サイトアイコン 由風BIOメディカル株式会社

【アルツハイマー型認知症の概論】症状、原因、最新の治療法と予防策

【アルツハイマー型認知症の概論】
症状、原因、最新の治療法と予防策

アルツハイマー型認知症とは|本稿の目的

アルツハイマー型認知症は、記憶や認知機能が徐々に低下し、日常生活に大きな影響を及ぼす進行性の神経変性疾患です。



健康至高TOPへ戻る

この病気は、脳内に異常なタンパク質(アミロイドβやタウタンパク質)が蓄積することで神経細胞が破壊され、脳の働きが徐々に低下することによって発症します。初期段階では軽度の物忘れから始まりますが、進行するにつれて判断力の低下や言語障害、最終的には自立した生活が困難になることが特徴です。

日本では、アルツハイマー型認知症が認知症全体の約60~70%を占め、2023年時点での患者数は約420万人と推定されています。この数値は日本の総人口の約3.3%、65歳以上の高齢者人口の約12.3%に相当し、今後も高齢化の進行に伴い患者数が増加すると予測されています。

特に2025年には約675万人、2040年には800万人を超える可能性が指摘されており、これに伴い介護負担の増大、医療・社会保障費の増加、労働力不足などの社会問題が深刻化することが懸念されています。

アルツハイマー型認知症の進行を遅らせるためには、早期発見と適切な治療が不可欠です。現在、根本的な治療法は確立されていませんが、薬物療法や生活習慣の改善によって症状の進行を緩やかにすることが可能です。近年では、新しい治療薬の開発が進んでおり、早期診断の重要性がますます高まっています。

「年のせい」として見過ごされがちな記憶障害が、実はアルツハイマー型認知症の初期症状であることも少なくありません。そのため、正しい知識を持ち、適切な対応を取ることが、患者本人やその家族にとって最善の対策となります。アルツハイマー型認知症に関する最新情報を把握し、早期の対策を講じることで、より良い生活を維持することが可能です。

なお、アルツハイマー型認知症にはさまざまな種類や呼び方があります。例えば、「家族性アルツハイマー病」「早発性アルツハイマー病(若年性発症型)」「孤発性アルツハイマー病」「遅発性アルツハイマー病」「高齢発症型アルツハイマー病(老年性アルツハイマー病)」などです。

これらを科学的・厳密に分類することは難しいですが、本概論ではできるだけ分かりやすく整理するために、発症年齢の違いに注目した分類として「早発性アルツハイマー病」と「高齢発症型アルツハイマー病」を、遺伝的リスクの違いに注目した分類として「家族性アルツハイマー病(FAD:Familial Alzheimer’s Disease)」と「孤発性アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病:Sporadic Alzheimer’s Disease)」という表現を用いています。

※参考:(1)(2)(3)



アルツハイマー型認知症の主な症状

アルツハイマー型認知症は、初期の段階では「少し忘れっぽくなった」程度の変化から始まることが多く、加齢による自然な記憶力の低下と区別がつきにくいことがあります。しかし、この病気は単なる物忘れとは異なり、進行性の神経変性疾患であり、時間とともに症状が悪化していきます。

早期発見と適切な治療を行うことで進行を遅らせることが可能です。本稿では、アルツハイマー病の初期症状から進行時の影響まで、段階ごとに詳しく解説します。

 

[1] 初期症状(軽度認知障害 – MCI:Mild Cognitive Impairment)

アルツハイマー型認知症の初期症状は、「歳のせい」と見過ごされがちですが、以下のような兆候がある場合は注意が必要です。

[2] 中期症状(顕著な認知障害 – Moderate Alzheimer’s Disease)

中期に入ると、患者本人よりも周囲が異変を強く認識するようになり、日常生活に支障をきたします。この段階では、介助が必要になることが増えてきます。

[3] 後期症状(高度な認知機能低下 – Severe Alzheimer’s Disease)

後期に入ると、脳の神経細胞が大きく破壊され、身体機能にも深刻な影響が現れます。この段階では、24時間の介護が必要となるケースがほとんどです。

■2. アルツハイマー型認知症の早期発見と適切な治療が重要

アルツハイマー型認知症の初期症状は、加齢による物忘れと見分けがつきにくいため、「単なる物忘れ」と「認知症の兆候」の違いを理解することが重要です。

特に、日常生活におけるミスの増加や会話の違和感が多くなった場合、早めに専門医に相談することが大切です。現在の医学では根本的な治療法は確立されていませんが、早期診断と適切な治療を行うことで症状の進行を遅らせ、生活の質(QOL:Quality of Life)を維持できる可能性があります。

アルツハイマー型認知症は進行性の疾患であり、初期症状が現れた際に適切な対応をとることが、本人だけでなく家族にとっても重要です。早期発見と治療を行うことで、患者さんの自立した生活を少しでも長く維持することが可能になります。

認知症のリスクを正しく理解し、専門医の診断や適切なケアを受けることで、より良い生活を送るための対策を講じましょう。



アルツハイマー型認知症の原因とリスク要因

アルツハイマー型認知症は、高齢化社会において急増している進行性の神経変性疾患です。この病気は、単なる加齢による記憶力の低下とは異なり、脳内の神経細胞がダメージを受け、徐々に思考力や判断力が失われていく特徴を持ちます。

発症の背景には、アミロイドβの蓄積やタウタンパク質の異常が関与しており、遺伝的要因や生活習慣の影響も無視できません。本章では、アルツハイマー型認知症の発症メカニズム、遺伝的・環境的リスク要因、そして予防策について詳しく解説します。

■1. アルツハイマー型認知症の主な発症メカニズム

アルツハイマー型認知症の発症には、アミロイドβの蓄積とタウタンパク質の異常という二つの主要因が深く関わっています。これらの変化が、神経細胞の損傷と脳機能の低下を引き起こします。

[1] アミロイドβの蓄積と脳への影響

アミロイドβは、アミロイド前駆体タンパク質(APP:Amyloid Precursor Protein)の分解過程で生成される物質です。特に複数種あるアミロイドβの一種であるアミロイドβ42は凝集しやすく、適切に排出されないと老人斑(アミロイドプラーク)を形成し、脳の神経細胞に悪影響を与えます。

1. ミクログリアの過剰な活性化

アミロイドβが過剰に蓄積すると、脳の免疫細胞であるミクログリアが活性化し、炎症を引き起こします。これが慢性的に続くことで、健康な神経細胞までダメージを受け、脳の神経ネットワークが破壊されていきます。

2. 酸化ストレスとミトコンドリア機能の低下

アミロイドβは、神経細胞のエネルギー生産を担うミトコンドリアにも影響を及ぼし、酸化ストレスを増加させます。これにより細胞のエネルギー供給が滞り、神経細胞の機能が低下していきます。

[2] タウタンパク質の異常リン酸化と神経細胞の破壊

タウタンパク質は、神経細胞内の微小管を安定化させ、細胞内輸送をサポートする重要な役割を担っています。しかし、異常なリン酸化が進むと、神経原線維変化(NFT:Neurofibrillary tangles)を形成し、細胞内輸送を阻害します。

1. 神経細胞の栄養供給が遮断される

NFTが増加すると、細胞内の栄養や情報の輸送が妨げられ、神経細胞が機能不全に陥ります。最終的には細胞死を引き起こし、脳の委縮を招きます。

■2. アルツハイマー型認知症のリスク要因

アルツハイマー型認知症の発症には、遺伝的要因と環境的要因(生活習慣)が関与しています。これらのリスク要因を把握することで、予防や進行の遅延が可能になります。

[1] 遺伝的リスク要因

アルツハイマー型認知症には、家族性アルツハイマー病と孤発性アルツハイマー病の2種類があり、特定の遺伝子変異が発症リスクを高めることが分かっています。

1. APP(Amyloid Precursor Protein)遺伝子の変異
2. APOE(Apolipoprotein E)-ε4遺伝子と発症リスク

[2] 生活習慣と発症リスクの関係

アルツハイマー型認知症の発症リスクは、食生活・運動・糖代謝・睡眠の質と深く関連しています。

1. 食生活と認知症リスク
2. 運動習慣と脳の健康
3. 睡眠不足とアルツハイマー型認知症の関係

[3] 社会的・精神的要因

社会的な交流の欠如や心理的ストレスも、アルツハイマー型認知症の発症リスクを高める要因です。

1. 社会的孤立がもたらす影響

[4] 脳血管障害と認知症

脳血管障害は、アルツハイマー型認知症の進行を加速させるリスク要因の一つです。

1. 高血圧や糖尿病との関連

■3. アルツハイマー型認知症のリスクを低減するために

アルツハイマー型認知症の発症には、遺伝的要因と生活習慣の影響が複雑に絡み合っています。しかし、適切な生活習慣を維持することで、発症リスクを軽減し、症状の進行を遅らせることが可能です。

これらの対策を意識することで、健康的な脳を長く維持することができます。

※参考:(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)



アルツハイマー型認知症の診断方法

アルツハイマー型認知症の診断は、できるだけ早期に確定することが重要です。現在の治療薬は、認知機能の低下を遅らせる効果はあるものの、一度損傷した神経細胞を回復させることはできません。そのため、発症初期に診断を受け、適切な治療や生活習慣の改善を始めることが、患者さんのQOLを維持するための重要なポイントです。

例えば、軽度認知障害(MCI)の段階で、レカネマブやドナネマブといった疾患修飾薬(DMTs: Disease-Modifying Therapies)を使用することで、認知機能の低下速度を約27%遅らせることが報告されています。一方で、病状が中等度や重度に進行すると、薬剤の効果は大幅に低下し、治療選択肢が限られてしまうため、早期発見・早期介入が不可欠です。

また、診断が早ければ、認知症の進行を遅らせるための生活習慣の見直しや、脳を活性化させる認知リハビリテーションを開始できるため、長期的な自立した生活の維持につながります。こうした早期診断の重要性は、多くの研究で示唆されており、発症後のQOLを左右する要因となります。

アルツハイマー型認知症の診断には、DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 5 edition:精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)やNIA-AA(National Institute on Aging-Alzheimer’s Association:米国国立老化研究所-アルツハイマー協会)の診断基準が使用されます。これらの基準に基づき、複数の検査を組み合わせて総合的に診断を行うことが一般的です。

■1. アルツハイマー型認知症の診断プロセス|正確な評価のための5つの検査

アルツハイマー型認知症の診断は、単一の検査で確定するものではなく、以下の5つの診断方法を組み合わせて総合的に判断します。

[1] 問診・病歴聴取(本人および家族からの情報収集)

医師が、患者さん本人やご家族から記憶障害の有無や日常生活への影響を詳しく聞き取ります。特に、初期段階では以下のような症状が見られることが多いため、これらの兆候に注意が必要です。

[2] 神経心理学的検査(認知機能テスト)

HDS-R(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised:長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)、MoCA(Montreal Cognitive Assessment:モントリオール認知評価)といった認知機能テストを実施し、記憶力・注意力・言語能力・視空間認識能力を評価します。これにより、認知症の進行度を数値化し、診断の精度を高めることができます。

[3] 画像診断(MRI・CT・PET・SPECT)

脳の萎縮や異常を調べるために、MRIやCTスキャンを活用します。特に、アルツハイマー型認知症では「海馬」が縮小することが特徴的なため、MRIによる詳しい検査が診断のポイントになります。また、近年、アミロイドβやタウタンパク質の蓄積を直接確認できるPETや、脳の血流の変化を調べるSPECTによる診断も大いに期待されています。

[4] バイオマーカー検査(脳脊髄液検査・血液バイオマーカー検査)

アルツハイマー型認知症の主な病理的要因であるアミロイドβやタウタンパク質の蓄積を測定するため、脳脊髄液(CSF)検査や血液バイオマーカー検査が行われます。これにより、アルツハイマー型認知症の確定診断をより精密に行うことが可能になります。

[5] 遺伝子検査(家族性アルツハイマー病のリスク評価)

家族性アルツハイマー病のリスク評価のために、APP遺伝子、PSEN1(presenilin-1)遺伝子、PSEN2(presenilin-2)遺伝子の変異を調べることがあります。また、APOE-ε4遺伝子を持つ人は、一般的にアルツハイマー型認知症の発症リスクが高いことが分かっています。

■2. 早期診断のメリット|認知症の進行を抑えるために

アルツハイマー型認知症は、初期の段階では「単なる加齢による物忘れ」と見過ごされがちですが、初期兆候を見逃さず、早期診断を受けることで生活の質を大きく向上させることができます。

[1] 早期治療の開始

早期に診断を受けることで、疾患修飾薬(DMTs)などの最新の治療を適用できる可能性が高まります。

[2] 生活習慣の見直し

食事・運動・睡眠といった生活習慣を改善することで、認知機能の維持をサポートできます。特に、地中海式食事・DASH食・定期的な有酸素運動(ウォーキングや水泳)・良質な睡眠の確保が、アルツハイマー型認知症のリスク軽減に有効であることが示唆されています。

[3] 認知リハビリテーションの実施

認知機能を維持するために、脳トレーニングやリハビリテーションを早期に導入することで、症状の進行を遅らせる効果が期待できます。

※参考:(12)

■3. 神経心理学的検査(認知機能テスト)

アルツハイマー型認知症の早期発見は、症状の進行を遅らせ、QOLを維持するために極めて重要です。特に軽度認知障害(MCI)の段階で適切な診断を受けることで、治療や認知症予防の対策を早期に開始できます。そのため、医療機関では認知機能テストを用いて脳の状態を詳細に評価します。

以下では、アルツハイマー型認知症の診断に広く活用されている長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、モントリオール認知評価(MoCA)の特徴や評価基準について詳しく解説しています。

[1] 主な認知機能テスト

1. 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
2. ミニメンタルステート検査(MMSE)
3. モントリオール認知評価(MoCA)

■4. 画像診断とバイオマーカー検査

アルツハイマー型認知症は、脳の構造変化や病理的異常を伴う進行性の神経変性疾患です。早期発見・早期診断が極めて重要であり、画像診断とバイオマーカー検査を組み合わせることで、より正確な評価が可能になります。

本項では、MRIやPET、脳脊髄液(CSF:Cerebrospinal fluid)検査など、最新のアルツハイマー型認知症診断技術について詳しく解説します。

[1] 画像診断:アルツハイマー型認知症の脳内変化を可視化

画像診断は、脳の萎縮や異常タンパク質の蓄積を客観的に評価する手法です。代表的な画像診断法として、以下の4つが挙げられます。

  1. MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像):脳の萎縮や構造変化を高精度で観察
  2. CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影):脳の全体的な構造変化を可視化
  3. PET(Positron Emission Tomography:陽電子放出断層撮影):アミロイドβやタウタンパク質の蓄積を評価
  4. SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography:単光子放射断層撮影):脳血流の変化を測定し、異常を検出

これらの技術を駆使することで、アルツハイマー型認知症の早期診断が可能となり、症状の進行を抑える治療戦略を立てることができます。

1. MRI:海馬萎縮を評価

MRIは、アルツハイマー型認知症の診断において最も重要な検査の一つです。特に海馬の萎縮が病気の進行と強く関連しており、MTAスコア(Medial Temporal Atrophy Score)を用いて評価します。

また、VSRAD(Voxel-Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer’s Disease)と呼ばれるMRI解析ツールを活用することで、脳の萎縮を数値化し、客観的な診断が可能になります。

2. CT:鑑別診断に有効

CTは、MRIと比較すると解像度は低いものの、短時間で撮影できるため、脳血管性認知症や脳腫瘍との鑑別に役立ちます。

MRIと併用することで、診断の精度が向上します。

3. PET:異常タンパク質の蓄積を可視化

PETは、脳の代謝異常や病理的変化を直接観察できる先進的な画像診断技術です。アルツハイマー型認知症の診断において、以下の3種類のPETが使用されます。

  1. FDG-PET(ブドウ糖代謝):神経細胞のエネルギー消費を測定し、活動低下を検出
  2. アミロイドPET:アミロイドβの蓄積を可視化し、診断精度を向上
  3. タウPET:タウタンパク質の蓄積状況をリアルタイムで評価

特に、アミロイドPETとタウPETを組み合わせると、強力な診断ツールになります。

4. SPECT:脳血流の変化を測定

SPECTは、脳血流の低下を測定し、病気の進行度を評価するのに適しています。アルツハイマー型認知症では、特に側頭葉と頭頂葉の血流低下が顕著に見られるのが特徴です。

[2] バイオマーカー検査:血液や脳脊髄液を用いた診断

画像診断と併用して、バイオマーカー検査を実施することで、より正確なアルツハイマー型認知症の診断が可能になります。

1. 脳脊髄液(CSF)検査

脳脊髄液を採取し、アミロイドβやタウタンパク質の異常を測定することで、アルツハイマー型認知症の確定診断に役立ちます。

2. 血液バイオマーカー検査

近年の研究により、血液中のバイオマーカーを活用した診断が可能になりつつあります。

特にp-tau217は、PETスキャンと同等の診断精度を持つ可能性が示されており、今後の研究によって診断の主流となることが期待されています。

■5. アルツハイマー型認知症の確定診断

アルツハイマー型認知症の診断には、単独の検査だけで確定することは難しく、複数の診断技術を組み合わせることで精度を高める必要があります。MRIやPETを活用した画像診断、認知機能テスト、バイオマーカー検査を組み合わせることで、より正確な診断が可能となります。

特に、アミロイドPETやタウPETといった最新の診断技術を活用することで、病理学的な変化を直接可視化し、早期診断につなげることが期待されています。

[1] 診断技術の組み合わせ事例

アルツハイマー型認知症の診断では、臨床診断(問診・認知機能テスト)と生物学的診断(画像診断・バイオマーカー検査)を組み合わせることが標準的なアプローチとなっています。それぞれの診断手法が果たす役割について解説します。

1. 認知機能テスト(HDS-R、MMSE、MoCA)+ MRI
2. 認知機能テスト(MMSE、MoCA)+ PET(アミロイドPET)
3. 画像診断(MRI)+ バイオマーカー検査(脳脊髄液検査または血液バイオマーカー)

[2] 最も精度の高い診断技術の組み合わせ

現在、アルツハイマー型認知症の診断精度を最大限に高めるためには、以下の検査を組み合わせることが推奨されています。

1. 認知機能テスト(MMSE、MoCA)+ 画像診断(PET+MRI)+ バイオマーカー検査(脳脊髄液または血液バイオマーカー)

[3] アルツハイマー型認知症診断技術の今後展望

近年では、血液バイオマーカーの開発が進んでおり、非侵襲的にアルツハイマー型認知症を診断できる可能性が高まっています。特に、p-tau217やGFAP(グリア線維酸性タンパク質)といったバイオマーカーは、アミロイドPETと同等の診断精度を持つことが示唆されています。

これにより、早期発見のハードルが下がり、より多くの患者が適切な治療を受けられる環境が整うと期待されています。

今後も診断技術の進化が続くことで、より正確かつ早期のアルツハイマー型認知症診断が可能になり、適切な治療と予防策の選択肢が広がるでしょう。 最新の診断方法についての情報を常にアップデートし、最適な検査を受けることが重要です。

■6. 遺伝子検査によるアルツハイマー型認知症のリスク評価

遺伝子検査は、アルツハイマー型認知症の発症リスク評価や、特定のケースにおける診断の補助として活用されています。特に、家族性アルツハイマー病では、特定の遺伝子変異が発症の直接的な原因となることが確認されており、家族性アルツハイマー病の疑いがある場合には、遺伝子検査が確定診断の一助となる可能性があります。

一方で、大多数のアルツハイマー型認知症は孤発性アルツハイマー病であり、発症には遺伝要因と環境要因の複合的な影響 が関与しています。そのため、遺伝子検査のみでは確定診断を下すことはできず、脳画像診断やバイオマーカー検査と組み合わせた総合的な評価が重要とされています。

[1] アルツハイマー型認知症と関連する主要な遺伝子

アルツハイマー型認知症に関連する遺伝子は、家族性アルツハイマー病と孤発性アルツハイマー病にそれぞれ分類されます。

1. 家族性アルツハイマー病と関連する遺伝子

家族性アルツハイマー病は、65歳未満で発症する早発性アルツハイマー病の約10% を占め、全アルツハイマー型認知症の約1%未満と極めてまれなタイプです。このタイプは常染色体優性遺伝をとるため、特定の遺伝子変異を持っていると発症リスクが極めて高いことが特徴です。主に以下の3つの遺伝子が関与しています。

2. 孤発性アルツハイマー病と関連する遺伝子

大半のアルツハイマー型認知症は、65歳以降に発症する高齢発症型アルツハイマー病であり、発症には複数の遺伝要因が関与しています。中でも、最も重要な遺伝子としてAPOEが知られています。

[2] 遺伝子検査の役割と診断基準

遺伝子検査の目的は、対象となる患者によって異なるため、慎重な判断が求められます。

1. 確定診断としての活用(家族性アルツハイマー病)

早発性アルツハイマー病の患者や、家族内に家族性アルツハイマー病の発症歴がある場合には、APP、PSEN1、PSEN2の変異を特定することで診断の補助とすることができます。

2. リスク評価としての活用(孤発性アルツハイマー病)

[3] 遺伝子検査のメリットとデメリット

1. メリット
2. デメリット

このように、アルツハイマー型認知症の遺伝子検査は、家族性アルツハイマー病の確定診断には有用ですが、孤発性アルツハイマー病の診断には決定打にはなりません。特に、APOE-ε4は発症リスクの目安にはなるものの、生活習慣や環境要因の管理が重要であり、遺伝子検査だけに依存することは推奨されていません。

※参考:(13)(14)(15)(16)(17)(18)



最新のアルツハイマー型認知症の治療法と進展

アルツハイマー型認知症は、進行性の神経変性疾患であり、記憶障害や認知機能の低下、日常生活能力の喪失を引き起こします。現在、根本的な治療法(神経細胞の再生や完全な回復を目的とする治療)は確立されていませんが、疾患の進行を遅らせる治療法が年々進化しています。

近年の研究では、疾患修飾薬(DMTs)や対症療法薬の開発が進められ、認知症の早期診断と治療の重要性がますます高まっています。

■1. 2023年・2024年承認の最新治療薬

近年、アルツハイマー型認知症の治療分野では疾患修飾薬の進化が著しく、新しい抗アミロイドβモノクローナル抗体薬が開発されました。これにより、認知機能の低下速度を抑制する新たな治療の選択肢が広がっています。

[1] レカネマブ(商品名:レケンビ®)

レカネマブは、抗アミロイドβモノクローナル抗体に分類される疾患修飾薬で、脳内に蓄積したアミロイドβを除去することで病気の進行を遅らせます。臨床試験では、軽度認知障害(MCI)および軽度のアルツハイマー型認知症患者において、認知機能の低下速度を約27%抑制することが示されています。

1. 使用のポイント

[2] ドナネマブ(商品名:ケサンラ®)

ドナネマブもアミロイドβプラークを標的とする抗体薬で、アルツハイマー型認知症の進行を約35%抑制する効果が確認されています。レカネマブと同様に、アミロイドβの蓄積が確認された患者のみに適用され、事前の診断検査が必要です。脳浮腫や脳出血のリスクがあるため、慎重な経過観察が求められます。

■2. 既存の治療薬とその役割

現在、アルツハイマー型認知症の症状緩和を目的とした対症療法薬が広く使用されています。病気の進行を止めることはできませんが、認知機能の低下を遅らせ、QOLを向上させる効果が期待されています。

[1] コリンエステラーゼ阻害薬

[2] NMDA(N-Methyl-D-Aspartate)受容体拮抗薬

■3. 未来のアルツハイマー型認知症治療 – 再生医療の可能性

アルツハイマー型認知症の治療において、再生医療の研究も進められています。特に、ヒト血小板溶解液(HPL:Human platelet lysate)やiPS細胞を活用した神経細胞再生が注目されています。

[1] ヒト血小板溶解液(HPL)を用いた再生医療

[2] iPS細胞を活用した治療

■4. アルツハイマー型認知症治療薬の今後の展望

今後のアルツハイマー型認知症治療は、早期診断・早期治療がカギとなります。特に、疾患修飾薬(DMTs)のさらなる発展、再生医療の進展、AIを活用した診断技術の向上が期待されていますが、以下のポイントを「今できること」として実践することが大切です。

  1. 定期的な認知機能検査(HDS-R、MMSE、MoCA)を受ける
  2. 生活習慣の見直し(地中海式食事、適度な運動、社会活動)
  3. 早期診断のための画像診断・バイオマーカー検査の活用

アルツハイマー型認知症の治療は日々進化しています。最新の医療情報を把握し、適切な治療を選択することが、より良い未来につながるのです。

※参考:(19)(20)



アルツハイマー型認知症の予防策|科学的根拠に基づく対策と最新の研究

アルツハイマー型認知症の発症リスクを低減し、認知機能の低下を遅らせるためには、日常生活の中で脳の健康を意識したライフスタイルを取り入れることが重要です。

最新の研究では、遺伝的要因だけでなく、食生活や運動習慣、知的活動、社会的交流といった生活習慣が、アルツハイマー型認知症の発症に深く関与していることが明らかになっています。特に、適切な運動や食生活の改善、積極的な知的活動やコミュニケーションの維持は、認知症予防のカギとされています。

本章では、科学的なエビデンスに基づいた効果的なアルツハイマー型認知症予防策について詳しく解説します。

■1. 運動習慣の確立|脳血流の改善と神経細胞の保護

適度な運動は、アルツハイマー型認知症の予防に最も効果的な習慣の一つとされています。週3回以上の有酸素運動を行うことで、認知症の発症リスクが約31%低下することが研究で示唆されています。

[1] 運動が脳に与える主なメリット

[2] 推奨される運動メニュー

週に150分以上の運動を目標に、無理なく継続することが重要です。

■2. 食生活の最適化|脳を守る抗酸化作用と栄養バランス

食事はアルツハイマー型認知症のリスクを左右する重要な要素です。特に、抗酸化作用の高い食品を取り入れた「地中海式食事」や「DASH食」が、認知機能の低下を抑える可能性が示唆されています。

[1] 脳を守る栄養素と食品

[2] 推奨される食事スタイル

加工食品や糖質の過剰摂取を避けることで、脳の健康維持が期待できます。

■3. 知的活動の継続|脳の可塑性を維持し認知機能を強化

脳を積極的に使うことで、アルツハイマー型認知症の発症リスクを低減できる可能性があります。知的活動を行うことで、神経ネットワークが強化され、シナプスの結合が促進されることが研究で示唆されています。

[1] 推奨される知的活動

多様な知的活動を組み合わせることで、より効果的な認知機能維持が期待されます。

■4. 社会的交流の維持|孤独を防ぎ、認知機能低下を予防

孤独や社会的な孤立は、認知症の発症リスクを大幅に高める要因の一つとされています。特に、定期的な対話や交流がある高齢者は、認知機能の低下が遅いことが研究で示されています。

[1] 社会的交流の主なメリット

[2] 推奨される社会的活動

定期的な交流を続けることで、認知機能の維持やアルツハイマー型認知症のリスク低減が期待できます。

■5. 予防策の実践が認知症リスクを低減

アルツハイマー型認知症の予防には、運動・食生活・知的活動・社会的交流の4つの柱が重要です。最新の研究でも、生活習慣の改善が認知機能の維持に大きく貢献することが示唆されています。今日からできることを取り入れ、脳の健康を守りましょう。

※参考:(21)



まとめ|アルツハイマー型認知症の症状・原因・治療法・予防策を総括

アルツハイマー型認知症は、記憶や認知機能が徐々に低下し、日常生活に深刻な影響を及ぼす進行性の神経変性疾患です。主な原因は、脳内に蓄積するアミロイドβやタウタンパク質が神経細胞を損傷・破壊することとされています。初期には物忘れや判断力の低下が見られ、中期になると日常生活への支障が顕著になり、最終的には言語能力や身体機能も著しく低下します。

診断には、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)、モントリオール認知評価(MoCA)などの認知機能テスト、MRI・CT・PET・SPECTといった画像診断、さらに脳脊髄液検査や血液バイオマーカー検査が用いられます。特にPET検査では、アミロイドβやタウタンパク質の蓄積を可視化でき、脳脊髄液検査ではタンパク質レベルの測定が可能なため、早期診断に有効とされています。

現在、アルツハイマー型認知症の治療は「疾患修飾薬(DMTs)」と「対症療法薬」に大別されます。疾患修飾薬(DMTs)は病気の進行を抑制することを目的とし、2023年にはレカネマブ(レケンビ®)が米国FDAおよび日本で承認され、軽度認知障害(MCI)や軽度アルツハイマー型認知症において進行を抑える効果が示されています。同年、ドナネマブ(ケサンラ®)も米国で承認されましたが、日本での承認は未定です(2024年3月時点)。

一方、コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト®、レミニール®、イクセロン®)やNMDA受容体拮抗薬(メマリー®)は、記憶力や思考力の維持に一定の効果を持つものの、根本的な治療には至っていません。

アルツハイマー型認知症の発症リスクを低減するためには、生活習慣の改善が重要です。予防策として、週150分以上の有酸素運動や筋力トレーニングが推奨されており、適度な運動は脳の血流を促進し、神経細胞を保護する効果があります。また、地中海式食事やDASH食など、抗酸化作用の高い食品を取り入れることも認知機能の維持に役立つとされています。

さらに、読書やパズル、楽器演奏などの知的活動、友人や家族とのコミュニケーションを継続することも、認知症リスクの軽減につながると考えられています。睡眠の質の向上や高血圧・糖尿病などの生活習慣病の管理も、認知症の発症を予防する要因として注目されています。

再生医療の分野でも新たな治療法の研究が進められています。HPL(Human platelet lysate)は、神経細胞の修復を促進する可能性があり、一部の医療機関では、HPLを改良したPCP-FD®が臨床研究目的で自由診療枠として提供されています。また、iPS細胞を用いた治療は、損傷した神経細胞を再生する技術として研究が進んでおり、今後の実用化が期待されています。

アルツハイマー型認知症は、高齢化が進む社会において深刻な課題の一つです。早期診断と適切な治療、さらに予防策を実践することで、患者さんのQOLを維持し、認知症の進行を遅らせることが可能です。今後、研究の進展により、より効果的な治療法や予防策が確立されることが期待されています。



本稿の内容につきまして、お気軽にお問い合わせください。但し、真摯なご相談には誠実に対応いたしますが、興味本位やいたずら、嫌がらせ目的のお問い合わせには対応できませんので、ご理解のほどお願いいたします。

執筆者

■博士(工学)中濵数理

健康至高|アルツハイマー型認知症の関連記事一覧

ページTOPへ戻る

モバイルバージョンを終了