認知症・アルツハイマー病・パーキンソン病などの新たな治療法:血小板由来成分の可能性

認知症・アルツハイマー病・パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症の新たな治療法:血小板由来成分の可能性

■1. はじめに

認知症や神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症)は、世界的に増加傾向にあり、新たな治療法の確立が急務となっています。最新の研究では、血小板由来成分(血小板溶解物)が、これらの疾患に対して有望な治療効果をもたらすことが示唆されています。



パーキンソン病概論へ戻る

参考文献:Cellular and Molecular Life Sciences (2022) 79:379

血小板には、成長因子(PDGFBDNFVEGFIGF-1EGF)や抗酸化物質(SODCATグルタチオンペルオキシダーゼ)、細胞外小胞などが豊富に含まれており、これらが神経保護、神経修復、炎症抑制に寄与することが確認されています。

本記事では、血小板由来成分が認知症や神経変性疾患にどのように作用し、新たな治療法として期待されているのかを解説します。

■2. 神経変性疾患における血小板由来成分の効果

(1) アルツハイマー病の進行抑制

アルツハイマー病は、脳内のβアミロイド蓄積が原因で神経細胞が損傷を受ける疾患です。これに対し、血小板由来成分には次のような効果が期待されます。

・シナプス機能の維持:BDNFやVEGFがシナプスの形成を促進し、記憶力の低下を抑制。
・βアミロイドの排出促進:神経炎症の抑制により、脳内の異常タンパク質の蓄積を防ぐ。

(2) パーキンソン病の神経保護

パーキンソン病は、ドーパミン神経の変性が原因で運動機能に障害をもたらす疾患です。これに対し、血小板由来成分には次のような効果が期待されます。

  • ドーパミン神経の保護:血小板由来の成長因子(IGF-1、VEGF)が神経細胞を保護。
  • 運動機能の回復促進:神経修復作用による運動機能の改善。
(3) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行抑制

ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)は、運動ニューロンが徐々に死滅する疾患で、現時点で有効な治療法が限られています。これに対し、血小板由来成分には次のような効果が期待されます。

  • 酸化ストレスの抑制:SODやCATなどの抗酸化物質が神経細胞の酸化ダメージを軽減。
  • 運動神経の保護:成長因子がニューロンの再生を促進し、疾患の進行を遅らせる。



■3. 認知症の予防と改善

認知症は加齢や神経変性により発症する可能性があり、血小板由来成分による以下の作用が期待されています。

  • シナプス機能の強化:BDNFやIGF-1が神経可塑性を向上させ、記憶力を維持。
  • 血流の改善:VEGFが脳の血流を促進し、認知機能低下を予防。
  • 炎症の抑制:TGF-βIL-4が神経炎症を抑え、神経変性の進行を防ぐ。



■4. 血小板由来成分の作用メカニズム

血小板由来成分が神経変性疾患や認知症の治療に役立つ理由には、以下のような作用機序が関与しています。

  • 神経細胞の修復:IGF-1やEGFが神経新生を促進し、神経ネットワークを回復。
  • 抗酸化作用:SODやCATが酸化ストレスを軽減し、神経細胞の損傷を防ぐ。
  • 血管新生の促進:VEGFが血管形成をサポートし、脳内の酸素供給を改善。



■5. 臨床研究と今後の課題

血小板由来成分の臨床応用には、現在、次のような課題が残されています。

  • 安全性と品質管理:血液製剤の安全性確保とウイルス・細菌の除去が必須。
  • 製造プロセスの標準化:均一な品質を維持するための製造基準の確立。
  • 最適な投与方法の確立:経鼻投与や髄腔内注射など、効果的な投与法の検討。



■6. ここまでのまとめ

血小板由来成分は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、認知症といった神経変性疾患に対する革新的な治療法として期待されています。

特に、神経保護、炎症抑制、血管新生促進、抗酸化作用といった多面的な効果が、従来の治療法にはない包括的な治療効果をもたらす可能性があります。

今後、さらなる臨床試験、安全性の確保、標準化された製造プロセスの確立が求められます。これらの課題を克服することで、血小板由来成分による治療法は、多くの患者にとって実用的かつアクセスしやすい治療選択肢となる可能性があります。



■院内調剤用試薬「PCP-FD®」の可能性

PCP-FD®は、患者自身の血小板や血漿成分を特別な方法で加工し、フリーズドライすることで製造される院内調剤用試薬です。この試薬を用いた薬液には、成長因子(PDGF、BDNF、VEGF、IGF-1、EGF)や抗酸化物質(SOD、CAT、グルタチオンペルオキシダーゼ)、細胞外小胞などが豊富に含まれています。

患者自身の成分を使用するため、ウイルス感染のリスクがほとんどなく、細菌汚染を防ぐための無菌試験エンドトキシン試験マイコプラズマ否定試験などの厳格な品質管理を経て出荷されるため、安全性が確保されています。

また、一般的なPRP療法(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿療法)と比較して、成長因子の濃度が10〜15倍と高く、安定した品質を維持するための基準も確立されています。

PCP-FD®の投与方法としては、経鼻投与(点鼻)が効果的と考えられます。鼻粘膜から吸収されることで血液脳関門(BBB:Blood-Brain Barrier)を突破し、脳へ直接作用することが可能だからです。

実際に医療機関で行われた臨床試験では、点鼻投与を受けた5名全員が明確な効果を実感したと報告されています。具体的には、親知らずに由来する歯痛が消失、生理痛の軽減、集中力の向上、血圧の改善(上160・下100から1週間で上120・下70に改善)、神経性慢性疼痛の軽減といった結果が得られています。

これらの結果は、PCP-FD®が院内調剤試薬として様々な症状に対して有望な治療選択肢となる可能性を示唆しています。今後、PCP-FD®が広く医療機関で採用されることで、患者の選択肢が広がり、より多くの人々の健康を支えることが期待されます。

PCP-FD®や血小板由来成分に関する学術的な質問は、お気軽にお問い合わせください。医療的なご相談については、正看護師が同席の上で対応いたします。また、PCP-FD®を導入している医療機関のご紹介も可能です。

真摯なご相談には誠実に対応いたしますが、興味本位やいたずら、嫌がらせ目的のお問い合わせには対応できませんので、ご理解のほどお願いいたします。

■用語集

■1. 成長因子

(1) PDGF(Platelet-Derived Growth Factor)

PDGF(血小板由来成長因子)は、血小板や結合組織に存在し、細胞の増殖や修復、血管新生を促進する成長因子です。創傷治癒や組織再生に重要な役割を果たし、神経や血管の修復、線維芽細胞の活性化を通じて組織の修復をサポートします。

(2) BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)

BDNF(脳由来神経栄養因子)は、神経細胞の成長・維持・修復を促進する重要な成長因子です。シナプス可塑性を高め、学習や記憶機能を向上させる役割を持ちます。アルツハイマー病やうつ病の治療研究にも注目されており、神経変性疾患の予防や回復に寄与する可能性があります。

(3) VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)

VEGF(血管内皮成長因子)は、新しい血管の形成(血管新生)を促進する成長因子です。組織の血流を改善し、酸素や栄養供給を増やすことで創傷治癒や組織修復を助けます。がんや糖尿病性網膜症などの病態にも関与し、神経変性疾患や虚血性疾患の治療研究でも重要視されています。

(4) IGF-1(Insulin-Like Growth Factor-1)

IGF-1(インスリン様成長因子-1)は、細胞の成長や分化を促進し、組織の修復や再生を助ける成長因子です。特に筋肉、神経、骨の発達に重要で、加齢による衰えを防ぐ役割もあります。脳機能の向上や神経保護作用があり、アルツハイマー病やパーキンソン病の研究でも注目されています。

(5) EGF(Epidermal Growth Factor)

EGF(上皮成長因子)は、細胞の成長や分裂を促進し、皮膚や粘膜の修復、創傷治癒を助ける成長因子です。特に、上皮細胞の再生を促すため、肌の若返りや傷の回復に重要な役割を果たします。また、神経細胞の保護や再生にも関与し、神経変性疾患の治療研究においても注目されています。

(6) TGF-β(TGF-β(Transforming Growth Factor-beta)

TGF-β(トランスフォーミング成長因子β)は、細胞の増殖、分化、免疫調節を担う成長因子です。炎症抑制や創傷治癒、線維化の調整に関与し、組織修復や免疫バランスの維持に重要な役割を果たします。また、神経保護作用があり、神経変性疾患やがん研究においても注目されています。

(6) IL-4(Interleukin-4)

IL-4(インターロイキン-4)は、免疫細胞の調節や抗炎症作用を持つサイトカインで、特にT細胞やB細胞の活性化を促進します。炎症を抑えつつ免疫バランスを整える働きがあり、アレルギー反応や自己免疫疾患の制御に関与します。また、組織修復や神経保護作用も示し、神経変性疾患の治療研究でも注目されています。

■2. 抗酸化物質

(1) SOD(Superoxide Dismutase)

SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)は、活性酸素を無害な物質に分解し、細胞の酸化ストレスを軽減する抗酸化酵素です。老化防止や炎症抑制に寄与し、神経変性疾患や動脈硬化の予防にも関与します。体内の抗酸化防御システムの重要な一部として、細胞の健康維持に不可欠な役割を果たします。

(2) CAT(Catalase)

CAT(カタラーゼ)は、過酸化水素を水と酸素に分解し、細胞を酸化ストレスから守る抗酸化酵素です。老化防止や炎症抑制に関与し、神経変性疾患や動脈硬化、がん予防にも重要な役割を果たします。体内の抗酸化防御機構の一部として、細胞の健康維持と損傷防止に貢献します。

(3) グルタチオンペルオキシダーゼ

グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx:Glutathione Peroxidase)は、過酸化脂質や過酸化水素を分解し、細胞を酸化ストレスから保護する抗酸化酵素です。特に、神経細胞や免疫系の健康維持に重要で、老化防止やがん、神経変性疾患の予防に関与します。セレン依存性の酵素であり、細胞膜の損傷防止や炎症抑制にも貢献します。

■3. 神経科学用語

(1) シナプス

シナプスは、神経細胞同士が情報を伝達する接合部であり、脳や神経系の機能に不可欠です。電気信号を化学信号に変換し、神経伝達物質を介して情報を伝えます。学習や記憶に深く関与し、シナプスの可塑性が認知機能の向上に影響を与えます。アルツハイマー病などの神経変性疾患では、シナプスの機能低下が認められています。

(2) ニューロン

ニューロン(神経細胞)は、脳や神経系の情報伝達を担う細胞で、電気信号と化学信号を用いて情報を伝えます。樹状突起、細胞体、軸索から構成され、シナプスを介して他のニューロンや筋細胞と接続します。記憶や学習、運動制御に不可欠であり、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患ではニューロンの機能低下が見られます。

(3) 血液脳関門(BBB:Blood-Brain Barrier)

血液脳関門(BBB)は、脳の毛細血管を構成する特殊な構造で、血液中の有害物質や病原体が脳に侵入するのを防ぎます。同時に、酸素や栄養素など必要な物質の選択的な輸送を行い、脳の恒常性を維持します。薬剤の脳内移行を制限するため、神経疾患治療の課題にもなっていますが、特定の投与法で突破可能な場合もあります。



パーキンソン病関連|人気記事一覧

  • 【パーキンソン病の概論】症状・原因・最新治療法・薬と効果的なリハビリ方法
    「パーキンソン病の概論」として、症状の進行や原因、最新の治療法、治療薬の効果を詳しく解説します。ドーパミン神経細胞の減少が主な要因とされ、振戦や筋固縮、無動などの症状が現れます。治療にはレボドパやDBS、再生医療が期待され、リハビリの継続がQOL向上に重要です。効果的な対策を学び、適切な治療を選択しましょう。

  • 脳卒中・アルツハイマー型認知症・パーキンソン病に挑む!再生医療の進歩と新治療法の可能性
    パーキンソン病やアルツハイマー型認知症、脳卒中後遺症などの神経変性疾患において、再生医療が新たな治療法として注目されています。血小板由来成分は神経修復や炎症抑制を促進し、脳機能回復を支援する可能性があります。「PCP-FD®」は高い安全性と有効性を兼ね備えた治療法として研究が進められ、神経疾患の革新的な治療選択肢となるでしょう。

  • パーキンソン病とは?寿命や治療薬、治った人の事例、有名人について解説
    みのもんたさんの死因について世間でパーキンソン病との関連が騒がれましたが、実際の直接的な死因ではありません。この病気はドーパミン不足により運動障害を引き起こす神経変性疾患で、治療にはレボドパやDBS(脳深部刺激療法)が用いられます。根治は困難ですが、再生医療が期待されています。モハメド・アリなど有名人も認知向上に貢献しました。

  • パーキンソン病とは?原因やなりやすい性格、初期症状を解説
    パーキンソン病は、ドーパミン神経細胞の減少による進行性の神経変性疾患で、几帳面で真面目な人が発症しやすいとされます。遺伝的要因や環境因子が関与し、初期症状には手の震えや動作の遅れ、筋肉のこわばりが現れます。現在、再生医療が注目され、神経細胞の修復を促す可能性が期待されており、根本治療法の確立に向けた研究が進んでいます。

  • 認知症・アルツハイマー病・パーキンソン病などの新たな治療法:血小板由来成分の可能性
    院内調剤用試薬「PCP-FD®」は、血小板由来成分を高濃度に含み、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患に対する新たな治療法として期待されています。成長因子や抗酸化物質が神経保護や炎症抑制、血流改善を促し、疾患の進行を抑制する可能性があります。シナプス機能の維持にも貢献し、予防法としての応用も注目されています。

執筆者

■博士(工学)中濵数理

ページTOPへ戻る