パーキンソン病とは?寿命や治療薬、治った人の事例、有名人について解説

パーキンソン病とは?寿命や治療薬、治った人の事例、有名人について解説

■1. はじめに

パーキンソン病は、中高年に多く見られる神経変性疾患で、主に手足の震えや筋肉のこわばり、動作の遅れなどの症状が特徴です。本稿では、パーキンソン病の寿命への影響、治療薬、治った人の事例、そしてこの病気と闘った有名人について詳しく解説します。



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■2. パーキンソン病とは?

パーキンソン病は、脳内のドーパミンを産生する神経細胞が減少し、変性・消失することで発症する病気です。ドーパミンは運動機能を調整する役割があり、その減少により運動障害が引き起こされます。

(1) 主な症状

  • 振戦(しんせん):手や足の震え
  • 固縮(こしゅく):筋肉のこわばり
  • 無動(むどう):動作の遅れ
  • 姿勢反射障害:バランスを取るのが難しくなる
  • 自律神経障害:便秘や低血圧、発汗異常などの症状



■3. パーキンソン病と寿命の関係

パーキンソン病は直接的に寿命を縮める病気ではありません。しかし、病状が進行すると転倒や誤嚥性肺炎などのリスクが高まり、寿命に影響を及ぼす可能性があります。

(1) 寿命に影響する要因

  • 病気の進行度 – 初期段階での適切な治療が重要
  • 治療薬の使用状況 – 適切な薬物治療で生活の質を維持できる
  • 合併症の有無 – 誤嚥性肺炎や骨折がリスク要因
  • 生活習慣の管理 – 運動や食事管理で進行を遅らせることが可能

(2) 平均寿命

一般的に、適切な治療を受けていれば、パーキンソン病の患者の平均寿命は健常者と大きく変わらないとされています。ただし、病状の進行度や合併症の有無によって異なり、病状の進行度と合併症には一定程度の相関があります(合併症が寿命に影響することはあり得ます)。

パーキンソン病の主な合併症には、運動症状に加えて、非運動症状が多く含まれます。まず、認知機能の低下やパーキンソン病認知症が挙げられ、記憶力や判断力の低下、幻覚・妄想が見られることがあります。

精神症状として、うつ病や不安障害も発症しやすく、気分の落ち込みや意欲低下が問題となります。さらに、自律神経障害が生じることが多く、便秘や排尿障害、起立性低血圧(立ちくらみ)、発汗異常などがみられます。

睡眠障害も頻繁に起こり、レム睡眠行動異常(夢を見ながら体が動く)、日中の過度の眠気、不眠などが患者の生活に影響を与えます。嗅覚障害も初期からみられることが多く、においを感じにくくなることがあります。

痛みや感覚異常も合併症の一つで、筋肉や関節の痛み、しびれを訴える患者もいます。運動症状としては、すくみ足や転倒しやすさが進行することで骨折のリスクが高まるため、転倒予防が重要です。

また、長期間の薬物治療により、ジスキネジア(自分の意思とは無関係に体がくねくねと動く異常運動)やウェアリングオフ(薬の持続時間が短くなる現象)も発生し、日常生活に支障をきたします。

これらの合併症は患者のQOL(生活の質)に大きく影響するため、適切な治療やリハビリ、生活習慣の改善が必要となります。



■4. パーキンソン病の治療薬

(1) レボドパ(L-dopa)

最も広く使用されている薬で、脳内でドーパミンに変換されることで症状を改善します。ただし、長期間の使用によって効き目が低下し、運動の変動(オン・オフ現象)が生じることがあります。

(2) ドーパミンアゴニスト

ドーパミン受容体を刺激することで、ドーパミンの働きを補う薬です。レボドパよりも効果が持続しやすいですが、副作用として幻覚や眠気が現れることがあります。

(3) MAO-B阻害薬

ドーパミンの分解を抑え、脳内のドーパミン量を増やす薬です。初期の治療や他の薬と併用されることが多いです。MAO-B(Monoamine Oxidase B)は、モノアミン酸化酵素という脳内に存在する酵素の一種で、ドーパミンなどの神経伝達物質を分解してしまいます。

(4) COMT阻害薬

レボドパの分解を抑えることで、レボドパの効果を長持ちさせる薬です。主に中期以降の治療で使用されます。COM(Catechol-O-Methyltransferase Inhibitor )は、カテコール-O-メチル基転移酵素という脳内物質の一種で、レボドバを分解してしまいます。

(5) 抗コリン薬

震え(振戦)を抑える目的で使われることが多いですが、認知機能への影響があるため、高齢者には注意が必要です。

パーキンソン病では、ドーパミンが減少することでアセチルコリンとのバランスが崩れることが症状の一因となります。そのため、治療では認知機能低下などのリスクがあるものの、アセチルコリンの働きを抑える抗コリン薬が使われることがあります。

(6) ノルアドレナリン作動薬

抑うつや認知機能の低下を改善するための薬です。パーキンソン病ではノルアドレナリンが不足しやすく、立ちくらみや注意力の低下、うつ症状が起こることがあり、これを補うために使われます。但し、高血圧や動悸、不眠などの副作用があるため、慎重な使用が必要です。

なお、ノルアドレナリンとは、脳や体内で働く神経伝達物質の一つで、ストレスへの対応、血圧の調整、注意力や覚醒の維持などに関わります。交感神経を刺激して心拍数を上げたり、集中力を高めたりする役割を持っています。



■5. パーキンソン病が治った人はいるのか?

現在のところ、パーキンソン病を完全に治す治療法は確立されていません。しかし、適切な薬物療法やリハビリ、外科治療によって症状を大幅に改善した例は多数あります。

(1) DBS(脳深部刺激療法)

DBS(脳深部刺激療法) とは、パーキンソン病の症状を軽減するために、脳内の特定部位に電極を埋め込み、微弱な電気刺激を与える治療法です。これにより、運動障害(震え・こわばり・動作の遅れなど)を改善し、患者の生活の質(QOL)を向上させることが期待されます。

DBSは、進行したパーキンソン病で薬の効果が不安定な患者に有効な治療法ですが、手術が必要であり、認知機能への影響やバッテリー交換などのデメリットもあるため、その適応は慎重に判断されます。

・DBSのメリット
  • 薬の効果が不安定な「ウェアリングオフ」や「ジスキネジア」を軽減
  • 震えや筋肉のこわばりを改善し、日常生活がしやすくなる
  • レボドパの服用量を減らせる可能性がある
・DBSのデメリット・リスク
  • 外科手術が必要(出血、感染のリスク)
  • 言語障害や認知機能への影響(手術部位によっては記憶力や注意力に影響が出ることがある)
  • バッテリー交換が必要(充電式は10年以上、非充電式は約3~5年ごとに交換)
  • すべての症状に効果があるわけではない(歩行障害や姿勢反射障害には効果が少ない)
・DBSの適応
  • 薬が効きにくくなってきた進行期のパーキンソン病患者
  • レボドパに対する反応が良い人
  • 重い認知症や精神疾患がない人
  • 70歳以下が望ましい(高齢でも可能な場合あり)

(2) リハビリや生活習慣の改善で症状が緩和した例

  • 運動療法(ヨガ、ウォーキング、ストレッチ)が筋肉のこわばりを軽減
  • バランスの良い食事で栄養をしっかり摂取
  • ストレス管理が症状の進行を遅らせる



■6. パーキンソン病を公表した有名人

(1) マイケル・J・フォックス氏

  • 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズで有名な俳優
  • 1991年にパーキンソン病を診断されるが、その後も俳優活動を続ける
  • パーキンソン病の研究支援を行う財団を設立し、治療法の開発に貢献

1991年にパーキンソン病と診断され、1998年に公表しました。彼は ドーパミン補充療法(レボドパ) や深部脳刺激療法(DBS)などの標準治療を受けつつ、運動やリハビリにも取り組んでいます。

また、「マイケル・J・フォックス財団」 を設立し、幹細胞治療や遺伝子治療などの研究支援を積極的に行い、パーキンソン病の根本治療の研究開発に貢献しています。

(2) モハメド・アリ氏

  • 伝説的なボクサー
  • 1984年にパーキンソン病と診断されるが、その後も社会活動を続ける
  • 病気と闘いながら、スポーツを通じて多くの人に希望を与えた

1984年にパーキンソン病と診断されました。彼は 薬物療法(レボドパなどのドーパミン補充療法)を受けながら、定期的なリハビリや運動療法を実践し、進行を遅らせる努力をしていました。

彼は病気と闘いながらも積極的に公の場に姿を見せ、パーキンソン病の認知向上に貢献しました。晩年は症状が進行し、2016年に敗血症による合併症で亡くなりました。

(3) ビリー・コナリー氏

  • スコットランド出身のコメディアン
  • 2013年にパーキンソン病と診断されるも、その後もユーモアを忘れず活動を続ける
  • 病気との向き合い方を公表している

ビリー・コナリー氏は、2013年にパーキンソン病と診断されました。彼は薬物療法(レボドパなどのドーパミン補充療法)を受けながら、運動療法やリハビリを継続し、症状の進行を遅らせる努力をしてきました。

彼は2018年にスタンドアップコメディを引退しましたが、絵画活動やテレビ出演を続け、病気と前向きに向き合いながら創作活動を続けています。

(4) 永六輔(えい ろくすけ)氏

  • 日本のタレント、作詞家、放送作家
  • 晩年にパーキンソン病を公表し、2016年に83歳で亡くなりました

永六輔氏は、2010年にパーキンソン病と診断されました。 診断当初は、ろれつが回らず、字が書けない、足元がおぼつかないといった症状が見られましたが、適切な薬物療法により、スムーズに話せるようになるなど、症状の改善が見られました。

彼は、病気と向き合いながらも執筆活動やラジオ出演を続け、2016年に83歳で亡くなるまで精力的に活動を続けました。

(5) みのもんた氏

  • 日本のタレント、司会者
  • 2020年11月にパーキンソン病を公表し、現在も治療を続けています

みのもんた氏は、2019年にパーキンソン病と診断され、薬物療法(ドーパミン補充療法)を続けています。また、症状の進行を遅らせるために毎朝5時半に起床し、家の中を3000歩以上歩く など、積極的にリハビリテーションに取り組み、身体機能の維持に努めています。

彼は闘病生活を公表しながらも、前向きな姿勢を崩さず、日常生活の工夫を続けながら病気と向き合っています。



■7. まとめ

パーキンソン病は寿命を直接縮める病気ではありませんが、適切な治療が重要です。現在の治療法では、レボドパをはじめとする薬物療法やDBS(脳深部刺激療法)によって症状を大幅に改善することが可能です。

パーキンソン病を克服した有名人たちの事例もあり、適切な治療と前向きな姿勢が生活の質を向上させます。今後も研究が進み、新しい治療法が開発されることに期待が寄せられています。

パーキンソン病の治療に対する再生医療の可能性

パーキンソン病は、脳の黒質と呼ばれる部分の神経細胞が減少し、ドーパミンという神経伝達物質が不足することで、震えや筋肉のこわばり、運動の遅れなどの症状が現れる病気です。

現在の治療では、レボドパなどの薬物療法やDBS(脳深部刺激療法) が主に行われていますが、これらは症状を和らげるものであり、病気の進行を止めることはできません。そのため、根本的な治療を目指す「再生医療」 に大きな期待が寄せられています。

■1. iPS細胞を用いた治療

再生医療の中でも特に注目されているのがiPS細胞(人工多能性幹細胞) を使った治療です。iPS細胞とは、皮膚や血液の細胞を特殊な方法で初期化し、様々な種類の細胞に分化させることができる細胞です。

パーキンソン病では、このiPS細胞をドーパミン神経細胞に分化させ、脳に移植することで、失われたドーパミンの産生を回復させることを目指します。京都大学が、2018年にパーキンソン病患者へのiPS細胞由来ドーパミン神経細胞の移植手術を実施し、一定の安全性が確認されています。

■2. 幹細胞治療(ES細胞や間葉系幹細胞)

iPS細胞のほかにも、ES細胞(胚性幹細胞) や間葉系幹細胞を用いた治療が研究されています。ES細胞は受精卵から作られるため、非常に高い分化能力を持ちますが、倫理的な課題があり、広く実用化するには慎重な対応が求められています。

間葉系幹細胞は、骨髄や脂肪組織から採取でき、炎症を抑える効果も期待されているため、パーキンソン病の進行を遅らせる治療として研究が進められています。

■3. 血小板溶解物(ヒト血小板溶解物、HPL)

血液中の血小板から作られる調製液で、成長因子や抗酸化物質、細胞外小胞(EVs)を豊富に含んでおり、組織修復や神経細胞の再生を促す効果が期待されています。中でも、院内調剤試薬として開発されたPCP-FD®はこれら有効成分を通常のHPLより高濃度化することができます。

HPLやPCP-FD®の研究はまだ初期段階であり、臨床応用にはさらなる検証が必要とされています。しかし、iPS細胞や他の幹細胞を利用する再生医療より安価に提供でき、経鼻吸収(点鼻)等で安全に継続的に投与できるなどのアドバンテージがあります。

■3. 今後の展望

パーキンソン病に対する再生医療は、非常に期待されている治療法であり、すでに臨床試験が行われています。今後の研究が進めば、従来の薬物療法では実現できなかった根本的な治療につながる可能性があります。

ただし、1あるいは2を実用化するためには、コストや細胞の生着率などの課題を克服する必要があり、実用化にはまだ時間がかかると考えられています。とはいえ、再生医療の進展によって、パーキンソン病の治療が「症状を和らげる」ものから「根本的に改善する」ものへと変わる可能性があります。

さらなる研究が必要ですが、再生医療はパーキンソン病患者の未来を大きく変える新しい医療技術として大いに期待されています。



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執筆者

■博士(工学)中濵数理

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