質の再編を後押しし、歩行や上肢機能など実機能の回復につながる基盤を整えます【文献15】。
時間軸でみる一連の働き
リハビリの実感と一致させるため、発症後の時間軸で整理します。各項目は独立ではなく、前後がつながって効果が重なることがポイントです。
■1. 超急性〜急性期(発症直後〜数日)
- 点鼻成分が数時間スケールで脳に到達し、内皮・ミクログリア・ニューロンに取り込まれます【文献1】【文献3】。
- Nox4低下などによるROS発生の抑制と、抗酸化酵素活性の底上げで酸化ストレスを素早く減らし、微小循環の再開を助けます【文献6】【文献15】。
- BDNF・IGF 1が神経保護を支え、虚血性ではペナンブラ維持、出血性では周囲組織の二次的虚血と浮腫の抑制につながります【文献12】【文献14】【文献18】。
これらは、障害の広がりを抑えて回復期への橋渡しを行う働きです。
■2. 亜急性〜回復期(数週〜数か月)
- miR 126とVEGF群が血管新生を進め、その道に沿って神経前駆細胞が動き、回路の材料が増えます【文献6】【文献8】。
- miR 133bとBDNFが可塑性を高め、学習依存的な回路再編が進みます【文献11】【文献14】。
- IGF 1とPDGFが白質修復を押し上げ、機能回復の持続性を高めます【文献12】【文献13】。
全体として、血管—免疫—神経—グリアが回復側へそろって動きます【文献15】。
虚血性・出血性での要点整理
ここまでは、共通病態を主軸にしましたが、本項ではタイプごとの重点も短く整理しておきます。
■1. 虚血性脳卒中で強調される点
ペナンブラを延命し、ノーリフロー素因(酸化ストレスとペリサイト収縮)を弱めることが最優先です。内皮保護と抗酸化(Nox4抑制+抗酸化酵素活性化)が微小循環の再開を助け、神経栄養と可塑性が再編の質を高めます【文献6】【文献9】【文献10】【文献12】。
この流れは、急性期から回復期までの一本の連続として理解できます。
■2. 出血性脳卒中で強調される点
血腫周囲の炎症・酸化ストレス・二次的虚血・浮腫を早期に抑えることが鍵です。
ヒト血小板溶解液系は、抗炎症と抗酸化(抗酸化酵素活性化を含む)で周囲損傷の拡大を抑え、回復期には血管新生・神経新生・白質再編の共通軌道に乗せる役割が期待できます【文献15】【文献18】【文献19】【文献20】。
これにより、実機能回復の土台づくりが進みます。
点鼻投与を選ぶ合理性
点鼻投与は非侵襲で反復しやすく、全身循環での希釈や肝・脾での取り込みの影響を相対的に抑えながら、脳内へ効率よく届ける設計に向きます【文献1】【文献4】【文献16】。
多因子が同時に働くヒト血小板溶解液系にとって、「必要な所に多層の信号を重ねて届ける」という意味での合理性があります【文献1】【文献6】。
まとめ
ヒト血小板溶解液系の点鼻投与は、下記複数の作用機序により、虚血性・出血性の共通病態を一連の流れとして支えます【文献5】【文献6】【文献11】【文献15】【文献18】。
点鼻で脳に届くこと、酸化ストレスを上流から下流まで二重に抑えること、神経栄養と可塑性で組織再生の質を上げること――これらがそろうと、臨床現場から報告される症状改善と整合する筋道が見えてきます【文献1】【文献6】【文献15】。
専門用語一覧
- ヒト血小板溶解液(HPL):血小板を破砕して、成長因子・サイトカイン・細胞外小胞を取り出した液。PRPや血小板由来小胞を含む本稿の総称「ヒト血小板溶解液系」に一括【文献5】。
- 多血小板血漿(PRP):血小板を濃縮した血漿。HPLの上流素材【文献5】。
- 細胞外小胞/エクソソーム:直径30〜200 nm程度の膜小胞。タンパク質やmiRNAを運び、受け手細胞の働きや遺伝子発現を変える【文献2】【文献3】。
- 血小板由来微小粒子(PMP):血小板から出る細胞外小胞。内皮にmiRNAを受け渡して遺伝子発現を調整し得る【文献7】。
- miRNA(microRNA):遺伝子発現を細かく調節する小さなRNA。miR 126は血管安定化・血管新生、miR 133bは神経可塑性に関与【文献6】【文献8】【文献11】。
- 血液脳関門(BBB):血液と脳の間を隔てる関門。点鼻は神経経路などを使って制約を相対的に回避できる【文献1】。
- 酸化ストレス/活性酸素(ROS):酸化性の強い分子が細胞を傷つける状態/その主体。脳卒中では過剰に増えて微小循環障害や細胞死を招く【文献9】【文献18】。
- 抗酸化酵素(スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)・カタラーゼ・グルタチオンペルオキシダーゼ):ROSを無毒化する酵素群。細胞外小胞療法はこれらの発現・活性を上向かせ、酸化ストレス耐性を高め得る【文献15】。
- NADPHオキシダーゼ(Nox4):ROS産生酵素。低下するとROS発生源が抑えられる【文献6】。
- Nrf2/ARE 経路:抗酸化遺伝子群をまとめて活性化する経路。細胞外小胞療法で活性化が報告される【文献15】。
- 虚血コア/ペナンブラ:血流が完全に絶たれて不可逆な領域/低灌流だが救える可能性がある周辺領域【文献10】。
- ノーリフロー現象:再開通後も毛細血管レベルで血流が戻らない現象。酸化ストレスとペリサイト収縮が関与【文献9】【文献10】。
- オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC):髄鞘を作る細胞のもと。IGF 1とPDGFが増殖・分化を助ける【文献12】【文献13】。
- 長期増強(LTP):学習記憶の基盤となる、シナプス伝達の長期的な強化【文献11】。
参考文献一覧
- Lochhead JJ, Thorne RG. Intranasal delivery of biologics to the central nervous system. Advanced Drug Delivery Reviews. 2012;64(7):614–628.
- Zhuang X, Xiang X, Grizzle W, et al. Treatment of brain inflammatory diseases by delivering exosome encapsulated drugs from the nasal region to the brain. Molecular Therapy. 2011;19(10):1769–1779.
- Kodali M, Castro OW, Kim DK, et al. Intranasally administered human MSC derived extracellular vesicles pervasively incorporate into neurons and microglia in both intact and status epilepticus injured forebrain. International Journal of Molecular Sciences. 2020;21(1):181.
- Betzer O, Perets N, Angel A, et al. In vivo neuroimaging of exosomes using gold nanoparticles. ACS Nano. 2017;11(11):10883–10893.
- da Fonseca L, Santos GS, Huber SC, Setti TM, Setti T, Lana JF. Human platelet lysate – A potent (and overlooked) orthobiologic. Journal of Clinical Orthopaedics and Trauma. 2021;21:101534.
- Bordin F, Piovan E, Biondi A, et al. Human platelet lysate derived extracellular vesicles enhance angiogenesis through miR 126. Cell Proliferation. 2022;55(10):e13312.
- Laffont B, Corduan A, Plé H, et al. Activated platelets deliver Ago2–microRNA complexes to endothelial cells via microparticles. Blood. 2013;122(2):253–261.
- Fish JE, Santoro MM, Morton SU, et al. miR 126 regulates angiogenic signaling and vascular integrity. Developmental Cell. 2008;15(2):272–284.
- Yemisci M, Gursoy Ozdemir Y, Vural A, et al. Pericyte contraction induced by oxidative nitrative stress impairs capillary reflow despite successful opening of an occluded cerebral artery. Nature Medicine. 2009;15(9):1031–1037.
- Jia M, Zhao X, Tong X, et al. No reflow after stroke reperfusion therapy: An emerging concept and future directions. Translational Stroke Research. 2024;15(1):1–14.
- Xin H, Li Y, Liu Z, et al. MiR 133b promotes neural plasticity and functional recovery after treatment of stroke with multipotent mesenchymal stromal cells in rats via transfer of exosome enriched particles. Stem Cells. 2013;31(12):2737–2746.
- Ye P, Carson J, D’Ercole AJ. In vivo actions of insulin like growth factor I on brain myelination in transgenic mice. Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA. 1995;92(25):11858–11862.
- Watzlawik JO, Wootla B, Warrington AE, et al. PDGF is required for remyelination promoting IgM mediated OPC proliferation. PLOS ONE. 2013;8(2):e55149.
- Le Blanc J, Fleury S, Boukhatem I, et al. Platelets selectively regulate the release of BDNF, but not that of its precursor proBDNF. Frontiers in Immunology. 2020;11:575607.
- Chen J, Chopp M. Exosome therapy for stroke. Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism. 2018;38(12):2117–2131.
- Herman S, Grønning Hansen P, Tokar S, et al. Intranasal delivery of mesenchymal stem cell derived extracellular vesicles for central nervous system diseases. Stem Cells. 2021;39(10):1320–1330.
- Dahiya N, Sarachana T. Platelet microRNAs: An overview. Platelets. 2018;29(4):292–299.
- Keep RF, Hua Y, Xi G. Intracerebral hemorrhage: mechanisms of injury and therapeutic targets. Nature Reviews Neurology. 2012;8(12):711–721.
- Aronowski J, Zhao X. Molecular pathophysiology of cerebral hemorrhage: secondary brain injury. Stroke. 2011;42(6):1781–1786.
- Qureshi AI, Mendelow AD, Hanley DF. Intracerebral haemorrhage. The Lancet. 2009;373(9675):1632–1644.
本記事に関するご質問は、お問い合わせからご連絡ください。真剣なご相談には誠実に対応しますが、興味本位、いたずら、嫌がらせを目的とするお問い合わせには対応しません。ご了承ください。医療機関の方には技術のご紹介、患者の方には実施医療機関のご案内も可能です。
執筆者
■博士(工学)中濵数理
- 由風BIOメディカル株式会社 代表取締役社長
- 沖縄再生医療センター:センター長
- 一般社団法人日本スキンケア協会:顧問
- 日本再生医療学会:正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会:正会員
- 日本バイオマテリアル学会:正会員
- 公益社団法人高分子学会:正会員
- X認証アカウント:@kazu197508

