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再生医療解説|ヒト血小板溶解液系の点鼻投与がレビー小体型認知症改善に寄与する作用機序

再生医療解説|ヒト血小板溶解液系の点鼻投与がレビー小体型認知症の症状改善に寄与する作用機序

当社へ報告されている自由診療下の臨床所見「レビー小体型認知症」を踏まえ、ヒト血小板溶解液(HPL)を点鼻投与した場合における想定作用機序を既存の学術知見に基づいて整理します。

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レビー小体型認知症の病態

レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:DLB)は、αシヌクレインというたんぱく質が本来とは異なる立体構造(ミスフォールディング)をとって凝集し、レビー小体として神経細胞内にたまることを特徴とします【文献3】。

DLBでは、注意の変動(注意や覚醒レベルの上下動が大きい状態)、幻視(視覚性の幻覚)、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常が組み合わさって現れます【文献1】【文献2】。

病態の中核には、コリン作動系ドパミン作動系の不均衡、神経炎症と酸化ストレスの持続、血液脳関門(Blood–Brain Barrier:BBB)や神経血管ユニットの不安定化、そして間質クリアランス(脳内老廃物の排出機構)の低下があります【文献1】【文献11】【文献12】。

■1. αシヌクレインのミスフォールディングと凝集

αシヌクレインが誤った三次元構造(ミスフォールディング)をとり、線維化・凝集してレビー小体を形成すると、神経細胞の機能と生存が損なわれます【文献3】。

この変化は脳幹から皮質へ広がり、注意の変動幻視と関連します【文献1】【文献2】。

■2. 神経伝達系の不均衡

DLBではコリン作動系の低下が顕著で、視覚からの情報処理と注意の配分(視覚—注意ネットワーク)が不安定になります。

加えてドパミン作動系の変調が運動症状や精神症状の変動に影響します【文献1】【文献2】。

■3. 神経炎症と酸化ストレス

ミクログリアアストロサイトの反応が続くと、炎症性分子と活性酸素が増え、シナプス機能の低下と神経細胞の代謝障害が進みます【文献1】。

■4. 神経血管ユニットの変調と間質クリアランス低下

内皮細胞・ペリサイトアストロサイトが協調する神経血管ユニットが乱れると、BBBが不安定になり、血管周囲腔グリンパ系髄膜リンパ管による間質クリアランスが落ち、不要物がたまりやすくなります【文献11】【文献12】【文献1】。



ヒト血小板溶解液系の成分と特性

本稿でいう「ヒト血小板溶解液系」は、ヒト血小板溶解液(Human Platelet Lysate:HPL)を中核とし、その中に含まれる細胞外小胞(エクソソームを含む)、血小板由来微小粒子、さらに上流素材に当たる多血小板血漿(Platelet‑Rich Plasma:PRP)をひとまとめに扱う呼び方です。

ヒト血小板溶解液系には、抗酸化酵素群(カタラーゼ、スーパーオキシドディスムターゼなど)、成長因子(BDNF[脳由来神経栄養因子]、IGF‑1[インスリン様成長因子1]、PDGF[血小板由来増殖因子]、VEGF[血管内皮増殖因子]、EGF、TGF‑βなど)、そしてエクソソーム内包のmiRNAが多数ふくまれます【文献7】【文献8】【文献18】。

これらは作用が現れる時期に差があり、一般に抗酸化酵素 → 成長因子 → miRNAの順に効果が出やすいと考えられます【文献7】【文献10】。

このような分子レベルの複数の作用・変化が時間をかけて積み重なってくると、次第に、微小循環の改善や間質クリアランスの向上といった組織レベルの変化を確認できるようになります【文献11】【文献12】。



点鼻投与の脳内到達特性

ヒト血小板溶解液系に含まれるたんぱく質には、液中に遊離した状態で存在するものと、エクソソームに内包されて存在するものがあります。存在状態の違いによって、脳内への移行経路や移行効率は異なります。

遊離状態のたんぱく質は、点鼻後に嗅神経や三叉神経を通って血液脳関門を迂回し、分〜時間の単位で脳内に到達することが知られています【文献4】。しかし通常、たんぱく質の分子量が大きくなるほど移行効率は低下してしまいます(IGF-1のような比較的高分子量のたんぱく質が点鼻後に脳や脊髄に届くという例外事例も報告されてはいますが、これは限られた条件下での観察であり、高分子量たんぱく質全般に当てはまるとみなすことはできません【文献5】)。

一方、エクソソームに内包された成分は、高分子量たんぱく質であっても膜構造に守られて効率よく脳内へ移行し、到達後にはミクログリアに取り込まれることが報告されています【文献6】。



時系列でみる想定作用機序

■1. 第1段階:酸化ストレスの鎮静化と炎症反応の初期抑制

ヒト血小板溶解液系の抗酸化酵素が活性酸素の連鎖を抑え、酸化ストレスを短時間で下げます【文献7】【文献8】。同時に、点鼻で届いたエクソソーム由来成分がミクログリアの過剰反応を抑える方向に働き、炎症の広がりを早期に抑制します【文献6】【文献10】。

これらにより、受容体シグナル伝達とシナプス機能が働きやすい局所環境が整います【文献7】。

[1] 短期の注意点

DLBではコリン作動系の低下が背景にあり、初期に一部回路の活動が相対的に高まると神経伝達のバランスが一時的に崩れ、幻視(幻覚)の強さや出現頻度が増えることがあります。なお、このような傾向は、レボドパやコリンエステラーゼ阻害薬をはじめとする既存薬の使用時にも生じ得ます(用量や個々の病態差によって、症状の現れ方は大きく変わることが知られています【文献1】【文献2】)。

■2. 第2段階:成長因子によるシナプス機能と血管機能の改善

BDNFシナプス可塑性を維持し、視覚—注意ネットワークの信号効率を高めます【文献17】。IGF‑1は神経の生存と代謝を支え、ストレス下の神経を保護します【文献16】。PDGFペリサイトと内皮細胞の機能維持を促進し、BBBの安定化と毛細血管の機能回復に寄与します【文献14】【文献15】。

これらが重なって、神経血管ユニットとシナプスの働きが改善します【文献14】。

■3. 第3段階:miRNAによる遺伝子発現の再設定

エクソソームに内包されたmiRNAが細胞に取り込まれると、RISC複合体を介して標的mRNAの翻訳が抑えられ、炎症シグナル(例:NF‑κB経路)やタイトジャンクション関連遺伝子の発現バランスが整います【文献10】。

この調整により、慢性炎症の持続とBBBの不安定さが再び悪化しにくい状態へ近づきます【文献6】【文献10】。

■4. 第4段階:微小循環の改善と間質クリアランスの回復

毛細血管レベルの安定と拍動性が戻ると、血管周囲腔グリンパ系の流れが通りやすくなり、間質クリアランス(不要物の脳外排出)が進みます【文献4】【文献11】。

さらに、髄膜リンパ管の働きが整うと、脳脊髄液の排出と老廃物処理が高まり、信号対雑音比の低下(神経信号にノイズが混ざって処理効率が落ちる現象)を間接的に和らげる方向に働きます【文献12】【文献1】。

[1] 継続投与と症状変動の縮小という見方

短期の変化は、症状が突発的に悪化する形で表れることがあり、例えば、幻視の強さや出現頻度が一時的に増えることがあり得ます。

一方、継続投与によりmiRNAによる発現再設定と神経血管ユニットの安定化が定着すると、視覚—注意ネットワークなどの神経回路における興奮性と抑制のバランスが安定し、幻視の強さや出現頻度の変動が徐々に小さくなる可能性があります。



作用段階と病態の対応関係

以上のように、第1段階から第4段階までの作用は、それぞれ異なる病態の要素と対応しています。以下の表に、各作用段階とDLBの主要病態の対応を整理します。

想定作用機序の段階 主な作用内容 対応するDLBの病態 文献根拠
第1段階 抗酸化酵素による酸化ストレス低下、エクソソーム由来成分による炎症の初期抑制 神経炎症の持続、酸化ストレス増大 文献7】【文献8】【文献6】【文献10
第2段階 BDNF・IGF-1によるシナプス支援、PDGFによる内皮・ペリサイト機能維持とBBB安定化 シナプス機能低下、神経血管ユニット不安定化 文献17】【文献16】【文献14】【文献15
第3段階 miRNAによる炎症・関門関連遺伝子の再設定 慢性炎症の固定化、関門不安定の持続 文献10】【文献6
第4段階 微小循環回復と間質クリアランス改善(血管周囲腔グリンパ系髄膜リンパ管 老廃物滞留、信号対雑音比の低下(ノイズ混入) 文献4】【文献11】【文献12



まとめ

ヒト血小板溶解液系の点鼻投与は、抗酸化酵素による酸化ストレスの鎮静化、成長因子によるシナプス機能と血管機能の改善、miRNAによる遺伝子発現の再設定、そして微小循環と間質クリアランスの回復を通じて、DLBの病態に段階的に働きかける可能性があります【文献7】【文献14】【文献10】【文献11】。

短期には神経伝達のバランスが一時的に崩れて幻視の強さや出現頻度が増える局面があり得ますが、継続投与で発現調整と神経血管ユニットの安定化が進むと、症状の変動が小さくなり、総合的に改善へ向かう可能性があります。

なお、本稿の内容は前臨床研究と限られた臨床報告に基づく想定であり、効果の大きさや持続性をはじめとする多くの研究余地が残っています。

即ち、本稿はヒト血小板溶解液系の点鼻投与が、レビー小体型認知症の治療として確立していることを示しているわけではありません。期待値は高いもののの、今後も検証が不可欠である点にご留意ください【文献4】【文献5】【文献6】【文献7】。



専門用語一覧



参考文献一覧

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執筆者

■博士(工学)中濵数理

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